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2026.08.14相続

賃貸アパートを相続したら──入居者との契約・敷金・家賃はどう引き継がれるか

浦松 丈二

浦松 丈二

代表取締役・宅地建物取引士(四葉不動産株式会社)

プロフィール(士業ドットコム)↗

賃貸中のアパートを相続すると、入居者との賃貸借契約と敷金の返還義務は自動的に相続人へ引き継がれます(民法896条)。入居者に退去してもらう必要はありません。遺産分割までの家賃は、判例により法定相続分どおり各相続人が取得します(最高裁平成17年9月8日判決)。口座凍結への対応、管理会社との調整、入居者がいるまま売るオーナーチェンジという選択肢まで、引き継ぎの実務を順に説明します。

結論(先に要点):賃貸中のアパートを相続すると、入居者との賃貸借契約と敷金の返還義務は、法律上そのまま相続人へ引き継がれます。入居者に退去してもらう必要はなく、契約を結び直す必要もありません。決めるべきことは、①家賃の受け皿(振込先)、②管理の継続、③持ち続けるか売るか——の3点です。本記事は、賃貸中のアパートや区分マンションを相続した方に向けて、引き継ぎの実務を順に説明します。売買(オーナーチェンジ)で買った場合の敷金の扱いは「オーナーチェンジと敷金の承継」をご覧ください。

入居者との賃貸借契約はどうなりますか?

相続人は、相続開始の時から、被相続人(亡くなった方)の財産に属した一切の権利義務を承継します(e-Gov法令検索「民法」明治29年法律第89号・896条)。賃貸人(大家)としての地位もこれに含まれるため、入居者と契約を結び直す必要はなく、大家が亡くなったことは入居者に退去を求める理由にもなりません

実務でやることは、権利関係の整理ではなく連絡です。入居者に対して、賃貸人が変わったこと・新しい振込先を知らせる「賃貸人変更のお知らせ」を送ります。管理会社が入っていれば、管理会社経由で行うのが一般的です。

敷金は誰が返すのですか?

敷金の返還義務も、賃貸人の地位とともに相続人へ引き継がれます。入居者が退去するとき、敷金を返すのは相続人です。「前の大家から敷金を受け取っていないので知らない」という主張は通りません。

項目相続でどうなるか
賃貸借契約(賃貸人の地位)当然に承継。再契約は不要
敷金の返還義務承継する。退去時は相続人が返還
相続開始前の滞納賃料被相続人の債権として相続財産に含まれる
管理会社との管理委託契約委任は当事者の死亡が終了事由とされており(民法653条)、契約の定めの確認と管理会社への連絡が必要
火災保険・地震保険契約者変更の手続を保険会社に確認

管理委託契約がそのまま続くのか、締結し直しになるのかは、契約書の定めによって異なります。契約書を確認のうえ、管理会社と早めに調整してください。

遺産分割が終わるまでの家賃は誰のものですか?

相続人が複数いる場合、遺産分割がまとまるまでの家賃の帰属は、判例で決着しています。

最高裁は、相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産から生じた賃料債権は、遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得すると判断しました(最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決・民集59巻7号1931頁)。

つまり、遺産分割でその物件を誰が取得することになっても、分割までの家賃は法定相続分どおりに各相続人のものです。あとから物件の取得者が「遡って全部自分のものだ」と主張することはできません。分割前の家賃は、専用の口座で保管するなど、相続人間で受け皿を合意しておくと争いを防げます。

なお、被相続人の家賃収入に関する税務(亡くなった年の準確定申告を含む)は税理士の業務です。必要な場合は税理士へ直接ご依頼いただく形をご案内します。

管理会社・家賃振込はどうすればよいですか?

