相続した旧耐震マンションは売れる?──新耐震基準と買主の住宅ローンの壁
相続した旧耐震マンションは売れます。境目は1981年6月1日で、この日以降に建築確認を受けた建物が新耐震です。売却の鍵は買主が住宅ローンを組めるか。買主の住宅ローン控除は登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降かで変わり、旧耐震では耐震基準適合証明が要りますが区分マンションでは取得が難しいことが多い点まで、東京都文京区の宅地建物取引士兼行政書士が条文と国税庁の資料から整理します。
結論(先に要点):相続した旧耐震マンションは売れます。ただし境目は「1981年6月1日」です。この日以降に建築確認を受けた建物が新耐震で、買主の住宅ローンや税の軽減の可否がここで変わります。売却の鍵は、買主がローンを組めるかどうか。旧耐震でも、登記簿の建築日付や耐震性能の確認しだいで買主層は広がります。まず建築時期を確かめ、査定と並行して段取りを組みます。
親から区分マンションを相続したら「旧耐震だから売りにくい」と言われた——旧耐震のマンションは売れないわけではありませんが、買主が住宅ローンを組めるかどうかで、売れやすさも価格も変わります。本記事は、1981年より前に建った区分マンションを相続し、売却か保有かを迷っている相続人の方に向けて、新耐震との境目がどこにあり、買主のローンと税の軽減で何が変わるのかを、法令と国税庁の資料から順に整理したものです。税額の計算や登記の代理は、当社では行いません。
旧耐震か新耐震かは、何をどこで確認すればわかるのか?
境目は明確な日付で決まっています。1981年(昭和56年)6月1日です。
この日に、建築基準法施行令の一部を改正する政令(昭和55年7月14日政令第196号)が施行され、地震に対する構造の基準が大きく変わりました。**1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物が「新耐震基準」、それより前が「旧耐震基準」**と呼ばれます(2026年8月24日参照)。新耐震は、中規模の地震ではほとんど損傷せず、大規模地震でも倒壊・崩壊しないことを目標にしています。
問題は、確認する「日付」が場面によって違うことです。
| 何の日付か | 使われる場面 |
|---|---|
| 建築確認を受けた日 | 「新耐震/旧耐震」の本来の区分(1981年6月1日が境) |
| 登記簿上の建築年月日 | 買主の税の軽減の判定(後述。昭和57年1月1日が境) |
| 完成(竣工)年月 | パンフレット・広告で目にする日付 |
マンションは着工から完成まで工期が長いため、1981年6月より前に確認を受け、完成が1982年以降になっていることがあります。逆もあります。だから「築年数」だけでは新耐震か旧耐震か確定しません。確認の起点は、確認済証・検査済証、建築計画概要書(特定行政庁で取得可)、登記簿の建築年月日です。ここは査定と同時に着手できます。用途地域と容積率が土地・建物の値づけをどう動かすかは「日本の土地値はなぜ『容積率』で変わるのか」に整理しています。
旧耐震だと、買主は住宅ローンを組めないのか?
「組めない」ではなく、「組みにくくなる/要件が増える」です。ここが売れやすさを最も左右します。
買主が中古住宅で住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けるには、家屋が一定の要件を満たす必要があります。租税特別措置法第41条に基づく国税庁の案内(No.1211-3、令和4年以降に居住の場合)は、こう整理しています(2026年8月24日参照)。
| 家屋の建築時期 | 買主が住宅ローン控除を受けるための条件 |
|---|---|
| 昭和57年1月1日以後に建築 | 建築時期の要件を満たす(新耐震基準に適合するものとみなす) |
| 昭和56年12月31日以前に建築(旧耐震) | 取得日前2年以内に、耐震基準適合証明書・建設住宅性能評価書の写し(耐震等級1以上)・既存住宅売買瑕疵担保責任保険の付保証明書のいずれかで耐震基準への適合を証明 |
つまり、登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降のマンションなら、買主は追加の証明なしに住宅ローン控除を受けられます。 それより前(旧耐震)だと、買主は上のいずれかの証明を用意しない限り、住宅ローン控除を受けられません。
加えて、住宅ローンそのものの審査でも旧耐震は不利に働きます。長期固定のフラット35は物件の技術基準への適合を求め、民間銀行も担保評価で築古・旧耐震を厳しく見ます。買主がローンを組めなければ、買主層はローンを使わない現金客に狭まり、価格は下がりやすくなります。 だからこそ、次章の「証明」が売却の分かれ目になります。
耐震基準適合証明書があると、売却で何が変わるのか?
