「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)と遺贈はどう違うか
「特定の不動産を長男に相続させる」旨の遺言は、法律上「特定財産承継遺言」と呼ばれます(民法第1014条第2項)。「遺贈」(民法第964条)との違い、2019年施行の相続法改正で特定財産承継遺言でも法定相続分を超える部分に対抗要件(登記)が必要になった点(民法第899条の2)、登記の申請方法や登録免許税、遺留分・二次相続への影響を整理し、相続登記は司法書士、相続税は税理士、遺留分など紛争は弁護士、公正証書遺言は公証人へ分離受任で振る分担をまとめました。
結論(先に要点):「特定の不動産を長男に相続させる」といった「相続させる」旨の遺言は、法律上「特定財産承継遺言」と呼ばれ、遺産分割方法の指定として特定の財産を相続人に承継させるものです(民法第1014条第2項)。これに対し「遺贈」は、遺言によって財産を無償で人に与える処分で、相続人以外にもできます(民法第964条)。2019年7月1日施行の相続法改正で、特定財産承継遺言でも、法定相続分を超える部分は登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できなくなった点が実務上の分かれ目です(民法第899条の2)。本記事は両者の違いを整理する一般的な情報提供であり、どちらを選ぶべきかや遺留分の当否といった具体的な法的判断は行いません。
『相続させる』旨の遺言(特定財産承継遺言)とは何か?
遺言の効力は、原則として遺言者の死亡の時から生じます(民法第985条第1項)。財産を承継させる遺言の方法には、大きく分けて次の2つがあります。
特定財産承継遺言は、「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」です(民法第1014条第2項)。「特定の不動産を配偶者に相続させる」といった書き方が典型で、従来は「相続させる」旨の遺言と呼ばれてきました。承継先は相続人に限られます。
遺贈は、遺言者が包括または特定の名義でその財産の全部または一部を処分することをいいます(民法第964条)。特定の財産を指定する「特定遺贈」と、財産の全部または割合で示す「包括遺贈」があり、承継先は相続人に限られず、相続人以外の人や法人にもできます。
| 区分 | 特定財産承継遺言 | 遺贈 |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法第1014条第2項 | 民法第964条 |
| 承継先 | 相続人に限られる | 相続人以外にもできる |
| 性質 | 遺産分割方法の指定 | 遺言による無償の財産処分 |
| 典型的な文言 | 「〜を相続させる」 | 「〜を遺贈する」 |
遺贈と特定財産承継遺言は登記や対抗要件でどう違うのか?
2019年7月1日施行の相続法改正(平成30年法律第72号)で、対抗要件のルールが変わりました。相続による権利の承継は、遺産分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができません(民法第899条の2第1項)。特定財産承継遺言による承継もこの対象で、改正前は登記がなくても第三者に対抗できるとされていた取扱いが変わりました。つまり、いずれの方式でも、法定相続分を超えて取得した部分は早く登記をしておくことが重要になります。
不動産の名義変更(登記)の申請方法にも違いがあります。
| 区分 | 登記の原因 | 申請方法 |
|---|---|---|
| 特定財産承継遺言 | 相続 | 受益相続人が単独で申請できる |
| 遺贈(相続人に対するもの) | 遺贈 | 令和3年法律第24号による不動産登記法改正(2023年4月1日施行)で、受遺者である相続人が単独で申請できる(不動産登記法第63条第3項) |
| 遺贈(相続人以外に対するもの) | 遺贈 | 原則として登記権利者と登記義務者(遺言執行者または相続人全員)の共同申請 |
特定財産承継遺言では、遺言執行者がいる場合、遺言執行者が受益相続人のために対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます(民法第1014条第2項)。登録免許税は、相続(相続人に対する遺贈を含む)による所有権移転登記は不動産価額の0.4%(1000分の4)ですが、相続人以外への遺贈による移転は原則として2.0%(1000分の20)と異なります(登録免許税法別表第一)。税率や課税の当てはめは税理士の領域です。
どちらを選ぶと相続人・受遺者の手続が軽くなるのか?
承継先が相続人であれば、特定財産承継遺言(相続を登記原因)とすることで、受益相続人が単独で相続登記を申請でき、登録免許税も0.4%となるのが一般的です。相続人以外に財産を渡したい場合は、そもそも特定財産承継遺言は使えず、遺贈によることになります。
なお、令和3年の不動産登記法改正で相続人に対する遺贈も単独申請ができるようになったため、「相続人への遺贈」については登記の申請方法の差は小さくなりました。もっとも、不動産取得税は相続(相続人への遺贈を含む)による取得が非課税とされる一方、相続人以外への特定遺贈は課税されるなど、税負担では違いが残ります(地方税法第73条の7ほか。課税の判断は税理士)。どの方式が手続や費用の面で軽いかは、承継先が相続人か否か、対象財産の種類、二次相続まで見た税負担によって変わります。
遺留分や二次相続への影響はどう考えるか?
