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2026.09.21社会保険

歯科医院・歯科技工所の労務は?歯科衛生士のパート・時短と社会保険の考え方

浦松 丈二

浦松 丈二

社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士(四葉社会保険労務士事務所/四葉行政書士事務所)

歯科医院と歯科技工所は、社会保険では「医療の事業」「物の製造の事業」にあたり、飲食・理美容などのサービス業とは扱いが逆です。個人経営でも従業員が常時5人以上いれば健康保険・厚生年金の強制適用になり、法人なら院長1人でも適用されます。歯科衛生士・歯科助手のパートや時短、歯科技工所の技工士の残業を、この土台の上で時間で線を引いて設計する考え方を、健康保険法・厚生年金保険法・労働基準法を根拠に整理します。

結論(先に要点):歯科医院と歯科技工所は、社会保険では「医療の事業」「物の製造の事業」にあたり、飲食・理美容などのサービス業とは扱いが逆です。個人経営でも従業員が常時5人以上いれば健康保険・厚生年金の強制適用になり、法人なら院長1人でも適用されます。歯科衛生士・歯科助手のパートや技工士の残業は、この土台の上で、時間で線を引いて設計します。

歯科医院は、歯科医師である院長を中心に、歯科衛生士・歯科助手・受付、そして歯科技工を外部の歯科技工所に委託する——という体制が一般的です。「少人数だから社会保険は関係ない」「技工は職人だから時間管理は要らない」と思われがちですが、業種の区分と時間の数え方を外すと、あとから保険料の遡及や未払い残業代につながります。先に土台を押さえておきましょう。

歯科衛生士・歯科助手をパートで雇うと、社会保険はどうなるのか?

まず、歯科医院が社会保険(健康保険・厚生年金)の適用事業所になるかを確認します。ここが美容室など個人経営のサービス業と逆になる、大事なところです。

事業形態健康保険・厚生年金
法人(医療法人・株式会社など)院長1人でも強制適用
個人経営の歯科診療所常時5人以上で強制適用(医療の事業は法定の適用業種に含まれる)

健康保険法第3条第3項・厚生年金保険法第6条は、常時5人以上を使用する個人事業所を強制適用としつつ、農林水産業・飲食店・理容美容業などのサービス業を適用業種から除いています。「疾病の治療その他医療の事業」は適用業種に含まれるため、個人経営の歯科診療所は従業員が常時5人以上になれば強制適用事業所です。理容・美容業が個人経営なら5人以上でも強制適用にならないのと逆で、この違いは美容室の開業で歩合給・面貸し・社会保険はどう決めるのかと読み比べると分かりやすくなります。

適用事業所になったうえで、歯科衛生士・歯科助手それぞれがパートで加入するかどうかは、通常の労働者との比較で判定します。

判定加入の基準
4分の3基準1週の所定労働時間と1月の所定労働日数が、いずれも通常の労働者の4分の3以上
適用拡大(特定適用事業所)被保険者が一定数以上の事業所では、週20時間以上・月額賃金8.8万円以上・2か月を超える雇用見込み・学生でない、を満たせば加入

数え方は短い時間で雇うと、社会保険はどうなるかにまとめています。

時短・扶養内勤務のシフトを組むとき、何に気をつけるのか?

歯科衛生士は、育児や家庭と両立しながら時短で働く人が多い職種です。「扶養の範囲で」という希望にこたえるには、社会保険と雇用保険それぞれの入り口を分けて考えます。

  • 社会保険:4分の3基準に届かないシフトなら加入しないのが原則ですが、勤務先が特定適用事業所にあたると、週20時間以上などの条件で加入対象になります。企業規模の要件は段階的に拡大しており、被保険者51人以上(2027年10月からは36人以上)が対象です。さらに月額8.8万円以上という賃金要件は2026年10月に撤廃される予定です。
  • 雇用保険:1週の所定労働時間が20時間以上(2028年10月からは10時間以上)で、31日以上の雇用見込みがあれば被保険者になります。

企業規模の拡大スケジュールは社会保険の適用拡大、2027年10月から36人以上へに、扶養内で働く人への説明は年収の壁(106万円)の撤廃で事業者がやることにまとめています。院内が数名でも、被保険者数が要件に届けば適用対象が広がるため、**「今は対象外でも、来年の改正で入る人が出る」**前提でシフトを設計しておくと、あとで慌てずにすみます。時短勤務者の所定労働時間・所定労働日数は、雇用契約書と就業規則にはっきり書いておきます。

歯科技工所の技工士の労働時間・残業は、どう管理するのか?

