薬局を開業するときの労務は?管理薬剤師の常勤とシフトの組み方

浦松 丈二
社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)
薬局の労務は、管理薬剤師を実態として専任・常勤で置けるシフトを組み、薬剤師と登録販売者の労働時間を法どおりに管理し、社会保険を早めに整えるのが土台です。薬局は医薬品という物を販売する事業で健康保険・厚生年金の適用業種(物の販売の事業)に含まれ、個人経営でも常時5人以上なら強制適用、法人なら開設者1人でも適用されます(理美容・飲食のサービス業とは逆)。管理薬剤師は薬機法第7条第4項で他店との兼務が原則禁止され、専任で実地に管理できる勤務が前提です。労働時間・休憩・36協定・変形労働時間制、パートの社会保険の適用判定、就業規則を整理します。薬局開設許可(薬機法第4条)の申請は行政書士(四葉行政書士事務所=独立した事業体・別々にご契約)に分けます。
結論(先に要点):薬局の労務は、管理薬剤師を実態として専任・常勤で置けるようにシフトを組み、薬剤師と登録販売者の労働時間を法どおりに管理し、社会保険の適用を早めに整えるのが土台です。薬局は個人経営でも従業員が常時5人以上いれば健康保険・厚生年金の強制適用で、法人なら開設者1人でも適用されます。開設許可そのものは薬機法の手続で、労務とは担当が分かれます。
調剤薬局は、開設者、管理薬剤師、そのほかの薬剤師、そして一般用医薬品(OTC)も扱うなら登録販売者や事務スタッフ——という体制が一般的です。開業準備では物件・設備・開設許可に目が向きがちですが、「管理薬剤師を常勤で確保できるか」「開局時間に有資格者を切らさずシフトを回せるか」は、そのまま労働時間と社会保険の設計に直結します。先に労務の土台を押さえておきましょう。
薬局開業で最初に整える労務のポイントは?
薬局の労務でまず決めるのは、次の3つです。
| 論点 | 何を決めるか |
|---|---|
| 管理薬剤師の勤務 | 専任・常勤で置けるだけの勤務時間を確保できるか(薬機法第7条第4項) |
| 開局時間中の有資格者配置 | 薬剤師・登録販売者を切らさないシフトを組めるか |
| 社会保険・雇用保険の適用 | 事業所として、また個々の従業員として、いつから加入義務が生じるか |
薬局開設の許可(薬機法第4条・都道府県知事の許可)は薬事の手続で、その中で「管理薬剤師が実地に管理できる勤務体制か」も見られます。ここは開設許可と労務の設計が重なる部分なので、許可申請の準備と並行して、勤務時間・シフト・雇用契約を先に固めておくと手戻りが減ります。医科クリニックの宿日直や看護師のシフトを扱った医科クリニックの開業と労務、歯科の歯科医院・歯科技工所の労務とあわせて読むと、医療系の勘所が見えてきます。
管理薬剤師の「常勤」は労務上どう扱う?
薬局開設者が薬剤師なら自らその薬局を実地に管理し、開設者が薬剤師でない場合は、その薬局で薬事に従事する薬剤師のうちから管理者(管理薬剤師)を指定して実地に管理させます(薬機法第7条第1項・第2項)。そして管理薬剤師は、原則としてその薬局以外の場所で業として薬事に関する実務に従事してはならず、兼務するには都道府県知事の許可が要ります(同条第4項)。
つまり管理薬剤師は「その薬局に専任で、実地に管理できるだけ勤務している」ことが前提です。ここで薬機法上の「専任・実地の管理」と、労務・社会保険でいう「常勤」は、次のように別の物差しであることに注意します。
| 物差し | 内容 |
|---|---|
| 薬機法の管理者要件 | 他店との兼務は原則禁止(許可があれば例外)。その薬局を実地に管理できる勤務であること(薬機法第7条第4項) |
| 労務・社会保険の「常勤」 | 明確な法定時間があるわけではなく、通常は所定労働時間がフルタイム(週の所定が正社員と同程度)であることを指す運用 |
管理薬剤師を「週に数日だけ」の勤務にすると、実地の管理ができているといえるかが問われます。労務の側では、雇用契約書と就業規則に所定労働時間・勤務日を明記し、実際の勤務記録で裏づけられるようにしておくことが、薬事・労務の両面で安全です。なお、具体的な兼務の可否や勤務時間が管理者要件を満たすかは、薬事の許可行政の判断事項なので、開設許可の準備の中で確認します。
薬剤師・登録販売者のシフトと労働時間はどう組む?
