相続した不動産を換価分割で売る流れは?──名義・登記・譲渡税の按分まで
相続した不動産を「売って現金で分ける」のが換価分割です。代表者名義で登記して売る場合でも、換価のための便宜で代金を協議どおりに分けるなら贈与税は問題にならず(国税庁の質疑応答事例)、売却益にかかる譲渡所得税は各相続人が持分に応じて申告します。相続登記は2024年4月1日から義務化され、売る前提でも避けて通れません。東京都文京区の宅地建物取引士兼行政書士が、民法・所得税法・不動産登記法の条文から実務の順序を整理します。
結論(先に要点):相続した不動産を「売って現金で分ける」のが換価分割です。要点は、①代表者名義で登記して売る場合でも、それが換価のための便宜で、代金を協議どおりに分けるなら贈与税は問題にならない(国税庁の質疑応答事例)②売却益にかかる譲渡所得税は、各相続人が持分に応じて申告する、の2点です。相続登記は2024年4月1日から義務化され、売る前提でも避けて通れません。具体的な税額・持分の判断は税理士・有資格者に委ねます。
実家や収益物件を相続したが、きょうだいで現物のまま分けるのは難しい。だから売って現金で分けたい——これが換価分割です。本記事は、不動産を売って代金を分けたい相続人の方に向けて、代表者名義・登記の順序・譲渡税の按分という実務の順序を、民法・所得税法・不動産登記法の条文と国税庁の資料から整理したものです。最終的な税額や持分の法的判断は、税理士・弁護士などの有資格者に委ねます。
換価分割とは何で、現物分割・代償分割とどう違うのか?
遺産の分け方には、大きく3つの型があります。民法第906条は、遺産分割を「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」行うと定めます。どの型を採るかは、この考慮のなかで相続人が選びます。
| 分割の型 | 内容 | 向く場面 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産や預金を、そのままの形で各相続人に割り付ける | 分けやすい財産が複数あるとき |
| 代償分割 | 一人が不動産を取得し、他の相続人へ代償金(現金)を払う | 不動産を残したい・住み続けたいとき |
| 換価分割 | 不動産を売却して現金化し、代金を持分に応じて分ける | 現物で分けにくく、誰も残す必要がないとき |
換価分割は、**「実家を売って、きょうだいで現金を分ける」**の典型です。現物分割のように土地を細切れにする必要がなく、代償分割のように取得者が多額の現金を用意する必要もありません。一方で、売却という実務が加わるぶん、名義・登記・税金の順序を間違えないことが大切になります。実家を「売る・残す」の判断そのものは「相続した実家、売るか残すか」、賃貸物件を引き継ぐ場合は「相続したアパートをどう引き継ぐか」に整理しています。
誰の名義で売るのか(代表者売却)と、相続登記の順序は?
不動産は、被相続人名義のままでは売れません。買主に所有権を移すには、いったん相続人へ名義を移す相続登記が要ります。ここで換価分割には2つのやり方があります。
| 方式 | 登記の形 | 留意点 |
|---|---|---|
| 共有登記 | 相続人全員の共有名義で登記し、全員が売主として売る | 全員の関与・書類が要る。海外在住者がいると手間が増える |
| 代表者名義(換価のための便宜) | 代表相続人1人の名義で登記し、その人が売主として売る | 手続はまとまるが、遺産分割協議書に「換価目的」と「分配割合」を明記しないと、代表者から他の相続人への贈与を疑われる |
代表者名義で売っても、それが換価のための便宜であり、売却代金を協議どおりに実際に分配するなら、贈与税の課税は問題になりません。 これは国税庁の質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」で示された考え方です。逆に、協議書の書き方が曖昧だと、代表者が単独取得したうえで他の相続人へ贈与した、と認定されるおそれがあります。協議書に「対象不動産を売却し、費用を除いた残額を各人◯分の◯で分配する」と明記するのが要点です。
そして相続登記は、2024年(令和6年)4月1日から義務化されました。不動産登記法第76条の2は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の登記申請を求め、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(同法第164条第1項)。「売るのだから登記は省ける」わけではありません。 売るためにこそ登記が要ります。登記義務化の全体像は「相続した不動産の登記、いつまでに?」に整理しています。相続登記そのものの申請は司法書士、遺産分割協議書の作成は行政書士が扱います。
売って得たお金にかかる譲渡所得税は、誰がいくら負担するのか?
不動産を売って利益(譲渡益)が出れば、譲渡所得税がかかります。所得税法第33条は、資産の譲渡による所得を譲渡所得と定めています。換価分割では、共有物を売ったものとして、各相続人が自分の持分(取得した割合)に応じて、それぞれ譲渡所得を申告します。代表者名義で売った場合でも、それが換価のための便宜であれば、税務上は各人が持分に応じて譲渡したものとして扱われるのが原則です。
譲渡所得の計算では、取得費と取得時期を被相続人から引き継ぎます(所得税法第60条)。この結果、被相続人が長く持っていた不動産なら、相続人にとっても長期譲渡所得(所有期間5年超)の税率が適用されることが多くなります。
| 区分 | 誰が申告するか | 税額の目安 |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 各相続人が持分に応じて(共有物の譲渡として) | 譲渡益 ×(長期か短期かで税率が変わる) |
| 取得費・取得時期 | 被相続人から引き継ぐ(所得税法第60条) | 取得費が不明なら概算取得費(譲渡収入の5%)による場合がある |
| 特例の適用 | 要件を満たせば各人ごとに判断 | 被相続人の居住用家屋なら空き家3000万円特別控除等の余地 |
具体的な税額・特例の可否は、物件と各人の事情で変わります。 取得費の資料が残っているか、居住用や空き家の特例に当たるか、といった判断は税理士の領域です。相続した空き家を「解体して更地」で売るか「古家付き」で売るかの比較は「相続した空き家は、解体して更地で売るか古家付き土地で売るか」に整理しています。
換価分割でよくあるつまずきと、どの専門家に振るべき場面は?