歯科技工所は、社会保険では**「物の製造・加工の事業」=適用業種**にあたるため、個人経営でも常時5人以上で健康保険・厚生年金の強制適用になります(法人は1人でも適用)。ここも医療機関と同じく、サービス業とは逆の扱いです。

労働時間の管理は、業種を問わず労働基準法の原則どおりに行います。

項目内容
法定労働時間原則1日8時間・1週40時間(労働基準法第32条)
時間外・休日労働36協定(労働基準法第36条)の締結・届出がなければ命じられない
割増賃金時間外・深夜・休日には割増賃金(労働基準法第37条)

歯科技工は納期に追われて長時間労働になりやすい分野です。「歩合や請負のような働き方だから残業代は要らない」ということはなく、雇用している技工士には36協定と割増賃金がそのままかかります。所定労働時間、休憩、時間外の取扱いを就業規則と勤務記録で明確にし、実際の労働時間を客観的に把握しておくことが、未払い残業のトラブルを防ぎます。なお、技工士に「業務委託」の形で仕事を頼む場合でも、指揮監督や時間・場所の拘束があれば実態は雇用と判断されることがあり、線引きは契約書の題名ではなく実態で決まります。

院長一人+数名の医院で、就業規則は必要になるのか?

就業規則の作成と届出が義務になるのは、常時10人以上の労働者を使う事業場からです(労働基準法第89条)。院長を除く従業員が10人未満の歯科医院なら、作成・届出そのものは義務ではありません。ただし、人数に関係なく必要なものがあります。

事項人数の要件
就業規則の作成・届出常時10人以上で義務(労働基準法第89条)
労働条件の明示1人目から必要(労働基準法第15条)
ハラスメント防止の措置人数を問わず義務
育児・介護休業法上の措置人数を問わず義務

ご自身のケースについて相談したい方へ

社会保険・給与・労務について、状況をお聞かせください。

義務でなくても、時短・パート・技工士など働き方がばらつく歯科医院ほど、所定労働時間・シフト・休暇・服務のルールを文書にしておく価値は大きくなります。人数の要件と義務でないものの整理は就業規則は何人から義務か。義務でないものは何かにまとめています。医科クリニックの宿日直や看護師の働き方を中心に扱った医科クリニックの開業と労務とあわせて読むと、医療・歯科それぞれの勘所が見えてきます。

労務・開設届・物件・税務は、誰に振り分けるのか?

歯科医院・歯科技工所の開業は、担当する資格が分かれ、それぞれ別の契約になります。

やること主な担当
就業規則・シフト設計、社会保険・労働保険の適用判定と手続、給与計算社会保険労務士(当事務所)
診療所開設届・歯科技工所開設届(保健所)の作成・提出支援行政書士(または院長本人)
開業の税務・確定申告税理士
診療所・技工所となる物件の仲介・重要事項説明宅地建物取引業者

診療所開設届・歯科技工所開設届は四葉行政書士事務所、物件は四葉不動産へおつなぎすることもできますが、四葉行政書士事務所・四葉不動産は当事務所とは独立した事業体で、社会保険労務士業務・行政書士業務・宅地建物取引業務は別々にご契約いただきます(一括受任はしません)。当事務所は紹介料を受け取りません。開設届の根拠(医療法・歯科技工士法)は参照にとどめ、手続そのものは行政書士または院長本人が行う整理です。

四葉社会保険労務士事務所では、歯科衛生士・歯科助手のパート・時短の社会保険の適用判定、技工士の労働時間・36協定・割増賃金、就業規則の作成についてご相談いただけます。費用は報酬額表にまとめています。

