「相続させる」遺言で受益相続人が先に死亡|代襲は原則なし・予備的遺言で備える

「特定の財産を特定の相続人に相続させる」遺言(特定財産承継遺言・民法第1014条第2項)で、受益相続人が遺言者より先に死亡した場合、その子(孫)は原則として代襲相続しません。最高裁平成23年2月22日判決(民集65巻2号699頁)の考え方、遺贈の明文(民法第994条・第995条)との比較、条項失効後の遺産分割、予備的遺言での備え方と、作成・公正証書化・登記の分離受任を行政書士の実務から整理します。
結論(先に要点):「特定の財産を特定の相続人に相続させる」と書いた遺言(特定財産承継遺言。民法第1014条第2項が定義する「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」)で、財産を受けるはずの相続人が遺言者より先に亡くなっていたときは、原則としてその人の子(遺言者からみた孫)が代わって相続することはありません。最高裁判所第三小法廷 平成23年2月22日判決(民集65巻2号699頁)は、「相続させる」旨の遺言は、遺言者が、その推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生じないと判断しました。遺贈では民法第994条第1項が「遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と明文で定め、第995条がその財産は相続人に帰属すると定めています。効力を失った財産は、その部分について遺言がなかったのと同じになり、法定相続分と遺産分割協議で分けることになります。確実にさらに下の世代へ承継させたいなら、予備的遺言(次順位の承継先を定める補充の条項)で備えます。遺言書の文案作成は行政書士、公正証書化は公証人(公証役場)、相続登記は司法書士、相続税は税理士、相続人の間で争いがあれば弁護士が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく前提で分けて振ります。相続した不動産の売却・管理は別事業体の四葉不動産株式会社が担当します。本記事は一般的な情報提供であり、個別の遺言の有効・無効や効力を確定するものではありません。当事務所は紹介料を受け取りません。
「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)とはどんな遺言ですか?
「自宅の土地建物は長男に相続させる」「この事業用資産は次女に相続させる」というように、特定の財産を特定の相続人に取得させる遺言を、実務では「相続させる」旨の遺言と呼びます。2019年(令和元年)7月1日に施行された改正相続法で、民法第1014条第2項がこれを「特定財産承継遺言」という用語で定義しました。条文は「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」と表現しています。
ポイントは、相手が「相続人」である点です。相続人でない人(たとえば孫や内縁の配偶者、法人)に財産を与える「遺贈」とは、法的な性質が異なります。「相続させる」旨の遺言は、原則として遺産分割の方法の指定(または相続分の指定を伴う指定)と解され、相続開始と同時に当該財産がその相続人に承継されるのが通常です。言葉づかいの違いが、先に見る先死亡の場面で結論を分けることがあります。遺贈との違いの全体像は「相続させる」遺言と遺贈はどう違う?で整理しています。
受益相続人が遺言者より先に死亡すると、その子(孫)が代襲して相続しますか?
原則として、代襲相続は起きません。ここが誤解の多いところです。
通常の相続(遺言がない場合)では、相続人になるはずの子が相続開始以前に死亡していると、その子(孫)が代襲して相続人になります(民法第887条第2項)。そこで「遺言で財産を受けるはずだった子が先に死んだなら、同じように孫が代襲するのでは」と考えてしまいがちです。しかし、「相続させる」旨の遺言で財産を受ける相続人(受益相続人)が遺言者より先に死亡した場合には、代襲のルールはそのままは当てはまりません。
| 場面 | 孫(代襲者)が当然に承継するか | 整理 |
|---|---|---|
| 遺言がなく、相続人の子が先に死亡 | する(代襲相続) | 民法第887条第2項 |
| 「相続させる」旨の遺言で、受益相続人が遺言者より先に死亡 | 原則しない | 最高裁 平成23年2月22日判決 |
| 遺贈で、受遺者が遺言者の死亡以前に死亡 | しない(遺贈は効力を生じない) | 民法第994条第1項 |
理由は次の見出しで扱う最高裁の考え方にあります。遺言は遺言者の意思を実現する制度なので、「その財産を、あくまでその人に承継させたい」という意思だったのか、「その人の家系(孫)にまで承継させたい」という意思だったのかを、遺言の文言と事情から読み取る必要がある、という枠組みです。代襲相続そのものの範囲は相続人は誰になる?代襲相続・再代襲の範囲で整理しています。
最高裁はこの場合の遺言の効力をどう判断していますか?
