台湾から人を雇う・出向で受け入れるときの社会保険──日台に社会保障協定はない
浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
台湾から人を雇う、または出向で受け入れると、日本の適用事業所で常時使用される限り、国籍を問わず日本の健康保険・厚生年金保険の被保険者になります(雇用保険・労災保険も要件を満たせば適用)。注意したいのは、日本と台湾の間に社会保障協定がないことです。協定の対象制度や加入期間の通算の可否は相手国ごとに異なり、中国との協定には期間通算の規定がありません。台湾は協定の相手国に含まれないため、二重加入を協定で調整する余地がなく、加入期間の通算もできません。在留資格の申請は行政書士、所得税・日台間の租税の取扱いは税理士、台湾側の制度は現地の専門家の領域で、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。
結論(先に要点):台湾から人を雇う、または出向で受け入れると、日本の適用事業所で常時使用される限り、国籍を問わず日本の健康保険・厚生年金保険の被保険者になります(雇用保険・労災保険も要件を満たせば適用)。ここで注意したいのは、日本と台湾の間には社会保障協定がないことです。
社会保障協定は、保険料の二重負担を防ぐための適用調整や、年金加入期間の通算を取り決めるものです。対象制度や通算の可否は協定ごとに異なり、中国との協定には加入期間の通算規定がありません。しかし台湾は協定の相手国に含まれていないため、台湾の社会保険にも加入したままだと、その分の二重負担を協定で調整する余地がありません。この記事は、台湾から従業員を雇用・出向で受け入れる企業の人事担当に向けて、日本の社会保険の適用と二重負担の考え方を、社会保険労務士の観点から整理します。
台湾から人を雇うと、日本の社会保険はどうなるのか?
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用は、在留資格や国籍ではなく、適用事業所に常時使用されているかで決まります。日本の会社に雇われ、または出向して日本の事業所で働く台湾の人も、常時使用され、パート等の場合は「4分の3基準」などの要件を満たせば、日本人と同じに被保険者になります。
| 保険 | 適用の考え方(台湾の人でも同じ) |
|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 | 適用事業所で常時使用され、4分の3基準等を満たせば被保険者。国籍は問わない |
| 雇用保険 | 週の所定労働時間20時間以上(2028年10月からは10時間以上)・31日以上の雇用見込みで被保険者。昼間学生は除外 |
| 労災保険 | 労働者を1人でも使用する事業に強制適用。国籍・在留資格を問わず労働者に適用 |
4分の3基準の判定は短い時間で雇うと、社会保険はどうなるかを、外国人を1人雇うときに動く手続の全体像は外国人を1人雇うと、窓口はいくつ必要かをご覧ください。なお、外国人の雇い入れ・離職のときは、原則として外国人雇用状況の届出が必要です。在留資格「外交」「公用」の方と特別永住者は対象外です。
日台に社会保障協定がないと、どんな二重負担が生じるのか?
社会保障協定には、(1)年金保険料の二重負担の防止と、(2)両国の年金加入期間の通算という機能があります。ただし、中国など一部の相手国との協定は二重負担の防止のみを対象とします。日本年金機構によれば、協定は発効済が24か国(2026年6月2日現在)で、台湾はこの中に含まれていません。中国との協定(日中社会保障協定)で二重加入を防ぐ仕組みは中国駐在・中国人社員の社会保険にまとめていますが、台湾ではその仕組みが使えません。
- 二重加入が起こり得る:台湾の会社に籍を残したまま日本へ出向し、台湾側の社会保険(労工保険など)に加入し続けながら、日本でも被保険者になると、双方で保険料がかかります。協定がある国なら「適用証明書」で一方に絞れますが、台湾にはその適用証明の仕組みがありません。
- 加入期間の通算ができない:加入期間の通算を定めた協定の相手国では、両国の期間を通算して受給資格を判断できます。中国との協定にはこの規定がなく、協定のない台湾との間でも通算はできません。日本の期間は日本の制度、台湾の期間は台湾の制度で、それぞれ別に扱われます。
- どちらの制度に加入するかは、各国の国内法で決まる:協定がない以上、日本の適用要件を満たせば日本の被保険者になり、台湾側の扱いは台湾の法令によります。二重負担になるかどうかは、出向の形態(どちらの会社の指揮命令下か、報酬をどこが負担するか)によって変わります。
二重負担が実際に生じるかの具体的な当てはめは、雇用契約・出向契約の内容と、台湾側の制度の適用を突き合わせて確認する必要があります。台湾の制度の適用可否そのものは台湾の当局・専門家の判断領域です。
台湾の労工保険と日本の社会保険は、調整できるのか?
