葬儀社の開業と労務|宿直・呼出待機・繁閑の労働時間と賃金設計

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
葬祭業を開業・運営するときの労働時間と賃金設計を、呼出待機や仮眠の労働時間該当性(三菱重工長崎造船所事件・大星ビル管理事件)、宿日直許可の要件、繁閑に使う変形労働時間制、深夜・休日の割増賃金で整理します。霊柩運送や火葬・墓地関連の許認可は行政書士、式場物件は不動産に、独立した事業体として別々にご契約いただく形で分けて振ります。
結論(先に要点):葬儀社の呼び出し待機や仮眠は、応答や出動の義務を負って使用者の指揮命令下にあれば、実作業がなくても労働時間です(三菱重工長崎造船所事件・最判平成12年3月9日、大星ビル管理事件・最判平成14年2月28日)。労働時間規制から外す「宿日直」は、常態としてほとんど労働の必要がない断続的業務について所轄労働基準監督署長の許可を得たときだけ認められます(労働基準法第41条第3号、同法施行規則第23条、昭和22年9月13日発基第17号)。繁閑の差は1か月単位の変形労働時間制(同法第32条の2)で均す設計が基本で、事業場外みなし(第38条の2)は即応待機のある葬祭業では使いにくいのが通常です。この記事では、葬儀社を開業・運営するときの労働時間と賃金設計の勘所を、社会保険労務士の業務目線で整理します。
「24時間いつ連絡が来るか分からない」「仮眠中も呼ばれるが、その時間は払うべきか」——葬祭業を始める、あるいは運営している経営者から、よくいただくご質問です。このページは、即応・呼出待機・深夜出動・繁閑差という葬祭業特有の働き方に向けて、待機時間の労働時間該当性、宿日直許可の考え方、変形労働時間制と割増賃金の設計を整理します。労働時間制度と賃金設計は社会保険労務士の業務で、霊柩運送や火葬・墓地関連の許認可、式場物件の手配は別の立場が担うため、その切り分けも最後にまとめます。
葬儀社の呼び出し待機や仮眠は、労働時間として扱う必要がありますか?
まず押さえるのは、「施設や自宅で待っているだけ」の時間でも、労働時間になり得るという点です。労働時間かどうかは、就業規則や呼び名ではなく、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているかという客観的な基準で決まります(三菱重工長崎造船所事件・最判平成12年3月9日)。
| 待機の形 | 労働時間になりやすいか | 考え方 |
|---|---|---|
| 事業所で仮眠し、搬送要請があれば直ちに出動する | なりやすい | 労働から離れることが保障されておらず、応答義務があれば手待時間として労働時間(大星ビル管理事件・最判平成14年2月28日) |
| 事業所で電話番をしながら待機する | なりやすい | 応答義務のある手待時間。実作業がなくても指揮命令下 |
| 自宅でオンコール(電話が来たら出動) | 事情による | 行動の自由がどの程度制約されるかで判断。出動時のみ労働時間とする設計もあるが、拘束の実態次第 |
| 完全に自由で、呼び出しも応答義務もない休憩 | なりにくい | 労働から解放されていれば労働時間ではない |
大星ビル管理事件では、ビル管理員の仮眠時間について、警報や電話に直ちに対応する義務があり仮眠室での待機が義務づけられていた以上、実作業がなくても労働時間に当たるとされました。葬祭業の仮眠・待機も、搬送や問い合わせへの即応を求めるなら同じ考え方になります。夜間待機の線引きは、障害福祉のグループホームでも同じ論点になります。詳しくはグループホームの夜勤と宿直は労務でまったく違うをご覧ください。
宿日直として労働基準監督署の許可を取れるのはどんな場合ですか?
待機や仮眠を労働時間規制から外したい場合に使うのが「宿日直」です。宿日直は、労働基準法第41条第3号(監視又は断続的労働に従事する者の適用除外)と同法施行規則第23条にもとづき、断続的な業務について所轄労働基準監督署長の許可(様式第10号)を受けたときだけ、法第32条の労働時間規制の適用を外せます。一般の許可基準は昭和22年9月13日発基第17号に示され、おおむね次の4点が前提です。
| 項目 | 一般の許可基準(発基第17号) |
|---|---|
| 業務内容 | 常態としてほとんど労働する必要のない勤務。本来業務は行わず、定時的巡視・緊急の電話や文書の収受・非常時待機などに限る |
| 手当 | 宿日直1回あたりの手当は、同種の労働者の賃金1人1日平均額の3分の1を下回らないこと |
| 回数 | 原則として宿直は週1回、日直は月1回が限度 |
| 睡眠 | 宿直には相当の睡眠設備を設けること |
ここで葬祭業に固有の難しさがあります。宿直の名目でも、夜間に搬送出動や遺族対応といった本来業務を頻繁に行う実態であれば、「常態としてほとんど労働の必要がない」という要件を満たさず、許可の対象になりません。その時間は労働時間として、深夜・時間外の割増賃金の対象になります。医療・介護での宿日直許可の具体的な線引きは医療・介護の宿日直許可は、どんな勤務なら取れるかに詳しくまとめています。許可の可否は所轄労働基準監督署が実態を踏まえて個別に判断します。
繁閑の差が大きい勤務に変形労働時間制やみなしは使えますか?