買主が受けられる優遇が変わります。耐震基準適合証明書(または建設住宅性能評価書・既存住宅売買瑕疵保険の付保証明)があれば、旧耐震のマンションでも、買主は住宅ローン控除の要件を満たせます(措法第41条・前掲国税庁No.1211-3)。登録免許税や不動産取得税の軽減の対象になり得るかも含め、買主にとっての税負担が変わり、その物件を選びやすくなります。
ただし——マンションでは、この証明の取得が難しいことが多いのが実情です。
理由は、区分マンションは1戸だけを耐震改修できないからです。耐震基準への適合は建物全体の構造で決まり、旧耐震のマンションが現行の耐震基準に適合していると証明するには、建物全体の耐震診断・必要な補強が前提になります。管理組合の合意と費用がなければ、そこに踏み込めません。戸建てなら売主側で耐震改修して証明を取る道がありますが、区分マンションでは現実的でないことが多い——この違いを織り込んで売り方を決めます。
| 戸建て(旧耐震) | 区分マンション(旧耐震) | |
|---|---|---|
| 耐震改修の主体 | 所有者単独で可能 | 管理組合(単独では不可) |
| 適合証明の取得 | 改修すれば取得しやすい | 建物全体の性能しだいで難しいことが多い |
| 現実的な売り方 | 改修して証明を取り、買主のローンを通す | 現況渡し+価格調整、現金客・投資家への訴求 |
税負担の判定と証明取得の可否は、物件と買主の事情で変わります。登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税の計算は税理士へ、それぞれ直接ご相談ください。当社が扱うのは、査定、売却活動、そして耐震基準適合証明の取得可能性の段取り(管理組合・調査会社への確認を含む)です。
相続した旧耐震マンションで、3000万円控除は使えるのか?
ここは誤解が多いところです。相続した空き家を売るときの「3000万円特別控除」には2つの別物があり、区分マンションでは片方が原則使えません。
一つは、被相続人の居住用財産(空き家)に係る特別控除(租税特別措置法第35条第3項)です。国税庁の案内(No.3306)は、対象となる被相続人居住用家屋の要件として、**「昭和56年5月31日以前に建築されたこと」かつ「区分所有建物登記がされている建物でないこと」**を挙げています(2026年8月24日参照)。つまり——分譲マンションのように区分所有建物として登記されている建物は、この空き家特例の対象から原則として外れます。
もう一つは、自分が居住していた家を売るときの居住用財産の3000万円特別控除(同条第1項)で、こちらは区分マンションでも対象になり得ますが、相続してそのまま売る(自分が住んでいない)場合は要件が異なります。
| 空き家特例(措法35条3項) | 居住用財産の特例(措法35条1項) | |
|---|---|---|
| 区分所有マンション | 原則 対象外 | 対象になり得る(自己居住が前提) |
| 建築時期の要件 | 昭和56年5月31日以前に建築 | 建築時期の要件なし |
| 主な場面 | 相続した戸建ての空き家 | 自分が住んでいた家を売る |
ご自身のケースについて相談したい方へ
物件探しや売却について、状況をお聞かせください。
空き家特例には他にも、売却代金1億円以下、相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡、令和9年12月31日までの譲渡、相続人が3人以上なら控除額が2000万円になる、といった要件があります。どの特例が使えるか、使えないかの判断は、税額に直結する専門的な判断であり、税理士の領域です。 当社は税額計算も申告代理も行いません。売る・残すの意思決定そのものは「相続した実家、売るか残すか」に、相続登記の義務化と売却の順序は「相続したとき、登記の義務化で何が変わったか」に整理しています。
管理不全・修繕積立金不足の物件は、どう売り出すのか?
旧耐震マンションでは、耐震だけでなく管理の状態も価格に響きます。修繕積立金が不足していたり、管理費・修繕積立金の滞納があったりすると、買主の不安材料になり、ローン審査でもマイナスに見られることがあります。
売り出す前に確認しておくとよいのは、次の点です。
| 確認すること | どこで分かるか |
|---|---|
| 管理費・修繕積立金の額と滞納の有無 | 管理会社・管理組合(重要事項調査報告書) |
| 大規模修繕の履歴と長期修繕計画 | 管理組合 |
| 耐震診断の実施状況・建替えや敷地売却の検討状況 | 管理組合 |
| 総会での決議事項(規約改正・特別な負担) | 議事録 |
これらは重要事項説明で買主に開示する事項でもあります。隠さず、先に整理して出すほうが、結果として買主の不安は小さくなります。 管理費・修繕積立金の滞納がある物件の売り方は「管理費を滞納したまま売れるのか」に、賃貸借契約書のどこを読むかは「賃貸借契約書、どこを読めばいいか」に整理しています。相続不動産全般の進め方は相続・空き家の相談にまとめています。
誰に相談すればよいですか?