台湾には労工保険(勞工保險)などの社会保険制度があります。これらと日本の健康保険・厚生年金保険との間には、保険料や加入期間を調整する協定がありません。したがって、次のように整理します。
- 保険料の調整:協定による免除・適用証明はありません。日本の適用要件を満たす限り、日本の保険料は原則としてかかります。台湾側の保険料が別にかかるかは台湾の法令によります。
- 年金の受給:日本で納めた厚生年金保険の記録は日本の年金として扱われます。要件を満たせば将来の年金につながりますが、短期間の在職で受給資格を満たさないまま帰国する場合は、脱退一時金を検討します。手続の流れは帰国する社員の年金は、どうなるのかをご覧ください。脱退一時金は、厚生年金保険の被保険者期間が原則6か月以上あり、年金を受ける権利がないまま帰国する人が、資格喪失後(原則として出国後)2年以内に請求できる場合がある制度で、協定の有無とは別に要件を満たせば請求できます。ただし協定がないため、日本と台湾の期間を通算することはできません。
- 医療:健康保険は日本で働く間の医療をカバーします。台湾側の医療制度との関係は、台湾の法令によります。
このように、台湾については「協定で調整する」という選択肢がなく、日本の制度は日本の要件どおりに適用されるのが基本の考え方になります。
給与・租税・在留資格の手続は、誰に振ればよいのか?
台湾から人を受け入れるときは、担当する資格が分かれます。それぞれ別の契約になります。
| やること | 主な担当 |
|---|---|
| 日本の労働・社会保険の適用、資格取得・喪失の届出、雇用契約・就業規則の整備、給与計算 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 在留資格の申請・変更・更新(申請取次) | 行政書士 |
| 所得税の課税・日台間の租税の取扱い | 税理士 |
| 台湾側の社会保険・税の適用 | 台湾の当局・現地の専門家 |
| 労使紛争・契約をめぐる法的判断 | 弁護士 |
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
日本と台湾の間には正式な租税条約はなく、民間取決めに基づき国内法で対応する枠組みがありますが、その適用は税理士の領域です。在留資格の申請・取次は四葉行政書士事務所へおつなぎすることもできますが、四葉行政書士事務所は当事務所とは独立した事業体で、社会保険労務士業務と行政書士業務は別々にご契約いただきます(一括受任はしません)。当事務所は紹介料を受け取りません。
受入れ前に、会社が準備しておくことは何か?
出向で受け入れる場合は、二重負担の有無が出向の形態で変わるため、契約の段階で次を整理しておくと後の手続が滑らかになります。
- 雇用・出向の形態を書面で明確にする:どちらの会社の指揮命令下で働くか、報酬をどこが負担するかを契約で明確にします。日本の社会保険の適用は、実態としての使用関係で判断されます。
- 日本側の被保険者資格を前提に賃金・保険料を見込む:日本の健康保険・厚生年金・雇用保険・労災の負担を織り込んで人件費を試算します。台湾側の負担が残るかは台湾の法令で確認します。
- 在留資格と労働条件を早めに固める:在留資格の取得は行政書士の業務です。労働条件は書面での明示が使用者の義務で、日本人と同じルールが適用されます。
四葉社会保険労務士事務所では、日本側の社会保険の適用の整理、資格取得・喪失の届出、給与計算、雇用契約・就業規則の整備についてご相談いただけます。ご相談は無料で、費用は報酬額表にまとめています。