薬局は開局時間中、調剤には薬剤師が、一般用医薬品の販売には薬剤師または登録販売者(第2類・第3類医薬品)が必要になるため、有資格者を切らさないシフト設計が欠かせません。そのうえで、労働時間の管理は業種を問わず労働基準法の原則どおりに行います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法定労働時間 | 原則1日8時間・1週40時間(労働基準法第32条) |
| 休憩 | 労働時間が6時間超で45分以上、8時間超で1時間以上(労働基準法第34条) |
| 時間外・休日労働 | 36協定(労働基準法第36条)の締結・届出がなければ命じられない |
| 割増賃金 | 時間外・深夜・休日には割増賃金(労働基準法第37条) |
開局時間が長い薬局や、平日と土曜で開局時間が違う薬局では、1か月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)を使うと、週の繁閑に合わせて所定労働時間を配分しやすくなります。制度の選び方は変形労働時間制とフレックスタイムの選び方にまとめています。パート薬剤師や扶養内で働く登録販売者のシフトは、後述の社会保険の入り口を意識して、所定労働時間と所定労働日数をはっきり決めておきます。
社会保険・雇用保険はどこから加入義務が生じる?
まず、薬局が社会保険(健康保険・厚生年金)の適用事業所になるかを確認します。薬局は医薬品という物を販売する事業で、健康保険法・厚生年金保険法の適用業種(物の販売の事業)に含まれます。
| 事業形態 | 健康保険・厚生年金 |
|---|---|
| 法人(株式会社・医療法人など) | 開設者1人でも強制適用 |
| 個人経営の薬局 | 常時5人以上で強制適用(物の販売の事業は適用業種に含まれる) |
健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条は、常時5人以上を使用する個人事業所を強制適用としつつ、飲食店・理容美容業などのサービス業を適用業種から除いています。薬局は物の販売の事業として適用業種に含まれるため、個人経営でも常時5人以上なら強制適用事業所です。理容・美容業が個人経営なら5人以上でも強制適用にならないのとは逆の扱いになります。
適用事業所になったうえで、パートの薬剤師・登録販売者が加入するかは、通常の労働者との比較で判定します。
| 判定 | 加入の基準 |
|---|---|
| 4分の3基準 | 1週の所定労働時間と1月の所定労働日数が、いずれも通常の労働者の4分の3以上 |
| 適用拡大(特定適用事業所) | 被保険者が一定数以上の事業所で、週20時間以上・月額賃金8.8万円以上・2か月を超える雇用見込み・学生でない、を満たせば加入 |
企業規模の要件は段階的に拡大しており、被保険者51人以上、2027年10月からは36人以上が対象です。月額8.8万円以上の賃金要件は2026年10月に撤廃される予定です。数え方は短い時間で雇うと社会保険はどうなるか、拡大の時期は社会保険の適用拡大、2027年10月から36人以上へ、扶養内で働く人への説明は年収の壁(106万円)の撤廃で事業者がやることにまとめています。雇用保険は、1週の所定労働時間が20時間以上(2028年10月からは10時間以上)で31日以上の雇用見込みがあれば被保険者です。就業規則の作成・届出は常時10人以上から義務です(労働基準法第89条・就業規則は何人から義務か)。
ご自身のケースについて相談したい方へ
社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。
開設許可の準備と労務の準備はどう並行させる?(許可は行政書士・保健所へ)
薬局の開業は、担当する資格が分かれ、それぞれ別の契約になります。
| やること | 主な担当 |
|---|---|
| 就業規則・シフト設計、社会保険・労働保険の適用判定と手続、給与計算 | 社会保険労務士(当事務所) |
| 薬局開設許可(薬機法・保健所/都道府県)の申請支援 | 行政書士(または開設者本人) |
| 開業の税務・確定申告 | 税理士 |
| 薬局となる物件の仲介・重要事項説明 | 宅地建物取引業者 |
薬局開設許可は四葉行政書士事務所、物件は四葉不動産へおつなぎすることもできますが、四葉行政書士事務所・四葉不動産は当事務所とは独立した事業体で、社会保険労務士業務・行政書士業務・宅地建物取引業務は別々にご契約いただきます(一括して受任することはしません)。当事務所は紹介料を受け取りません。管理薬剤師の勤務が管理者要件を満たすかは薬事の許可行政の判断事項で、当事務所は労務・社会保険の設計を担当します。
四葉社会保険労務士事務所では、管理薬剤師の常勤を前提としたシフト設計、薬剤師・登録販売者の労働時間と社会保険の適用判定、就業規則の作成についてご相談いただけます。費用は報酬額表に、給与計算の相場は給与計算を社会保険労務士に頼むといくらかにまとめています。