最高裁判所第三小法廷 平成23年2月22日判決(民集65巻2号699頁)は、次のように判断しました。すなわち、「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、遺言者が、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない、というものです。
この事案では、遺言者が「財産全部をある子に相続させる」とする公正証書遺言を作っていましたが、その子が遺言者より先に亡くなり、その後に遺言者が亡くなりました。最高裁は、特段の事情がない限り、その遺言は効力を生じないと結論づけました。
つまり、分かれ目は「特段の事情」の有無です。遺言者が、受益相続人が先に死んだ場合には代襲者(その子=孫)その他の者に承継させる意思を持っていたと認められれば、効力が生じる余地があります。逆に、そうした意思が読み取れなければ、その条項は効力を生じません。どちらに当たるかは、遺言全体の文言、作成の経緯、遺言者と受益相続人・代襲者との関係などから個別に判断される事柄であり、一律に決まるものではありません。個別の遺言がどちらに当たるかの最終判断は、有資格者が行います。
条項が効力を失うと、その財産はどう分けられますか?
効力を生じなかった「相続させる」旨の条項が対象としていた財産は、その部分については遺言で承継先が定まっていないのと同じ状態になります。したがって、その財産は共同相続人による遺産分割の対象となり、法定相続分を出発点に、相続人全員の遺産分割協議で分けることになります。
参考に、遺贈の場合の明文ルールを並べておきます。遺贈では、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは遺贈の効力を生じず(民法第994条第1項)、効力を生じない遺贈の目的物は、遺言者が別段の意思を表示していない限り、相続人に帰属します(民法第995条)。「相続させる」旨の遺言は遺贈とは性質が異なりますが、受益者が先に亡くなったときに当然には下の世代へ承継されず、結果としてその財産が通常の相続・遺産分割の土俵に戻るという点では、考え方が近いといえます。
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| 遺言で定めた財産の行き先 | 受益者が先に死亡した場合の原則 |
|---|---|
| 「相続させる」旨(相続人向け) | 特段の事情がなければ条項は効力を生じず、遺産分割の対象に戻る |
| 遺贈(相続人以外も可) | 遺贈は効力を生じず、目的物は相続人に帰属(民法第994条・第995条) |
遺産分割協議書の作成(相続人間に争いがない場合)は行政書士が支援できますが、分け方をめぐって争いがあるときの交渉・調停・審判は弁護士の業務です。遺産分割の進め方は相続業務もご覧ください。
予備的遺言(次順位の定め)で備えるには、作成・公正証書化・登記を誰に分けて頼めばよいですか?
確実に下の世代へ承継させたい、あるいは受益相続人が先に亡くなったときの行き先を自分で決めておきたいなら、予備的遺言(補充遺言)で備えます。たとえば「長男に相続させる。長男が私より先に死亡したときは、長男の子である孫◯◯に相続させる」というように、次順位の承継先をあらかじめ書いておく方法です。これがあれば、受益相続人が先に死亡しても、その財産の行き先が遺言で定まります。
| 工程 | 担当(独立した事業体として別々にご契約) |
|---|---|
| 遺言書(予備的条項を含む)の文案作成・必要書類の整理 | 行政書士 |
| 公正証書遺言の作成・証人・原本保管 | 公証人(公証役場) |
| 相続開始後の相続登記(不動産の名義変更) | 司法書士 |
| 相続税の申告・評価 | 税理士 |
| 相続人間で争いがある場合の交渉・調停・審判 | 弁護士 |
| 相続した不動産の売却・管理・査定 | 宅地建物取引業者(別事業体の四葉不動産株式会社) |
行政書士が担当するのは、ご意向の聞き取りと遺言書(予備的条項を含む)の文案作成、添付資料の整理です。公正証書にするかどうか、証人の手配、原本保管は公証役場で行います。公正証書遺言の費用や進め方は公正証書遺言の手数料と証人、自筆証書と公正証書の違いは自筆証書遺言と公正証書遺言で整理しています。受任の流れは受任の流れ、料金は報酬額表をご覧ください。相続した不動産の売却・管理は別事業体の四葉不動産株式会社が担当し、不動産相続の窓口は相続の総合案内もご覧ください。当事務所は紹介料を受け取りません。
