整骨院・接骨院の労務はどう整える?柔道整復師の労働時間と受付時間の考え方

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
整骨院・接骨院の労務は、受付時間(開院時間)と従業員の労働時間を分けて考えるのが出発点です。患者が来ない待機時間でも、来院があれば対応しなければならない手待時間は労働時間に入ります(労働時間は使用者の指揮命令下にある時間=最高裁平成12年3月9日判決。休憩は労働から離れることが保障された自由利用の時間=労働基準法第34条第3項)。柔道整復師・受付スタッフの社会保険は、法人なら1人でも強制適用、個人立は施術所が適用業種にあたるかが論点で所轄の年金事務所に確認します(本記事では確定判断をしません)。手待時間と休憩の設計、変形労働時間制、就業規則を整理します。施術所の開設届(柔道整復師法第19条)は行政書士(四葉行政書士事務所=独立した事業体・別々にご契約)に分けます。
結論(先に要点):整骨院・接骨院の労務は、「受付時間(開院時間)」と従業員の「労働時間」を分けて考えるのが出発点です。患者が来ない待機時間でも、来院があれば対応しなければならない手待時間は労働時間に入ります。柔道整復師や受付スタッフの社会保険は、法人なら1人でも強制適用、個人立は業種の扱いで変わります。施術所の開設届は労務とは担当が分かれます。
整骨院・接骨院は、開設者である柔道整復師を中心に、勤務の柔道整復師、受付・助手スタッフ——という体制が一般的です。開院時間が朝から夜まで長く、昼に中休みを挟む院も多いため、「開けている時間=労働時間」と考えると、休憩や手待時間の扱いを外して、あとから未払い残業や休憩不足のトラブルにつながります。時間の数え方と社会保険の土台を先に押さえておきましょう。
整骨院の「受付時間」と従業員の「労働時間」はどう違う?
受付時間(開院時間)は「患者を受け付ける時間帯」を示す掲示上の時間で、従業員の労働時間とは別のものです。労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実際に施術していない時間でも、使用者の指示があればすぐ対応しなければならない状態なら労働時間にあたります(労働時間の意義について最高裁平成12年3月9日判決)。
| 時間 | 意味 | 労働時間か |
|---|---|---|
| 受付時間(開院時間) | 患者を受け付ける掲示上の時間帯 | それ自体は労働時間の定義ではない |
| 実作業時間 | 施術・受付など実際に働いている時間 | 労働時間 |
| 手待時間 | 患者を待つ待機時間。来院があれば対応する義務がある | 労働時間(指揮命令下にある) |
| 休憩時間 | 労働から離れることが保障された自由に使える時間 | 労働時間ではない(労働基準法第34条第3項) |
労働時間の管理は業種を問わず労働基準法の原則どおりに行います。原則1日8時間・1週40時間(第32条)、労働時間が6時間超で45分・8時間超で1時間以上の休憩(第34条)、時間外・休日労働には36協定(第36条)、時間外・深夜・休日には割増賃金(第37条)です。開院時間が長い院では、1か月単位の変形労働時間制(第32条の2)で週の繁閑に合わせて所定労働時間を配分する方法があります(変形労働時間制とフレックスタイムの選び方)。
患者が来ない時間(手待時間)は労働時間に入る?
入ります。整骨院で誤解が多いのがここです。「患者がいない時間は休憩」と扱ってしまうと、実際には手待時間を無給の休憩にしていることになり、未払い賃金や休憩不足の問題になります。
手待時間と休憩時間の分かれ目は、その時間に労働から完全に解放されているかです。
- 手待時間(労働時間):受付に座って待機し、患者が来たら対応する。電話を取る、片付けをするなど、来院に備えている。この間は使用者の指揮命令下にあり、労働時間です。
- 休憩時間(労働時間でない):院を閉め、スタッフが自由に外出・休息でき、来院対応の義務から解放されている。労働基準法第34条第3項の自由利用が保障されている時間です。
昼に「中休み」を設ける院では、その時間に電話番や来院対応を求めるなら手待時間=労働時間で、賃金の対象です。休憩として無給にしたいなら、実際に来院対応の義務から解放し、自由に過ごせる状態にしておく必要があります。手待時間を放置すると、施術のない時間帯を勤務記録から外してしまい、深夜や時間外の割増計算まで狂うことがあります。開院時間を延ばしている院ほど、労働時間の客観的な把握が大切です。管理職として残業代を払わない扱いにできるかは要件が厳しく、名ばかり管理職と深夜割増にまとめています。
柔道整復師や受付スタッフの社会保険はどこから必要?