被相続人名義の口座は、金融機関が死亡を把握すると凍結され、家賃の振込先として使えなくなります。実務の段取りは次のとおりです。

順番やること
1管理会社へ相続発生を連絡(賃貸借契約書・管理委託契約書を確認)
2家賃の受け皿となる口座を決める(遺産分割前は相続人間で保管方法を合意)
3入居者へ賃貸人変更・振込先変更を通知(管理会社経由が一般的)
4管理委託契約の継続・再契約を管理会社と調整

自主管理だった物件は、この機会に管理会社への委託を検討する選択肢もあります。相続人が遠方に住んでいる場合は特に、管理の受け皿を先に固めると、その後の判断(持つか売るか)が落ち着いてできます。

相続したアパートは持ち続けるべきですか、売るべきですか?

賃貸経営を続けるか売却するかは、建物の状態・収支・相続人の事情で分かれます。判断の材料は次のとおりです。

  • 続ける場合——修繕の見通し(外壁・屋上・給排水)、空室率、管理体制。相続を機に収支を作り直すと判断しやすくなります
  • 売る場合——**入居者がいるまま売却する(オーナーチェンジ)**ことができます。退去を待つ必要はありません。売却時、敷金の返還義務は買主へ引き継がれる整理が一般的です(詳細は「オーナーチェンジと敷金の承継」

実家(空き家)の場合の考え方は「相続した実家、売るか残すか」で整理しています。

誰に相談すればよいですか?

遺産分割協議書の作成は四葉行政書士事務所が(遺産分割協議書の作り方)、賃貸経営の継続のご相談・オーナーチェンジでの売却は四葉不動産株式会社が、それぞれ独立した事業体として別契約で受任します。相続登記の申請は司法書士、税務(準確定申告・相続税)は税理士の業務であり、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。当社・当事務所は紹介料を受け取りません。

相続不動産のご相談の全体像は相続不動産のご相談をご覧ください。

よくある質問

Q. 大家が亡くなったことを理由に、入居者に退去してもらえますか?
A. できません。賃貸借契約は相続でそのまま相続人に引き継がれ、相続は解約や解除の理由になりません。退去を求めるには、通常の賃貸借と同じく正当事由等の要件が必要です。むしろ入居者がいることは、オーナーチェンジでの売却では収益物件としての評価材料になります。

Q. 入居者から「敷金を返してほしい」と言われました。前の大家の時代の敷金も返すのですか?
A. はい。敷金の返還義務は賃貸人の地位とともに相続人へ引き継がれます。被相続人が預かった敷金でも、退去時に返還するのは現在の賃貸人である相続人です。敷金の額は賃貸借契約書と預り証で確認してください。

Q. 相続人が3人います。遺産分割がまとまるまでの家賃は誰が受け取るのですか?
A. 判例(最高裁平成17年9月8日判決)により、分割までの家賃は法定相続分に応じて各相続人が確定的に取得します。実務では、代表者の口座や専用口座で保管し、分割協議とあわせて精算する方法が取られます。保管方法を先に合意しておくと争いを防げます。

Q. 相続したアパートをそのまま売ることはできますか?
A. できます。入居者がいる状態のまま売却する方法(オーナーチェンジ)があり、退去を待つ必要はありません。ただし前提として相続登記が必要です。売却か継続かの判断材料の整理からご相談いただけます。相談は無料です。

この記事の出典(一次情報)

  • e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号。896条=相続の一般的効力、653条=委任の終了事由)
  • 最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決(民集59巻7号1931頁)——遺産分割前の賃料債権は遺産と別個の財産であり、各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する(裁判所ウェブサイトの判例検索で原文を確認できます)

※管理委託契約・保険契約の扱いは、個々の契約の定めによって結論が変わります。本記事は一般的な情報提供であり、個別の相続・契約に関する判断を保証するものではありません。
※遺産分割協議書等の書類作成は四葉行政書士事務所が、賃貸経営・売却のご相談は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が、それぞれ独立した事業体として別契約で受任します。相続登記の申請は司法書士、税務は税理士の業務です。当社・当事務所は紹介料を受け取りません。

この記事の執筆者

浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。元毎日新聞記者・中国総局長。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。賃貸経営の引き継ぎ(不動産)と協議書の作成(行政手続)の論点を同じテーブルで確認します。登記・税務は連携する専門家をご案内します。

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