海外に住む相続人が、賃貸中のマンションを売るにはどう進めますか──オーナーチェンジ売却と源泉徴収10.21%
賃貸中のマンションを相続した海外居住の相続人が売るときは、相続・賃貸中・非居住者売主の3条件が重なります。オーナーチェンジ売却は賃貸借契約と敷金・賃借人をそのまま買主へ引き継ぎ(賃貸人たる地位の移転=民法第605条の2)、売る前提でも相続登記(不動産登記法第76条の2・2024年4月1日施行)を先に済ませ、非居住者が売主だと買主が譲渡対価の10.21%を源泉徴収して確定申告で精算します。東京都文京区の宅地建物取引士兼行政書士が、条文と国税庁の資料から手順を整理します。
結論(先に要点):賃貸中のマンションを相続した海外居住の相続人が売るときは、3つの条件(相続・賃貸中・非居住者売主)が重なります。要点は、①オーナーチェンジ売却は賃貸借契約と敷金・賃借人をそのまま買主へ引き継ぐ(賃貸人たる地位の移転=民法第605条の2、敷金は譲受人が承継)②売る前提でも相続登記(不動産登記法第76条の2・2024年4月1日施行)を先に済ませる③非居住者が売主だと、買主が譲渡対価の10.21%を源泉徴収し(所得税法第212条・第213条)、あとで確定申告により精算する、の3点です。具体的な税額・登記・分割の判断は税理士・司法書士・有資格者に委ねます。
台湾や中国など海外に住みながら、日本の賃貸中の区分マンション(オーナーチェンジ物件)を相続し、これを売りたい——本記事は、そうした相続人の方や、代理・現地の専門家に向けて、賃貸中のまま売る実務を、民法・借地借家法・所得税法・不動産登記法の条文と国税庁の資料から順に整理したものです。空室の海外オーナーの売却一般は「海外に住むオーナーが日本の不動産を売るとき」、保有を続ける場合の家賃の源泉は別の論点です。本記事は「相続×賃貸中(オーナーチェンジ)×非居住者売主」の3条件が重なる場合に絞ります。不動産の査定・媒介・売買契約は当社(四葉不動産株式会社)が担い、登記・税務・紛争はそれぞれの有資格者に振ります。
賃貸中のまま売る(オーナーチェンジ)と、空室で売るのは何が違いますか?
オーナーチェンジは、賃借人が住んだまま、賃貸人(オーナー)の地位ごと買主へ引き継ぐ売り方です。空室で売るのとは、買主層も価格も手続きも変わります。
| 論点 | オーナーチェンジ(賃貸中) | 空室で売る |
|---|---|---|
| 買主層 | 投資家(利回りで見る) | 実需(自分で住む)+投資家 |
| 引き継ぐもの | 賃貸借契約・賃借人・敷金 | なし(引渡し時に空室) |
| 内覧 | 賃借人がいるため室内内覧は制約 | 自由に内覧できる |
| 価格の見方 | 賃料収入と利回り | 周辺の売買事例 |
| 明渡し | 不要(賃借人はそのまま) | 引渡しまでに明渡しが要る |
賃貸中の物件は、賃借人の生活を止めずに売れるのが利点です。 一方で室内の内覧が制約され、価格は賃料と利回りで見られます。相続した物件を「売るか・貸すか・残すか」の判断そのものは「相続した実家、売るか残すか」にも整理しています。相続不動産の全体像は相続・不動産の相談をご覧ください。
海外に住む相続人が売るとき、最初にやることは何ですか?
売買契約より前に、売れる状態を整えます。被相続人名義のままでは買主へ所有権を移せないため、まず相続登記が要ります。
| 順番 | やること | 担い手 |
|---|---|---|
| 1 | 遺産分割協議(誰がこの物件を取得するか決める) | 相続人/協議書作成=行政書士 |
| 2 | 相続登記(被相続人→相続人へ名義を移す) | 司法書士 |
| 3 | 賃貸借契約・敷金・賃借人の状況を確認 | 宅地建物取引業者 |
| 4 | 査定・媒介・買主探し | 宅地建物取引業者 |
| 5 | 売買契約・決済(所有権移転登記) | 宅地建物取引業者・司法書士 |
相続登記は、2024年(令和6年)4月1日から義務化されました。不動産登記法第76条の2は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の登記申請を求め、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(同法第164条第1項)。「売るのだから登記は省ける」わけではなく、売るためにこそ登記が要ります。 海外在住の相続人は、日本の印鑑証明書に代わる**署名証明(サイン証明)**を現地の日本の在外公館などで用意する必要があり、書類集めに時間がかかります。現地の署名証明・認証の取得は現地当局・在外公館の扱いです。査定・現況確認は日本にいなくても進められるため、登記や協議と並行できます。
賃借人への通知や敷金の引き継ぎは、どうなりますか?