よくある質問
Q. 「長男に相続させる」と書いた遺言で、長男が私より先に亡くなったら、長男の子(孫)が自動的に相続しますか?
A. 原則として自動的には相続しません。最高裁判所第三小法廷 平成23年2月22日判決は、「相続させる」旨の遺言は、遺言者が代襲者その他の者に相続させる意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生じないと判断しています。孫に確実に承継させたいなら、予備的遺言で次順位の承継先を書いておくことをおすすめします。
Q. 遺贈の場合も、もらうはずの人が先に死んだら同じ扱いですか?
A. 遺贈では明文のルールがあります。遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、遺贈はその効力を生じず(民法第994条第1項)、その目的物は、別段の意思表示がなければ相続人に帰属します(民法第995条)。「相続させる」旨の遺言は遺贈とは性質が異なりますが、受益者の先死亡で当然には下の世代へ承継されない点は共通します。
Q. 条項が効力を失った財産は、結局どうなりますか?
A. その財産については遺言で承継先が定まっていない状態になるため、共同相続人による遺産分割の対象になります。法定相続分を出発点に、相続人全員の遺産分割協議で分けます。分け方に争いがある場合の交渉・調停・審判は弁護士の業務です。
Q. 予備的遺言は行政書士に頼めますか?遺言の有効・無効も判断してもらえますか?
A. 遺言書(予備的条項を含む)の文案作成と必要書類の整理は行政書士が支援できます。ただし、個別の遺言が有効か無効か、特段の事情に当たるかどうかの最終判断は、本記事のような一般的な情報提供ではなく、有資格者が個別の事情をふまえて行います。公正証書化は公証役場、相続登記は司法書士、争いのある事案は弁護士へ、それぞれ独立した事業体として別々にご契約のうえ分けて進めます。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)第887条第2項(子の代襲相続)・第994条第1項(遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは遺贈はその効力を生じない)・第995条(効力を生じない遺贈の目的物は相続人に帰属する。別段の意思表示があればその意思に従う)・第1014条第2項(特定財産承継遺言の定義)(参照日 2026-10-14)
- 最高裁判所第三小法廷 平成23年2月22日判決(民集65巻2号699頁)。「相続させる」旨の遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合、遺言者が当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生じないと判断(参照日 2026-10-14)
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」(特定財産承継遺言に関する2019年施行の改正の説明)(参照日 2026-10-14)
- 日本公証人連合会・公証役場「公正証書遺言」の案内(証人・原本保管・手数料の考え方。具体の費用・手続は作成時に公証役場で確認)(参照日 2026-10-14)
本記事は一般的な情報提供であり、個別の遺言の有効・無効、特段の事情の有無、代襲の成否、承継先を確定・保証するものではありません。遺言書の文案作成・必要書類の整理は行政書士、公正証書化は公証人(公証役場)、相続登記は司法書士、相続税など税務は税理士、相続人間で争いのある事案の交渉・調停・審判は弁護士が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約のうえ対応します。相続した不動産の売却・管理は別事業体の四葉不動産株式会社が担当し、当事務所は紹介料を受け取りません。個別の遺言の効力は、遺言の文言と事情を確認のうえ、必要に応じて有資格者が判断します。執筆は浦松 丈二(行政書士・宅地建物取引士)です。
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