葬祭業は、施行が集中する時期とそうでない時期の差が大きい業種です。繁閑を労働時間に反映させるには、変形労働時間制が基本の選択肢になります。
| 制度 | 根拠 | 向く場面 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 1か月単位の変形労働時間制 | 労働基準法第32条の2 | 月内で繁閑がある。労使協定または就業規則等で定め、各日・各週の所定労働時間をあらかじめ特定する | 平均で週40時間以内。事前の特定が崩れると通常の時間外計算に戻る |
| 1年単位の変形労働時間制 | 労働基準法第32条の4 | 季節で繁閑がある。労使協定の締結・届出が必要 | 労働日数・連続労働日数・1日と1週の上限に制限がある |
| 事業場外みなし労働時間制 | 労働基準法第38条の2 | 外勤で労働時間の算定が困難なとき | 携帯電話等で随時指示でき待機が管理できる葬祭業では「算定が困難」とは言いにくく、原則使いにくい |
実務では、即応待機を抱える葬祭業で事業場外みなしを広く使うのは難しく、まず変形労働時間制で所定労働時間を設計し、それを超える部分を時間外として管理するのが堅実です。変形労働時間制とフレックスの使い分けは変形労働時間制とフレックスの選び方に整理しています。なお、霊柩車の運転者には自動車運転者の労働時間等の改善基準告示が別にかかる場合があり、その点は物流2024年問題と改善基準告示もあわせてご覧ください。
深夜・休日の出動が多い職場で割増賃金と手待ち時間をどう設計しますか?
深夜や休日の出動が多い葬祭業では、割増賃金の設計が賃金コストと未払いリスクの両方を左右します。労働基準法第37条の割増率は次のとおりです。
| 区分 | 割増率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 時間外労働(法定労働時間超) | 25%以上 | 労働基準法第37条第1項 |
| 時間外が1か月60時間を超えた部分 | 50%以上(中小企業も令和5年4月1日から適用) | 同条第1項ただし書 |
| 深夜労働(22時〜翌5時) | 25%以上 | 同条第4項 |
| 法定休日労働 | 35%以上 | 同条第1項 |
ご自身のケースについて相談したい方へ
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割増の前提として、法定労働時間を超える時間外や休日労働をさせるには、36協定の締結・届出が必要です。さらに、前述の呼出待機や応答義務のある仮眠が手待時間として労働時間に当たる場合、その時間も時間外・深夜の計算に算入されます。「出動した実作業の時間だけ払えばよい」という設計は、待機そのものが労働時間と判断されると未払いになります。賃金請求権の消滅時効は当分の間3年とされており(労働基準法第115条・附則)、3年分がまとめて請求される可能性があります。固定残業代(みなし残業代)で対応する場合の要件は固定残業代が適法になる要件と差額精算に、名ばかり管理職の落とし穴は管理監督者の範囲と名ばかり管理職にまとめています。始業・終業時刻と待機の実態を客観的に記録することが、設計の出発点です。
労務は社労士、運送や火葬の許認可は行政書士、式場物件は不動産に、どう分けて相談しますか?
葬儀社の開業・運営では、関わる手続が複数の専門分野にまたがります。それぞれ判断する主体が分かれるため、役割を分けて相談するのが確実です。
| すること | 誰の領分か |
|---|---|
| 就業規則・宿日直規程・36協定・変形労働時間制の整備、割増賃金の計算、勤怠管理の設計 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 霊柩運送(一般貨物自動車運送事業等)の許可、火葬・墓地関連の許認可、営業に関する行政手続 | 行政書士 |
| 式場・事務所など事業用物件の手配 | 不動産(当社) |
| 宿日直許可を受けられるかどうかの判断・許可 | 所轄労働基準監督署(申請は事業者) |
| 未払い賃金の請求、解雇や労使紛争 | 弁護士 |
当事務所(四葉社会保険労務士事務所)は労務の整備を担います。霊柩運送や火葬・墓地関連の許認可は四葉行政書士事務所が、式場物件は四葉不動産が担いますが、これらは独立した事業体であり、それぞれ別々にご契約いただく前提です。一つの窓口でまとめて受けるのではなく、必要な分野ごとに適した担い手へおつなぎします。解雇や未払いをめぐる紛争の相談先は解雇の相談は社労士と弁護士のどちらかもご覧ください。
四葉社会保険労務士事務所は、何ができますか?