賃借人が対抗要件(建物の引渡し。借地借家法第31条)を備えている場合、賃貸中の建物が売られると、賃貸人たる地位は当然に買主(譲受人)へ移転します(民法第605条の2第1項)。賃借人の承諾も、原則として通知も、地位の移転の要件ではありません。 ただし実務では、賃料の振込先や連絡先が変わるため、買主から賃借人へ通知します。
| 論点 | どうなるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 賃貸人の地位 | 買主(新オーナー)へ当然に移転 | 民法第605条の2第1項 |
| 賃借人への賃料請求 | 買主が所有権移転登記をしないと賃借人に対抗できない | 民法第605条の2第3項 |
| 敷金 | 買主(譲受人)が敷金返還債務を承継する | 民法第605条の2第4項 |
| 通知 | 地位移転の要件ではないが、振込先変更等のため実務上行う | 実務 |
敷金は買主が承継するため、決済のときに**敷金相当額を売主から買主へ引き継ぐ(代金から精算する)**のが通例です。賃貸借契約書・賃借人の滞納の有無・敷金の額は、契約前に確認します。オーナーチェンジ物件の敷金の引き継ぎと精算の実務は「オーナーチェンジ物件の敷金はどう引き継ぐのか」に詳しく整理しています。
売却代金から源泉徴収される10.21%とは何ですか?
売主が非居住者(海外に住む相続人)の場合、日本にある土地・建物の譲渡対価には源泉徴収がかかります。所得税法第161条第1項は国内不動産の譲渡対価を国内源泉所得とし、第212条第1項が支払者(買主)に源泉徴収義務を、第213条が税率を定めます。**税率は10.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%)**です。買主が源泉徴収し、支払った月の翌月10日までに納付します(国税庁タックスアンサーNo.2879)。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 誰が徴収するか | 買主(対価の支払者) |
| 税率 | 10.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%) |
| 例外(源泉不要) | 買主が個人で、自己または親族の居住用に取得し、かつ対価が1億円以下(所得税法施行令第281条の3) |
| 賃貸中の投資物件では | 買主は投資家・法人が多く「居住用」に当たらないため、通常は源泉徴収される |
| 精算 | 非居住者の売主が日本で確定申告し、実際の譲渡所得税と精算(納め過ぎなら還付) |
源泉徴収は「税金の前払い」で、最終的な税額ではありません。 実際の譲渡所得税は、取得費・取得時期を被相続人から引き継いで(所得税法第60条)計算し、確定申告で精算します。非居住者が確定申告するには納税管理人を選任して届け出るのが通常で、この申告・精算は税理士の領域です。オーナーチェンジ物件では買主が居住用でないことが多く、10.21%の源泉徴収が実際に起きる前提で資金計画を立てます。保有を続ける場合の毎月の家賃の源泉とは別の論点なので、混同しないでください。非居住者かどうかの判定と引渡日の関係は「非居住者かどうかは何で決まるのか」に整理しています。
登記・確定申告・分割協議は、それぞれ誰に頼みますか(分離受任)?
3条件(相続・賃貸中・非居住者)が重なると、担い手が事業体をまたぎます。
| やること | 担い手 |
|---|---|
| 査定・媒介・売買契約・賃貸借の引き継ぎ | 宅地建物取引業者(四葉不動産株式会社) |
| 遺産分割協議書の作成 | 行政書士(四葉行政書士事務所) |
| 相続登記・所有権移転登記 | 司法書士 |
| 非居住者の確定申告・源泉税の精算・納税管理人 | 税理士 |
| 遺産分割でもめた場合 | 弁護士 |
| 現地の署名証明・認証 | 現地当局・在外公館 |
当社(不動産会社)が担うのは、査定・媒介・売買契約と、賃貸借・敷金の引き継ぎです。 相続登記と所有権移転登記は司法書士、非居住者の確定申告と源泉税の精算は税理士、遺産分割協議書の作成は行政書士、分割で争いがあれば弁護士へ、それぞれ振ります。
誰に相談すればよいですか?
