管理費を滞納したまま、マンションは売れるのか? —— 買主が引き継ぐ仕組み
管理費や修繕積立金を滞納したままでも、マンションは売れます。ただし滞納分は買主に引き継がれます。建物の区分所有等に関する法律第8条は、管理組合等の債権を「債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」と定めており、国土交通省の標準管理規約コメントは特定承継を「売買及び交換等」と説明しています。滞納額は重要事項説明で買主に伝わります(宅地建物取引業法第35条第1項第6号、同法施行規則第16条の2第6号・第7号、および国土交通省の解釈・運用の考え方)。買主が支払っても、売主の債務が条文上消えるわけではありません。管理組合は確定判決がなくても競売を申し立てられます(民事執行法第181条第1項第2号ハ)。決済での清算まで、構造を整理しました。文京区小日向、茗荷谷駅から徒歩5分です。
売れます。ただし滞納分は買主に引き継がれるため、売買の前に買主へ伝わります。そして買主が払っても、売主の債務が消えるわけではありません。実務では決済のときに清算します。
このページは、管理費・修繕積立金の滞納があるマンションを売ろうとしている方に向けて、その滞納がどういう性質のものかを書いています。売却の段取り全体は特集:日本を離れる方の不動産売却に、海外にお住まいのまま売る場合の順番は海外所有者の売却ガイドにまとめています。
最終更新:2026年8月11日
管理費を滞納したままでも、売れるのですか?
売れます。
滞納があるからといって、区分所有権の売買が禁じられるわけではありません。所有権を移す登記も、滞納の有無とは切り離して行われます。ですから「まず全額払ってからでないと売りに出せない」ということはありません。
ただし、次の3つは動きます。
| 何が | どうなるか |
|---|---|
| 買主への説明 | 滞納額が重要事項説明の場で買主に伝わります |
| 価格 | 買主は滞納分を引き継ぐ立場に立つため、価格交渉か決済での清算を求めます |
| 時間 | 滞納が大きく、住宅ローンの残債と合わせて売買代金を超える場合は、抵当権者との調整が必要になります |
**放置するほど重くなります。**管理規約に遅延損害金の定めがあればそれも積み上がりますし、後で述べるとおり、管理組合は競売を申し立てることもできます。売却を考えているなら、滞納があること自体は止まる理由になりません。
滞納は、買主に知られないのですか?
**知られます。**宅地建物取引業者が買主に対して行う重要事項説明の項目に入っているためです。
宅地建物取引業法第35条第1項第6号は、区分所有建物について説明すべき事項を定め、その具体的な中身を国土交通省令・内閣府令に委ねています。委任を受けた宅地建物取引業法施行規則第16条の2は、次のように定めています。
| 号 | 説明すべき事項 |
|---|---|
| 第6号 | 計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときは、その内容及び既に積み立てられている額 |
| 第7号 | 当該建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額 |
ここで正確にしておきたいことがあります。**「滞納額を告げる」という言葉は、法令の条文そのものには書かれていません。**根拠は、国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日施行版)の第35条第1項第6号関係6・7です。
当該区分所有建物に関し修繕積立金等についての滞納があるときはその額を告げることとする。
管理費用についての滞納があればその額を告げることとする。
法律の条文ではなく、国土交通省の解釈通達が根拠である——これが正確な言い方です。実務では、宅地建物取引業者が管理会社・管理組合に管理に関する事項の調査を依頼し、その回答書に滞納額が記載されて出てきます。売主が黙っていても、この経路で出てきます。
なお、**貸すときは別です。**同規則第16条の2の柱書は、建物の貸借の契約については第3号と第8号だけが説明事項だとしています。管理費・修繕積立金の額や滞納額は、貸借の重要事項説明には含まれません(海外オーナー向け(貸す))。
なぜ買主が、他人の滞納を払うことになるのですか?
法律にそう書いてあるからです。
建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第8条は、全文がこれだけの短い条文です。
前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
「前条第一項」は第7条第1項です。第7条第1項は、区分所有者が共用部分・建物の敷地・共用部分以外の建物の附属施設について他の区分所有者に対して有する債権、および規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権や建物に備え付けた動産の上に先取特権を認め、「管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする」としています。管理費・修繕積立金は、規約や集会の決議に基づいて発生する債権です。
では、「特定承継人」に買主は含まれるのか。国土交通省「令和7年改正 マンション標準管理規約(単棟型)」のコメント第5条関係が、こう説明しています。
包括承継は相続、特定承継は売買及び交換等の場合をいう。賃借人は、占有者に当たる。
**これは判例ではなく、国土交通省が公表している解説文書です。**標準管理規約第26条も「管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」と定めています。
| 立場 | 管理組合から請求されるか |
|---|---|
| 相続人(包括承継) | 請求されます |
| 買主(特定承継) | 請求されます |
| 賃借人(占有者) | 特定承継人ではありません |
買った人は、前の所有者の滞納管理費を請求される立場に立ちます。買主はそれを知っていますから、価格交渉に持ち込むか、決済での清算を条件にします。滞納を隠したまま売り抜ける、という進め方は実務上できません。
買主が払えば、私の借金は消えるのですか?