文京区小日向の四葉社会保険労務士事務所は、待機・仮眠の実態整理、宿日直規程・就業規則・36協定・変形労働時間制の整備、割増賃金の計算、勤怠管理の設計、宿日直許可申請書(様式第10号)の作成支援をお受けします。給与計算を含めた費用の考え方は給与計算を社会保険労務士に頼むと、いくらかかるのかに整理しています。ご相談は無料です。 費用は報酬額表を、よくいただくご質問はよくあるご質問をご覧ください。
よくある質問
Q. 搬送の呼び出しに備えて事業所で仮眠させる時間は、賃金を払わなくてよいですか?
A. 払う必要があることが多いです。呼び出しに直ちに応答・出動する義務があり、労働から離れることが保障されていなければ、実作業がなくても手待時間として労働時間に当たります(大星ビル管理事件・最判平成14年2月28日)。労働時間であれば、深夜や時間外に当たる分は割増賃金の対象です。
Q. 「宿直」と名付ければ、夜間の待機を労働時間から外せますか?
A. 名称ではなく実態で判断されます。宿直として労働時間規制を外すには、常態としてほとんど労働の必要がない断続的業務であることなどの要件を満たし、所轄労働基準監督署長の許可(様式第10号)を受ける必要があります(労働基準法第41条第3号、同法施行規則第23条、発基第17号)。夜間に搬送や遺族対応を頻繁に行う実態では許可は受けられないのが通常です。
Q. 繁忙期と閑散期で労働時間を調整するには、どの制度が使えますか?
A. 1か月単位(労働基準法第32条の2)または1年単位(同法第32条の4)の変形労働時間制が基本です。あらかじめ各日・各週の所定労働時間を特定し、平均で週40時間以内に収める設計にします。携帯電話等で随時指示でき待機を管理できる葬祭業では、事業場外みなし(第38条の2)は「算定が困難」とは言いにくく、原則使いにくい制度です。
Q. 深夜の出動が多い場合、割増賃金はどう重なりますか?
A. 法定労働時間を超える時間外は25%以上、そのうち1か月60時間を超える部分は50%以上(中小企業も令和5年4月1日から適用)、22時から翌5時までの深夜は25%以上、法定休日は35%以上です(労働基準法第37条)。時間外かつ深夜のように複数に該当する時間は、それぞれの割増率を合算します。
この記事の根拠
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第32条(法定労働時間)、第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)、第32条の4(1年単位の変形労働時間制)、第37条(割増賃金/時間外・休日25〜35%以上、1か月60時間超50%以上、深夜25%以上)、第38条の2(事業場外みなし労働時間制)、第41条第3号(監視又は断続的労働に従事する者の適用除外)、第115条・附則(賃金請求権の消滅時効・当分の間3年)
- 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第23条(宿直又は日直の勤務で断続的な業務についての許可・様式第10号)
- 一般の宿日直許可基準=昭和22年9月13日発基第17号(常態としてほとんど労働の必要がないこと/手当は1人1日平均賃金額の3分の1以上/宿直は週1回・日直は月1回が限度/宿直は相当の睡眠設備)
- 手待時間・仮眠時間の労働時間該当性=三菱重工長崎造船所事件・最判平成12年3月9日(労働時間は使用者の指揮命令下に置かれた時間であり、客観的に定まる)、大星ビル管理事件・最判平成14年2月28日(労働から離れることが保障されていない不活動仮眠時間は労働時間に当たる)
- 中小企業に対する月60時間超の割増率50%以上の適用は令和5年4月1日から(それまでの猶予措置の廃止)。厚生労働省の公表資料により確認しています(2026年10月時点)
- 霊柩運送の許可(貨物自動車運送事業)や火葬・墓地関連の許認可の要否・区分は、事業形態により異なるため、一次情報として所管省庁・自治体の公式案内を書く直前に確認する前提です(本記事では個別の該当性までは判断していません)
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。就業規則・宿日直規程・36協定・変形労働時間制の整備、割増賃金の計算、勤怠管理の設計、宿日直許可申請書の作成支援は社会保険労務士の業務です。宿日直許可の可否は所轄労働基準監督署が判断し、霊柩運送や火葬・墓地関連の許認可は行政書士、式場物件の手配は不動産、未払い賃金の請求や紛争は弁護士の業務です。これらは独立した事業体として、それぞれ別々にご契約いただきます。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。個別のご事情に応じた判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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