よくある質問
Q. 日本と台湾の間に、社会保障協定はありますか?
A. ありません。日本年金機構が公表する社会保障協定の相手国(発効済24か国、2026年6月2日現在)に台湾は含まれていません。台湾との間では、協定による適用調整も加入期間の通算も使えません。なお、中国との協定は二重負担の防止のみを対象とし、加入期間は通算できません。
Q. 台湾の会社から出向で受け入れると、日本の社会保険はどうなりますか?
A. 日本の適用事業所で常時使用され、要件を満たせば、国籍を問わず日本の健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。台湾側の社会保険に加入したままだと二重負担が生じ得ますが、協定がないためこれを調整する仕組みはありません。二重負担になるかは、出向の形態(指揮命令・報酬負担)によって変わります。
Q. 台湾で払っていた年金の期間と、日本の期間は通算できますか?
A. できません。加入期間の通算は社会保障協定によって行われますが、日本と台湾の間には協定がないため、日本の期間は日本の制度、台湾の期間は台湾の制度で別々に扱われます。日本で受給資格を満たさないまま帰国する場合は、脱退一時金を検討します。
Q. 短期間で帰国する台湾の社員は、脱退一時金を受け取れますか?
A. 厚生年金保険の被保険者期間が原則6か月以上あり、年金を受ける権利がないまま帰国する人は、資格喪失後(原則として出国後)2年以内に脱退一時金を請求できる場合があります。これは協定の有無とは別に、要件を満たせば請求できる制度です。金額や請求方法は日本年金機構の案内で確認してください。
この記事の根拠
- 健康保険・厚生年金保険の適用:適用事業所に常時使用される者は国籍・在留資格を問わず被保険者。パート等は所定労働時間・日数が通常の労働者の4分の3以上で原則加入(健康保険法・厚生年金保険法、日本年金機構)
- 雇用保険の被保険者要件:週の所定労働時間20時間以上(令和6年法律第26号により2028年〔令和10年〕10月1日から10時間以上)・31日以上の雇用見込み。昼間学生は原則適用除外(雇用保険法)
- 労災保険の適用:労働者を使用する事業に強制適用され、国籍・在留資格を問わず労働者に適用(労働者災害補償保険法)
- 厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」:在留資格「外交」「公用」及び特別永住者は届出対象外。2026年9月14日参照。
- 厚生労働省「社会保障協定の締結状況」(2026年6月2日現在:発効済24か国)・日本年金機構「協定発効時期および対象制度」(中国は期間通算不可、台湾は協定相手国に記載なし)。2026年9月14日参照。
- 適用証明書:協定相手国との間で、一時派遣(多くは5年以内)について一方の制度にのみ加入し続けるために日本年金機構が発行するもの。協定のない台湾には適用証明の仕組みがない(日本年金機構)
- 脱退一時金:厚生年金保険の被保険者期間が原則6か月以上あり、年金を受ける権利がないまま帰国する場合、資格喪失後(原則として出国後)2年以内に請求できる場合がある。協定がないため日本と台湾の期間の通算はできない(日本年金機構)
- 日台間の租税:日本と台湾の間に正式な租税条約はなく、民間取決めに基づき国内法で対応する枠組みがある。所得税の課税関係は税理士の業務であり、本記事では扱わない
- 社会保険労務士の業務:社会保険労務士法第2条
この記事は、誰に相談するかまで決めるものではありません。四葉社会保険労務士事務所では、日本側の労働・社会保険の適用、資格取得・喪失の届出、給与計算、雇用契約・就業規則の整備についてご相談いただけます。在留資格の申請・変更(申請取次)は行政書士の業務、所得税・日台間の租税の取扱いは税理士の業務、台湾側の社会保険・税の適用は台湾の当局・現地の専門家、労使紛争は弁護士の業務です。社会保険労務士業務と行政書士業務は、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の事案で日本の社会保険が適用されるか、二重負担が生じるかの最終判断は、年金事務所・日本年金機構が行います。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。社会保険の適用や二重負担の有無など個別の判断は、最新の一次情報(厚生労働省・日本年金機構など)と個別のご事情に照らし、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
「働き方」から、整理しませんか。
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