よくある質問

Q. 個人経営の歯科医院ですが、従業員が5人以上でも社会保険に入らなくてよいのですか?
A. いいえ、入ります。健康保険・厚生年金では、医療の事業は法定の適用業種に含まれるため、個人経営でも常時5人以上の従業員がいれば強制適用事業所になります。個人経営でも5人以上で強制適用にならない理容・美容業などのサービス業とは扱いが逆なので、注意してください。法人であれば院長1人でも強制適用です。

Q. 歯科衛生士を扶養内のパートにしたいのですが、何時間までなら社会保険に入りませんか?
A. 通常の労働者と比べて、1週の所定労働時間と1月の所定労働日数がいずれも4分の3未満なら、原則として加入しません。ただし勤務先が特定適用事業所にあたると、週20時間以上・月額8.8万円以上などの条件で加入対象になります。企業規模の要件は段階的に拡大し、月8.8万円の賃金要件は2026年10月に撤廃される予定なので、最新の要件で判定してください。

Q. 歯科技工所の技工士に残業代は必要ですか?
A. 雇用している技工士には、労働基準法の労働時間・割増賃金がそのままかかります。1日8時間・1週40時間を超えて働かせるには36協定の締結・届出が必要で、時間外・深夜・休日には割増賃金を支払います。「職人だから」「請負のようだから」で残業代が不要になることはありません。業務委託の形でも、実態が雇用と判断されれば同じ扱いになります。

Q. 従業員が5人の歯科医院に、就業規則は必要ですか?
A. 作成・届出が義務になるのは常時10人以上の事業場からなので、5人であれば義務ではありません。ただし労働条件の明示は1人目から必要で、ハラスメント防止や育児・介護休業法上の措置は人数に関係なく義務です。義務でなくても、時短やパートが混在する歯科医院ほど、シフトや休暇のルールを文書にしておくと運用が安定します。

この記事の根拠

  • 健康保険法(大正11年法律第70号)第3条第3項・厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第6条:法人は代表者1人でも強制適用、個人事業所は常時5人以上で強制適用。適用業種に「疾病の治療、助産その他医療の事業」「物の製造、加工…の事業」が含まれ、理容・美容業などのサービス業は除外(日本年金機構「適用事業所と被保険者」、健康保険の強制適用業種の一覧により確認。2026年9月21日参照)
  • 短時間労働者に対する社会保険の適用拡大:4分の3基準、特定適用事業所での週20時間以上・月額8.8万円以上・2か月超の雇用見込み・学生でない、の要件。企業規模要件は被保険者51人以上、2027年10月から36人以上へ段階的に拡大。月額8.8万円の賃金要件は2026年10月撤廃予定(厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」・日本年金機構。2026年9月21日参照)
  • 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第4条・第6条:週20時間以上等の労働者が被保険者、2028年10月から週10時間以上
  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条(労働条件の明示)、第32条(労働時間)、第36条(時間外・休日労働)、第37条(割増賃金)、第89条(常時10人以上の就業規則の作成・届出義務)
  • 開設届の根拠:医療法(診療所の開設届・開設許可)、歯科技工士法(歯科技工所の開設届)。本記事では参照にとどめ、手続そのものは行政書士または開設者本人が行う整理としています
  • 条文はいずれも2026年9月21日時点でe-Gov法令検索および各官庁の公表資料により確認しました。企業規模要件・賃金要件・料率は改定されるため、最新は日本年金機構・厚生労働省で確認してください

この記事は、誰に相談するかまでは決めていません。社会保険・労働保険の適用判定と手続、就業規則、給与計算は社会保険労務士の業務です。診療所・歯科技工所の開設届は行政書士または院長本人、開業の税務は税理士、物件の仲介は宅地建物取引業者へ、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形をご案内します。当事務所は紹介料を受け取りません。四葉社会保険労務士事務所にご相談いただく場合の費用は報酬額表に、よくいただくご質問はよくあるご質問にまとめています。

本記事は一般的な情報提供です。パートの社会保険の加入判定や労働時間の取扱いなど個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松丈二(社会保険労務士・行政書士・宅地建物取引士)です。

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