よくある質問
Q. 管理薬剤師はパート勤務でもよいのですか?
A. 薬機法上、管理薬剤師はその薬局を実地に管理できることが前提で、原則として他店との兼務が禁止されます(都道府県知事の許可があれば例外)。週数日の短い勤務では実地の管理ができているといえるかが問われるため、専任・常勤で置ける勤務時間を確保するのが基本です。具体的に何時間なら管理者要件を満たすかは薬事の許可行政の判断事項なので、開設許可の準備の中で確認してください。
Q. 個人経営の薬局ですが、従業員が5人以上でも社会保険に入らなくてよいのですか?
A. いいえ、入ります。薬局は医薬品という物を販売する事業で、健康保険・厚生年金の適用業種(物の販売の事業)に含まれるため、個人経営でも常時5人以上の従業員がいれば強制適用事業所です。個人経営でも5人以上で強制適用にならない理容・美容業などのサービス業とは逆の扱いなので、注意してください。法人であれば開設者1人でも強制適用です。
Q. 登録販売者を扶養内のパートにしたいのですが、何時間までなら社会保険に入りませんか?
A. 通常の労働者と比べて、1週の所定労働時間と1月の所定労働日数がいずれも4分の3未満なら、原則として加入しません。ただし勤務先が特定適用事業所にあたると、週20時間以上・月額8.8万円以上などの条件で加入対象になります。企業規模の要件は段階的に拡大し、月8.8万円の賃金要件は2026年10月に撤廃される予定なので、最新の要件で判定してください。
Q. 開局時間が長い薬局のシフトは、どう組めば残業になりませんか?
A. 1日8時間・1週40時間を超えて働かせるには36協定の締結・届出が必要で、超えた分には割増賃金がかかります。平日と土曜で開局時間が違うような薬局では、1か月単位の変形労働時間制を使うと、週ごとの繁閑に合わせて所定労働時間を配分でき、無理なくシフトを回しやすくなります。所定労働時間・休憩・時間外の取扱いを就業規則と勤務記録で明確にしておくことが、未払い残業のトラブルを防ぎます。
この記事の根拠
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法。昭和35年法律第145号)第7条第1項・第2項(薬局開設者による実地の管理、管理者の指定)、同条第4項(管理者は原則として他の場所で薬事に関する実務に従事してはならず、兼務には都道府県知事の許可が必要)、第4条(薬局開設の許可)。e-Gov法令検索により2026年9月27日に条文を確認
- 健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第3項・厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第6条:法人は代表者1人でも強制適用、個人事業所は常時5人以上で強制適用。適用業種に「物の販売の事業」が含まれ、飲食店・理容美容業などのサービス業は除外(日本年金機構「適用事業所と被保険者」により確認。2026年9月27日参照)
- 短時間労働者に対する社会保険の適用拡大:4分の3基準、特定適用事業所での週20時間以上・月額8.8万円以上・2か月超の雇用見込み・学生でない、の要件。企業規模要件は被保険者51人以上、2027年10月から36人以上へ段階的に拡大。月額8.8万円の賃金要件は2026年10月撤廃予定(厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」・日本年金機構。2026年9月27日参照)
- 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第4条・第6条:週20時間以上等の労働者が被保険者、2028年10月から週10時間以上
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第32条(労働時間)、第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)、第34条(休憩)、第36条(時間外・休日労働)、第37条(割増賃金)、第89条(常時10人以上の就業規則の作成・届出義務)
- 管理者の兼務の可否や勤務時間が管理者要件を満たすか、薬局開設許可の具体的な要件は、薬事の許可行政(都道府県・保健所)の判断事項です。本記事では労務・社会保険の整理にとどめ、許可の手続そのものは行政書士または開設者本人が行う整理としています。企業規模要件・賃金要件は改定されるため、最新は日本年金機構・厚生労働省で確認してください
この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。社会保険・労働保険の適用判定と手続、就業規則、給与計算は社会保険労務士の業務です。薬局開設許可は行政書士または開設者本人、開業の税務は税理士、物件の仲介は宅地建物取引業者へ、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。
本記事は一般的な情報提供です。管理薬剤師の勤務体制やパートの社会保険の加入判定など個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。
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