物件の査定、建築時期・耐震性能の調査、売却活動、耐震基準適合証明の取得可能性の段取りは、四葉不動産株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)が承ります。
相続登記(所有権の名義変更)は司法書士、譲渡所得税・空き家特例など税の可否判断と申告は税理士、相続人間で売却方針が割れて紛争化した場合の交渉・調停は弁護士へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。 これらはそれぞれ独立した事業体であり、当社とは別々にご契約いただきます。当社は紹介料・送客手数料を受け取ることも支払うこともありません。当社は税額計算や登記の代理はしません。相談は無料です。
よくある質問
Q. 「1981年」で新耐震か旧耐震かが決まると聞きましたが、築年数で判断してよいですか?
A. 本来の境目は「1981年6月1日以降に建築確認を受けたか」で、築年数(完成年)とは一致しないことがあります。マンションは工期が長く、確認が旧耐震でも完成が1982年以降になる例があります。確認済証・検査済証・建築計画概要書・登記簿の建築年月日で確認してください。買主の住宅ローン控除の判定は、登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以後かで見ます。
Q. 旧耐震マンションは売れないのですか?
A. 売れます。ただし買主が住宅ローンを組みにくく、耐震基準適合証明書がなければ買主は住宅ローン控除を受けられません(措法第41条)。マンションは1戸だけ耐震改修できず、証明の取得が難しいことが多いため、現況渡しでの価格調整や、現金客・投資家への訴求を含めて売り方を組み立てます。まず建築時期と管理の状態を確認してください。
Q. 相続した旧耐震マンションで、空き家の3000万円特別控除は使えますか?
A. 原則として使えません。被相続人居住用財産(空き家)の特例(措法第35条第3項)は「区分所有建物登記がされている建物でないこと」を要件とするため、分譲マンションは対象から外れます。適用の可否や他の特例の可能性は税額に直結する専門的判断です。税理士に直接ご確認ください。
Q. 修繕積立金が不足しているマンションでも売れますか?
A. 売れますが、修繕積立金の不足や管理費の滞納は買主の不安材料になり、ローン審査でも見られます。額・滞納の有無・長期修繕計画・大規模修繕の履歴は重要事項説明で開示する事項でもあります。先に整理して開示するほうが、買主の不安は小さくなります。
この記事の出典(一次情報)
- 日本法令索引「建築基準法施行令の一部を改正する政令」(昭和55年7月14日政令第196号)(新耐震基準を定めた改正政令。施行日1981年(昭和56年)6月1日。以降に建築確認を受けた建物が新耐震基準。2026年8月24日参照)
- 国税庁タックスアンサー No.1211-3「中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」(根拠:租税特別措置法第41条。家屋が「昭和57年1月1日以後に建築されたもの」、またはそれ以前は取得日前2年以内に耐震基準適合証明書・建設住宅性能評価書の写し(耐震等級1以上)・既存住宅売買瑕疵担保責任保険の付保証明書のいずれかで耐震基準への適合を証明。2026年8月24日参照)
- 国税庁タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(根拠:租税特別措置法第35条第3項。被相続人居住用家屋は「昭和56年5月31日以前に建築されたこと」「区分所有建物登記がされている建物でないこと」等が要件。令和9年12月31日までの譲渡、売却代金1億円以下、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡、相続人3人以上は控除額2,000万円。2026年8月24日参照)
- 法務省「不動産登記法」による相続登記の申請義務化(相続により所有権を取得した者は、取得を知った日から3年以内に登記を申請する義務。2024年4月1日施行。2026年8月24日参照)
※新耐震/旧耐震の区分は建築確認を受けた日で決まり、買主の住宅ローン控除の判定は登記簿上の建築日付(昭和57年1月1日)で行います。両者は別の日付です。本記事は個別の物件について判断していません。
※耐震基準適合証明書が取得できるかは、建物全体の耐震性能・管理組合の状況によって変わります。区分マンションでは取得が難しいことが多い点にご留意ください。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の物件の売却可否・価格や、税の特例の適用を判断・保証するものではありません。譲渡所得税・空き家特例など税の可否判断は税理士の所管です。
※物件の査定・調査・媒介は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が承ります。相続登記は司法書士、税務は税理士、相続人間の紛争は弁護士が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形で受任します。紹介料・送客手数料のやりとりはありません。
この記事の執筆者
浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。物件(不動産)と手続(行政・相続)の論点を同じテーブルに並べて確認します。詳しい経歴は著者ページをご覧ください。
売る・貸す・持ち続ける——決める前のご相談からで大丈夫です。
相続した実家、海外に住んだまま持っている物件、入居者がいるままの一棟——いまの状況をLINEで一言お送りください。代表(宅地建物取引士)が直接お返事し、売却・賃貸・そのまま持つ場合の見通しを整理します。査定・媒介は四葉不動産株式会社が単独でお受けします。
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