社会保険(健康保険・厚生年金)は、まず施術所が適用事業所になるかを確認します。判定の枠組みは次のとおりです。
| 事業形態 | 健康保険・厚生年金 |
|---|---|
| 法人(株式会社・一般社団法人など) | 開設者1人でも強制適用 |
| 個人立の施術所 | 常時5人以上でも、施術所が適用業種にあたるかで扱いが変わる(後述) |
法人化していれば、人数にかかわらず強制適用です。適用事業所になったうえで、パートの柔道整復師や受付スタッフが加入するかは、通常の労働者との比較で判定します。1週の所定労働時間と1月の所定労働日数がいずれも通常の労働者の4分の3以上なら加入し、特定適用事業所では週20時間以上・月額8.8万円以上などの条件で加入対象になります。企業規模の要件は段階的に拡大し(被保険者51人以上、2027年10月から36人以上)、月額8.8万円の賃金要件は2026年10月に撤廃される予定です。数え方は短い時間で雇うと社会保険はどうなるか、拡大の時期は社会保険の適用拡大、2027年10月から36人以上へにまとめています。雇用保険は、1週の所定労働時間が20時間以上(2028年10月からは10時間以上)で31日以上の雇用見込みがあれば被保険者です。就業規則の作成・届出は常時10人以上から義務です(労働基準法第89条・就業規則は何人から義務か)。
個人立と法人で労務・社会保険はどう変わる?
労働基準法は、個人立でも法人でも、労働者を1人でも使えばそのまま適用されます。労働時間・休憩・割増賃金・労働条件の明示(第15条)は、事業形態に関係なくかかります。差が出るのは社会保険の強制適用の入り口です。
| 事業形態 | 社会保険(健保・厚年)の強制適用 |
|---|---|
| 法人 | 人数にかかわらず強制適用(開設者1人でも) |
| 個人立 | 常時5人以上が原則。ただし施術所が適用業種(法定16業種)に含まれるかが論点 |
ここで注意が必要なのは、柔道整復の施術所が個人立の場合、常時5人以上でも当然に強制適用になるとは言い切れない点です。健康保険法・厚生年金保険法の適用業種には「疾病の治療、助産その他医療の事業」が含まれますが、柔道整復師は医師とは異なり、施術所が「医療の事業」にあたるかは一律に明確ではありません。個人立の施術所が適用業種に該当するかは所轄の年金事務所の確認事項で、本記事では確定的な判断はしません。実務上は、法人化して強制適用にする、あるいは任意で適用を受ける(任意包括適用)といった選択肢を含めて、開業時に所轄の年金事務所へ確認するのが確実です。医療系の他業種の扱いは医科クリニックの開業と労務、歯科医院・歯科技工所の労務、サービス業側は美容室の開業と社会保険と読み比べると違いが見えます。
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
施術所の開設届と労務の準備はどう並行させる?(届出は行政書士・保健所へ)
整骨院・接骨院の開業は、担当する資格が分かれ、それぞれ別の契約になります。
| やること | 主な担当 |
|---|---|
| 就業規則・シフト設計、社会保険・労働保険の適用判定と手続、給与計算 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 施術所開設届(保健所)の作成・提出支援 | 行政書士(または開設者本人) |
| 開業の税務・確定申告 | 税理士 |
| 施術所となる物件の仲介・重要事項説明 | 宅地建物取引業者 |
柔道整復師法第19条により、施術所を開設した者は開設後10日以内に、開設の場所や業務に従事する柔道整復師の氏名などを、施術所の所在地の都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)に届け出ます。この開設届は四葉行政書士事務所、物件は四葉不動産へおつなぎすることもできますが、四葉行政書士事務所・四葉不動産は当事務所とは独立した事業体で、社会保険労務士業務・行政書士業務・宅地建物取引業務は別々にご契約いただきます(一括して受任することはしません)。当事務所は紹介料を受け取りません。療養費の受領委任など施術の請求に関する判断は、当事務所の労務の範囲外です。
四葉社会保険労務士事務所では、受付時間と労働時間の切り分け、手待時間・休憩の設計、柔道整復師・受付スタッフの社会保険の適用判定、就業規則の作成についてご相談いただけます。費用は報酬額表にまとめています。