不動産の査定・媒介、売買契約は、四葉不動産株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)が承ります。遺産分割協議書など官公署・私人間の書類の作成は、四葉行政書士事務所が承ります。相続登記・所有権移転登記は司法書士、非居住者の確定申告・源泉税の精算は税理士、遺産分割で争いがある場合は弁護士が、それぞれの独占領域を扱います。現地の署名証明・認証は現地当局・在外公館の扱いです。
これらはそれぞれ独立した事業体です。それぞれ直接ご契約いただきます。 当社・当事務所は、紹介料・送客手数料を受け取ることも支払うこともありません。労務は社会保険労務士(四葉社会保険労務士事務所)へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。相談は無料です。
よくある質問
Q. 賃借人がいるまま売れますか。賃借人の同意は要りますか?
A. 売れます。賃借人が建物の引渡しを受けて対抗要件を備えていれば(借地借家法第31条)、売却により賃貸人たる地位は買主へ当然に移転します(民法第605条の2第1項)。賃借人の同意は原則として要りません。ただし賃料の振込先が変わるため、買主から賃借人へ通知するのが実務です。
Q. 敷金は誰が返すことになりますか?
A. 買主(新オーナー)が敷金返還債務を承継します(民法第605条の2第4項)。そのため決済のときに、敷金相当額を売主から買主へ引き継ぐ(代金から精算する)のが通例です。滞納の有無や敷金の額は契約前に確認します。
Q. 10.21%の源泉徴収は必ず引かれますか?取り戻せますか?
A. 賃貸中の投資物件は、買主が投資家・法人で「居住用」に当たらないことが多く、通常は10.21%が源泉徴収されます(所得税法第212条・第213条)。これは税金の前払いで、実際の譲渡所得税は確定申告で精算し、納め過ぎなら還付されます。非居住者の申告には納税管理人の選任が通常必要で、精算は税理士にご確認ください。
Q. 相続登記を後回しにして、先に売る話を進めてよいですか?
A. 査定や買主探しは並行できますが、被相続人名義のままでは買主へ所有権を移せないため、決済までに相続登記が要ります。相続登記は2024年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が求められます(不動産登記法第76条の2)。海外在住の相続人は署名証明などの手配に時間がかかるため、早めに司法書士・行政書士へ相談してください。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「所得税法」(昭和40年法律第33号。第161条第1項=国内にある土地等の譲渡対価は国内源泉所得、第212条第1項=非居住者への支払者の源泉徴収義務、第213条=税率、第60条=相続等により取得した資産の取得費・取得時期の引継ぎ。復興特別所得税0.21%を加え税率は10.21%。2026年9月3日参照)
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」(昭和40年政令第96号。第281条の3=買主が個人で自己または親族の居住用に取得し、かつ譲渡対価が1億円以下のときは源泉徴収を要しない旨。2026年9月3日参照)
- 国税庁タックスアンサー No.2879「非居住者等から土地等を購入したとき」(税率10.21%、1億円以下・居住用の例外、翌月10日までの納付。2026年9月3日参照)
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号。第605条の2=不動産の賃貸人たる地位の移転(第1項=対抗要件を備えた賃借人がいる場合の当然移転、第3項=所有権移転登記がないと賃借人に対抗できない、第4項=敷金返還債務の承継)。改正民法の施行日は令和2年(2020年)4月1日。2026年9月3日参照)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(平成3年法律第90号。第31条=建物の賃貸借は引渡しがあれば対抗要件を備える。2026年9月3日参照)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(平成16年法律第123号。第76条の2=相続による所有権移転登記の申請義務(取得を知った日から3年以内。2024年(令和6年)4月1日施行)、第164条=正当な理由なく怠った場合の過料(10万円以下)。2026年9月3日参照)
※源泉徴収の要否・税率・確定申告による精算、取得費の算定、各特例の可否は、物件・買主・各人の事情によって変わります。本記事は個別の事案について判断していません。税額・申告は税理士に、持分・分割の法的判断は弁護士・有資格者に、登記は司法書士にご確認ください。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の相続・売却の可否や税額を判断・保証するものではありません。
※不動産の査定・媒介および売買契約は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が、遺産分割協議書等の書類作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形で受任します。相続登記・所有権移転登記は司法書士、税務は税理士、紛争は弁護士へ直接ご依頼いただきます。紹介料・送客手数料のやりとりはありません。
この記事の執筆者
浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。物件(不動産)と手続(相続・行政手続)の論点を同じテーブルに並べて確認します。詳しい経歴は著者ページをご覧ください。
「これ、どうしたらいい?」の一言からで大丈夫です。
代表が直接お返事し、ご希望を伺って条件に合う物件があればLINEでご紹介します。
LINEは代表・浦松丈二に直接つながります。24時間受付・順次お返事します。
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