特定財産承継遺言でも遺贈でも、一定の相続人には遺留分(最低限保障される取り分)があり、これを侵害する内容だと、遺留分権利者から遺留分侵害額の請求を受けることがあります(民法第1046条)。この請求は金銭の支払を求める債権として扱われます。遺留分の考え方は遺留分の基礎もご覧ください。
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また、配偶者に多くを承継させる遺言は、その配偶者が亡くなったときの二次相続で相続税の負担が増えることがあり、一次相続と二次相続を通した設計が問題になります。相続税の試算や特例の適用可否は税理士の業務で、当事務所は税務相談を行いません。遺言そのものの作り方は自筆証書遺言と公正証書遺言の違い、遺言を実現する人については遺言執行者は誰に頼む?を参照してください。
遺言作成と相続登記・税務は誰に頼めばよいのか?
遺言書の原案作成や、相続開始後の遺産分割協議書の作成は、行政書士業務の範囲で支援できます。一方、遺言や相続に伴う手続には、行政書士以外の資格者が担うものがあります。
- 公正証書遺言の作成そのものは公証人が行います。
- 不動産の名義変更(相続登記・遺贈登記)は司法書士の業務です。手続の流れは相続登記の流れを参照してください。
- 相続税の申告や二次相続を見据えた試算は税理士の業務です。
- 遺留分をめぐる交渉・調停・訴訟など紛争性のある事案の代理は弁護士の業務です。
四葉行政書士事務所と四葉不動産株式会社は別事業体です。遺言書原案・遺産分割協議書の作成は行政書士、相続登記・遺贈登記は司法書士、相続税の申告は税理士、遺留分など紛争性のある事案は弁護士、公正証書遺言の作成は公証人が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約のうえ対応します。当事務所は紹介料を受け取りません。不動産の相続・売却のご相談は不動産の相続・売却の窓口へ。受任の流れは受任の流れ、料金は報酬額表、相続の取扱業務は相続手続きサポートをご覧ください。
よくある質問
Q. 「相続させる」と「遺贈する」は同じ意味ですか?
A. いいえ。「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言、民法第1014条第2項)は、遺産分割方法の指定として特定の財産を相続人に承継させるもので、承継先は相続人に限られます。「遺贈する」(民法第964条)は遺言による無償の財産処分で、相続人以外にもできます。登記の原因や税負担が異なる場合があるため、個別の当てはめは資格者にご確認ください。
Q. 遺言で不動産をもらえば、登記しなくても安心ですか?
A. 2019年7月1日施行の相続法改正で、特定財産承継遺言でも、法定相続分を超える部分は登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとされました(民法第899条の2)。遺贈でも同様に対抗要件が必要です。早めに名義変更(相続登記・遺贈登記)を行うことが重要で、登記手続は司法書士の業務です。
Q. 相続人以外の人に特定の財産を渡すにはどうすればよいですか?
A. 承継先が相続人以外の場合、特定財産承継遺言は使えず、遺贈によることになります(民法第964条)。相続人以外への特定遺贈は、登録免許税が原則2.0%になり、不動産取得税も課税されるなど、相続人への承継と税負担が異なることがあります。税務の判断は税理士にご確認ください。
Q. 遺言の内容が遺留分を侵害していたらどうなりますか?
A. 特定財産承継遺言でも遺贈でも、遺留分を侵害する内容であれば、遺留分権利者から遺留分侵害額の請求(金銭の支払を求める請求)を受けることがあります(民法第1046条)。遺留分をめぐる交渉・調停・訴訟の代理は弁護士の業務で、弁護士は当事務所とは独立した事業体として別々にご契約いただきます。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)第964条・第985条・第899条の2・第1014条・第1046条(参照日 2026-09-13)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(平成16年法律第123号)第63条(参照日 2026-09-13)
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」(平成30年法律第72号、対抗要件に関する規定の施行は2019年7月1日)(参照日 2026-09-13)
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)」(相続人に対する遺贈の単独申請は2023年4月1日施行)(参照日 2026-09-13)
- e-Gov法令検索「登録免許税法」(昭和42年法律第35号)別表第一(参照日 2026-09-13)
本記事は一般的な情報提供であり、どちらの方式を選ぶべきか、遺留分侵害の有無、登録免許税・不動産取得税の具体的な当てはめを保証するものではありません。遺言書原案・遺産分割協議書の作成は行政書士、相続登記・遺贈登記は司法書士、相続税の申告は税理士、遺留分など紛争性のある事案は弁護士、公正証書遺言の作成は公証人が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約のうえ対応します。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松 丈二(四葉行政書士事務所代表行政書士、四葉不動産株式会社代表取締役)です。
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