よくある質問
Q. 整骨院で患者が来ない時間は、休憩として無給にできますか?
A. その時間に来院があれば対応しなければならない状態なら、手待時間として労働時間にあたり、賃金の対象です。無給の休憩にできるのは、院を閉めるなどして来院対応の義務から完全に解放され、スタッフが自由に過ごせる時間だけです。昼の中休みに電話番や来院対応を求めるなら、それは休憩ではなく労働時間になります。
Q. 受付時間(開院時間)と従業員の労働時間は同じですか?
A. 別のものです。受付時間は患者を受け付ける掲示上の時間帯で、労働時間は労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。開院前の準備や開院後の片付け、待機している手待時間も労働時間に含まれるため、開院時間だけを勤務時間として記録すると、実際の労働時間より短く扱ってしまうおそれがあります。
Q. 個人立の整骨院ですが、従業員が5人以上なら社会保険は必ず強制適用ですか?
A. 一律には言い切れません。個人立で常時5人以上の場合、施術所が健康保険・厚生年金の適用業種(法定16業種)に含まれるかが論点になり、柔道整復の施術所が「医療の事業」にあたるかは明確でないため、所轄の年金事務所への確認が必要です。法人化すれば人数にかかわらず強制適用になるので、そこは明確です。開業時に年金事務所へ確認するのが確実です。
Q. 開院時間が長い整骨院で、残業にしないシフトは組めますか?
A. 1日8時間・1週40時間を超えて働かせるには36協定の締結・届出が必要で、超えた分には割増賃金がかかります。朝から夜まで開ける院では、1か月単位の変形労働時間制を使うと、曜日ごとの繁閑に合わせて所定労働時間を配分できます。手待時間を労働時間として正しく数えたうえで、休憩を実際に取れる形にしておくことが、未払い残業を防ぐ前提になります。
この記事の根拠
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条(労働条件の明示)、第32条(労働時間)、第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)、第34条(休憩・第3項の自由利用)、第36条(時間外・休日労働)、第37条(割増賃金)、第89条(常時10人以上の就業規則の作成・届出義務)。e-Gov法令検索により2026年9月27日に条文を確認
- 労働時間の意義:労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、手待時間もこれに含まれる(最高裁平成12年3月9日判決・三菱重工業長崎造船所事件の労働時間の判断枠組み)。休憩時間は労働から離れることが保障された自由に使える時間(労働基準法第34条第3項)
- 柔道整復師法(昭和45年法律第19号)第19条:施術所を開設した者は開設後10日以内に、開設の場所・従事する柔道整復師の氏名その他厚生労働省令で定める事項を施術所の所在地の都道府県知事に届け出る。e-Gov法令検索により2026年9月27日に確認。届出の手続そのものは行政書士または開設者本人が行う整理としています
- 健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第3項・厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第6条:法人は代表者1人でも強制適用、個人事業所は常時5人以上の適用業種で強制適用。柔道整復の施術所が適用業種(医療の事業等)に含まれるかは一律に明確でないため、所轄の年金事務所への確認事項として本記事では確定的な判断をしていません(日本年金機構「適用事業所と被保険者」。2026年9月27日参照)
- 短時間労働者に対する社会保険の適用拡大:4分の3基準、特定適用事業所での週20時間以上・月額8.8万円以上・2か月超の雇用見込み・学生でない、の要件。企業規模要件は被保険者51人以上、2027年10月から36人以上へ拡大。月額8.8万円の賃金要件は2026年10月撤廃予定(厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」・日本年金機構。2026年9月27日参照)
- 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第4条・第6条:週20時間以上等の労働者が被保険者、2028年10月から週10時間以上。企業規模要件・賃金要件は改定されるため、最新は日本年金機構・厚生労働省で確認してください
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。社会保険・労働保険の適用判定と手続、就業規則、給与計算は社会保険労務士の業務です。施術所の開設届は行政書士または開設者本人、開業の税務は税理士、物件の仲介は宅地建物取引業者へ、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。手待時間の判定や社会保険の適用判定など個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
「働き方」から、整理しませんか。
四葉社会保険労務士事務所(文京区小日向・東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分)が、労務の現状整理からお手伝いします。
LINEは代表・浦松丈二に直接つながります。24時間受付・順次お返事します。
東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分|火・水 10:00〜19:00/月・木・金・土・日 18:00〜19:00