| つまずき | どうする | 振り先 |
|---|---|---|
| 協議書に「換価目的・分配割合」を書き忘れ、贈与を疑われる | 換価目的と分配割合を明記して協議書を作る | 遺産分割協議書=行政書士/紛争があれば弁護士 |
| 相続登記を後回しにして期限(3年)を過ぎる | 売る前提でも先に相続登記を済ませる | 相続登記=司法書士 |
| 譲渡所得の申告を代表者だけがすると思い込む | 各人が持分に応じて申告する前提で段取りする | 税務・申告=税理士 |
| 売り出す前に相続人の意見がまとまらない | まず売却の見立て(査定・時期)で判断材料をそろえる | 媒介・査定=宅地建物取引業者 |
| 相続人に海外在住者がいて書類が集まらない | 署名証明など在外相続人の書類を早めに手配 | 登記=司法書士/協議書=行政書士 |
当社(不動産会社)が担うのは、売却の査定・媒介・契約です。 遺産分割協議書の作成は行政書士、相続登記は司法書士、譲渡所得の申告は税理士、分割で揉めた場合は弁護士へ、それぞれ振ります。相続不動産の全体像は相続・不動産の相談にまとめています。
誰に相談すればよいですか?
不動産の査定・媒介、売買契約は、四葉不動産株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)が承ります。遺産分割協議書など官公署・私人間の書類の作成は、四葉行政書士事務所が承ります。相続登記は司法書士、譲渡所得税の申告は税理士、遺産分割で争いがある場合は弁護士が、それぞれの独占領域を扱います。
これらはそれぞれ独立した事業体です。それぞれ直接ご契約いただきます。 当社・当事務所は、紹介料・送客手数料を受け取ることも支払うこともありません。労務は社会保険労務士(2026年9月開業予定)へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。相談は無料です。
よくある質問
Q. 代表者1人の名義で売ると、他の相続人への贈与になりますか?
A. なりません(原則)。国税庁の質疑応答事例では、1人の名義で相続登記をしたのが単に換価のための便宜であり、売却代金が遺産分割の内容どおりに実際に分配されるなら、贈与税の課税は問題にならないとされています。ただし遺産分割協議書に「換価目的」と「分配割合」を明記しておくことが前提です。書き方が曖昧だと贈与と認定されるおそれがあります。
Q. 売るつもりでも、先に相続登記をしないといけませんか?
A. はい。被相続人名義のままでは買主へ所有権を移せないため、売るには相続登記が必要です。加えて相続登記は2024年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が求められます(不動産登記法第76条の2)。売る前提でも避けて通れません。申請は司法書士が扱います。
Q. 譲渡所得税は代表者がまとめて払うのですか?
A. いいえ。換価分割では共有物を売ったものとして、各相続人が自分の持分に応じてそれぞれ譲渡所得を申告するのが原則です。取得費・取得時期は被相続人から引き継ぎます(所得税法第60条)。具体的な税額や特例の可否は税理士にご確認ください。
Q. 換価分割と代償分割はどちらが得ですか?
A. 一概には言えません。誰も不動産を残す必要がなく現金で分けたいなら換価分割、一人が住み続けたい・残したいなら代償分割が向きます。売却益への課税や代償金の用意など、税・資金の面は各人の事情で変わるため、税理士を交えて比較するのが安全です。当社は売却の見立て(査定・時期)で判断材料を提供します。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号。第906条=遺産分割の基準(遺産の種類・性質、各相続人の事情その他一切の事情を考慮)、第907条=遺産分割の協議・審判。2026年8月28日参照)
- e-Gov法令検索「所得税法」(昭和40年法律第33号。第33条=譲渡所得、第60条=贈与・相続等により取得した資産の取得費・取得時期の引継ぎ。2026年8月28日参照)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(平成16年法律第123号。第76条の2=相続による所有権移転登記の申請義務(取得を知った日から3年以内。2024年(令和6年)4月1日施行)、第164条=正当な理由なく怠った場合の過料(10万円以下)。2026年8月28日参照)
- 国税庁 質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」(1人の名義で相続登記したのが換価のための便宜であり、代金が分割の内容どおりに分配される場合は贈与税の課税は問題にならない。2026年8月28日参照)
※譲渡所得の具体的な税額、取得費の算定、空き家3000万円特別控除など各特例の可否は、物件と各人の事情によって変わります。本記事は個別の事案について判断していません。税額・申告は税理士に、持分・分割の法的判断は弁護士・有資格者にご確認ください。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の相続・売却の可否や税額を判断・保証するものではありません。
※不動産の査定・媒介および売買契約は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が、遺産分割協議書等の書類作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形で受任します。相続登記は司法書士、税務は税理士、紛争は弁護士へ直接ご依頼いただきます。紹介料・送客手数料のやりとりはありません。
この記事の執筆者
浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。物件(不動産)と手続(相続・行政手続)の論点を同じテーブルに並べて確認します。詳しい経歴は著者ページをご覧ください。
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