消えません。
区分所有法第8条の文言は、「特定承継人に対しても行うことができる」です。請求できる相手が増えるという規定であって、**もとの区分所有者が免責されるとは書かれていません。**条文に免責の定めがない以上、売っただけで自分の債務が消えると読むことはできません。
理屈のうえでは、買主が管理組合に支払ったあと、その買主から前の所有者へ求償される場面があり得ます。参考になる裁判例として、競売で買い受けて滞納管理費を支払った買受人が、破産・免責を受けた前所有者に求償した事案で「前所有者は、これを支払うべき義務を負う」とした東京高等裁判所平成23年11月16日判決(RETIO 87-114に紹介されています)があります。裁判所名と判決日は確認できましたが、事件番号までは確認できていません。
この関係を「不真正連帯債務」という用語で説明する記述を見かけることがあります。**しかし、そう構成したと明示した判例を特定できませんでした。**本記事は条文の文言からの説明にとどめます。個別の事案で誰にどこまでの責任が残るかは、弁護士にご確認ください。
実務的な結論はひとつです。**買主に引き継がれるからといって、放っておけば自分の負担が消えるわけではありません。**売るなら、決済で清算するのがいちばん整理が早い形です。
管理組合は、どこまでできるのですか?
確定判決を取らずに、競売を申し立てるところまでできます。
順を追うと、こうなります。
| # | 段階 | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 管理費等の債権に先取特権がある | 区分所有法第7条第1項 |
| 2 | その先取特権は、優先権の順位・効力について共益費用の先取特権とみなす | 区分所有法第7条第2項 |
| 3 | 共益の費用は一般の先取特権 | 民法第306条第1号 |
| 4 | 一般の先取特権は、その存在を証する文書又は電磁的記録の提出で担保権の実行を開始できる | 民事執行法第181条第1項第2号ハ |
| 5 | 担保不動産競売の方法による | 民事執行法第180条第1号 |
通常、他人の不動産を競売にかけるには確定判決などの債務名義が要ります。**管理費の先取特権はこの枠の外にあります。**規約、総会の議事録、滞納の記録といった「存在を証する文書」を出せば手続きを始められる建て付けで、滞納が長期化したマンションで管理組合が競売を申し立てる例があるのは、この構造によります。
ただし、管理組合の側にも制約があります。
| 制約 | 内容 |
|---|---|
| 順位 | 国土交通省の標準管理規約 別添3は「区分所有法第7条の先取特権は公租公課及び抵当権等の登記された担保権に劣後する」としています |
| 順序 | 同じく別添3は、「先取特権の対象となる建物に備え付けた動産に対する担保権の実行では滞納額の全額を回収できない場合に限って、区分所有権に対して先取特権を実行できる」としています。民法第335条第1項も、一般の先取特権者はまず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ不動産から弁済を受けられないと定めています |
住宅ローンが残っている部屋では、登記された抵当権が先に立ちます。競売にかけても管理組合が回収できる保証はありません。だからこそ、管理組合にとっても、競売より通常の売買で決済時に清算されるほうが話が早いことが多い——ここが、滞納があっても売却の相談が前に進む理由です。
何年経てば、時効になるのですか?
結論としての期間は5年ですが、その説明の仕方には注意が要ります。
よく引かれるのが、最高裁判所第二小法廷平成16年4月23日判決(事件番号 平成14(受)248/民集第58巻4号959頁)です。管理費・特別修繕費に係る債権が、当時の民法第169条(定期給付債権の5年の短期消滅時効)所定の債権に当たるとされた事例です。
ここが大事な点です。**この旧第169条は、2020年(令和2年)4月1日に削除されています。**現在の民法第169条は、判決で確定した権利に関する、まったく別の内容の条文です。ですから「判例で現行の第166条第1項第1号の5年とされている」と書くのは正確ではありません。
現行法の根拠条文は、民法第166条第1項第1号——「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」——です。管理組合は毎月の管理費の請求時期を把握していますから、結果としての期間は5年で一致します。ただし、平成16年の最高裁判決の射程が現行の第166条第1項第1号にそのまま及ぶと判示した判例は、見つけられませんでした。
そして、**時効を当てにするのは現実的ではありません。**時効は放っておいて完成するものではなく、請求や訴訟、債務の承認によって進行が妨げられます。管理組合が競売手続のなかで配当要求をする場面についても、最高裁判所第二小法廷令和2年9月18日判決(事件番号 平成31(受)310/民集第74巻6号1762頁)が、区分所有法第7条第1項の先取特権を有する債権者の配当要求と消滅時効の中断について判断を示しています。先取特権が民事執行法第181条第1項の枠組みで扱われることを前提とした判決です。個別の事案で時効が完成しているかどうかの判断は、弁護士にご確認ください。
決済のときは、どう処理するのですか?
**契約でどう決めたかによります。**一般には、次の2つが組み合わされます。
| 項目 | 通常の扱い |
|---|---|
| 引渡日以降の管理費・修繕積立金 | 引渡日を基準に日割りで精算する(当月分をどちらが負担するか、日割りの起算をどうするかは契約による) |
| 引渡日より前に発生した滞納分 | 売主の負担として、決済時に売買代金から清算し、管理組合へ納める形をとることが多い |
滞納分を清算しないまま引き渡すと、買主は区分所有法第8条によって請求される立場に置かれます。買主側の金融機関がそれを嫌い、融資が実行されないこともあります。滞納の清算を決済の条件として契約書に書き込むかどうかは、売買の入口で決めておく論点です。
売買代金でも足りないほど滞納と借入が積み上がっている場合は、話が変わります。抵当権者との調整が必要になり、その分だけ時間がかかります。そこまで来た場合の進め方は個別の事案によりますので、早い段階でご相談ください。
海外にいる間に滞納が積み上がってしまった場合は、どうすればいいのですか?
海外にお住まいの方の滞納は、送金と通知が止まったことから始まっている場合が多くあります。
| よくある入口 | 起きること |
|---|---|
| 引落口座が休眠・解約になった | 引落しが不能になり、督促は日本の旧住所へ送られる |
| 登記簿の住所が古いまま | 管理組合も郵便も、届け先を追えない |
| 賃貸に出して管理会社任せにしていた | 送金は続いていても、管理費の改定に追随できていない |
まずやることは3つです。
| # | やること |
|---|---|
| 1 | 管理会社・管理組合に連絡し、滞納額と内訳(管理費・修繕積立金・遅延損害金)を書面でもらう。金額が確定しないと、売るか払うかの判断ができません |
| 2 | 登記簿の住所を現住所に直す。住所変更登記は義務化されています(登記簿の住所変更が義務化) |
| 3 | 売却するのか、支払って保有を続けるのかを決める |
登記は司法書士の業務です。ご本人と直接ご契約いただく形でおつなぎし、当社が紹介料を受け取ることはありません。
売却を選ぶ場合、海外にお住まいのままでも進められます。委任状、印鑑証明書に代わる書類、非居住者としての税の扱いなど、踏む順番があります——出国後に売る・今やること、非居住者の判定は引渡しの日。
この記事の根拠
| 内容 | 根拠 |
|---|---|
| 特定承継人に対する請求 | 建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)第8条 |
| 管理費等の債権に係る先取特権/共益費用の先取特権とみなす | 同法第7条第1項・第2項 |
| 共益の費用=一般の先取特権/一般の先取特権者の弁済の順序(まず不動産以外の財産から) | 民法(明治29年法律第89号)第306条第1号/第335条第1項 |
| 消滅時効の起算点と期間(現行法) | 民法第166条第1項第1号(2020年4月1日施行の改正民法) |
| 一般の先取特権による担保権実行の開始(存在を証する文書又は電磁的記録)/担保不動産競売の方法 | 民事執行法第181条第1項第2号ハ/第180条第1号 |
| 区分所有建物に関する重要事項説明 | 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第35条第1項第6号 |
| 修繕積立金の規約の定めと既に積み立てられている額/通常の管理費用の額/貸借の契約では第3号・第8号のみ | 宅地建物取引業法施行規則第16条の2 柱書・第6号・第7号 |
| 滞納額を告げること(法令の条文ではなく解釈通達が根拠) | 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日施行版)第35条第1項第6号関係 6・7 |
| 特定承継は売買及び交換等、賃借人は占有者 | 国土交通省「令和7年改正 マンション標準管理規約(単棟型)」コメント 第5条関係 |
| 管理費等の債権は特定承継人に対しても行うことができる | 同 標準管理規約 第26条 |
| 先取特権の劣後と、実行の順序 | 同 別添3 |
| 管理費・特別修繕費の債権が旧民法第169条所定の債権に当たるとされた事例 | 最高裁判所第二小法廷 平成16年4月23日判決/平成14(受)248/民集第58巻4号959頁 |
| 先取特権を有する債権者の配当要求と消滅時効の中断 | 最高裁判所第二小法廷 令和2年9月18日判決/平成31(受)310/民集第74巻6号1762頁 |
条文・資料は2026年8月11日時点で確認したものです。**次の点は確認できていません。**①特定承継人と前の区分所有者の関係を「不真正連帯債務」と構成した判例(用語は本文で使っていません)②平成16年最高裁判決の射程が現行民法第166条第1項第1号に及ぶと判示した判例 ③東京高等裁判所平成23年11月16日判決の事件番号。
本ページは一般的な情報提供です。個別の事案で誰にどこまでの責任が残るか、時効が完成しているかどうかの判断は行っていません。**紛争性のある事案は弁護士へ、登記は司法書士へ、税務は税理士へ、それぞれご本人と直接ご契約いただく形でおつなぎします。当社が紹介料を受け取ることはありません。**不動産の媒介は四葉不動産株式会社が、書類作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ別の契約としてお受けします。
この記事は、四葉不動産株式会社代表取締役・宅地建物取引士・行政書士の浦松丈二が書いています。毎日新聞で記者歴34年、中国総局長として中国や台湾、タイに駐在しました。文京区小日向、茗荷谷駅から徒歩5分です。
