出国後に売ることにした。今のうちに何をしておくのか? —— 住民票を抜く前にしかできないこと
出国後に売る道を選んだなら、日本にいるうちにしかできないことがあります。住民票を抜くと印鑑登録が消え、印鑑登録証明書は取れなくなります。代わりは在外公館の署名証明で、予約と出向に時間がかかります。登記簿の住所が古いままなら、その変更登記の証明書類も日本にいるほうが揃います。購入時の売買契約書は、見つからないと取得費が売った金額の5%扱いになり、税額が数百万円変わることがあります。日本の銀行口座は、売却代金の受取と納税に要ります。そして納税管理人の届出は、出国の日までに出せば税法上の「出国」に当たらず、申告は翌年の通常期限になります。出国前の最後の数週間でできることを、順番に並べます。文京区小日向・茗荷谷駅徒歩5分。
住民票を抜く前にしかできないことがあります。印鑑登録証明書、住所変更登記の書類、購入時の契約書、日本の口座、そして納税管理人の届出。出国後に売ると決めたなら、この5つを日本にいるうちに片づけてください。
このページは、出国後に売ると決めた方に向けたものです。出国前に売り切る方法は出国前の不動産売却の特集に、すでに海外にお住まいの方の売り方は海外オーナーのための日本不動産売却ガイドにまとめています。
最終更新:2026年◯月◯日
そもそも、出国後に売るのは不利なのか?
不利です。ただし、不利の中身は決まっています。
| 出国前に売る | 出国後に売る | |
|---|---|---|
| 税金の天引き | なし | 買主が代金の10.21%を源泉徴収。取り戻すには翌年の確定申告 |
| 印鑑証明 | 住民登録があるので取れる | 取れない。在外公館の署名証明(予約・出向) |
| 税務の窓口 | 出国前に納税管理人の届出だけ | 納税管理人が売却全体の窓口として必須 |
| 内見・鍵・残置物 | 30分立ち会えば済む | 対応してくれる人が日本にいない |
| 買主側の反応 | 通常の取引 | 源泉徴収の手間を嫌い、買い手が減りやすい |
| 所要期間 | 最短2〜3週間 | 書類の国際往復と時差で数か月 |
この表の右側を、今のうちにどれだけ埋めておけるかが本コラムの主題です。全部は消せませんが、多くは軽くできます。
いちばん先にやることは何か?
印鑑登録証明書と住民票を取ることです。転出届を出す前に。
住民票を抜くと、印鑑登録は消えます。**印鑑登録証明書は取れなくなります。**代わりは居住国の日本大使館・領事館で取る署名証明で、予約と出向が必要です。
| いつ | やること | なぜ |
|---|---|---|
| 転出届の前 | 印鑑登録証明書を取る(2通) | 出国後は取れません |
| 転出届の前 | 住民票を取る(2通) | 住所の証明に使います |
| 印鑑登録がまだなら | 在留カードを持って区役所へ。即日でできます | 外国人の印鑑登録 |
**有効期限にはご注意ください。**登記に使う証明書には期限があるため、売却の時期が読めないなら「取っておけば安心」とは限りません。いつ売るかの見込みと合わせて、司法書士にご相談ください。
登記簿の住所は、確認しましたか?
登記簿の住所が引っ越し前のままだと、売る前に直すことになります。
しかも住所等変更登記は、2026年4月1日から義務になりました。変更の日から2年以内に申請しなければならず、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象です(不動産登記法第76条の5、第164条第2項)。
**日本にいるうちのほうが、証明書類が揃います。**住所の変遷をつなぐ住民票や戸籍の附票は、住民登録がある間なら窓口で取れます。海外へ転出した後は在外公館の在留証明などになり、時間がかかります。
詳しくは登記簿の住所が引っ越し前のままだと、どうなるのかへ。
購入時の契約書は、見つかりましたか?
これが金額でいちばん効きます。
取得費が分からないと、売った金額の5%相当額が取得費になります(措置法第31条の4、国税庁 No.3258)。5,000万円で売れば取得費は250万円。実際に4,000万円で買っていても、証明できなければ差額に税金がかかります。
| 探す場所 | 何が出てくるか |
|---|---|
| 購入時の書類一式 | 売買契約書、重要事項説明書、領収書 |
| 確定申告の控え(住宅ローン控除を受けた年分) | 契約書の写しが添付されていることがあります |
| 住宅ローンを借りた金融機関 | 借入額が購入価格の手がかりになります |
| 仲介した不動産会社 | 契約書の控えが残っていることがあります |
**海外に持ち出す荷物に紛れると、探せなくなります。**引っ越しの荷造りの前に確認してください。詳しくは購入時の契約書が見つからないと、税金はどうなるのかへ。
日本の銀行口座は、残しますか?
売却代金の受取と、納税に要ります。
出国にあたって口座を解約する方がいますが、出国後に売るなら、日本円の受け皿が必要です。売買代金はご本人名義の口座に振り込む形が原則で、税金の納付にも使います。
一方で、**口座を残すということは、差押えの対象を残すということでもあります。**納めるべきものを納めていれば問題は起きません。逆に、未納のまま口座を残せば、そこが最初に押さえられます(出国後の未納は、いつまで追いかけてくるのか)。
口座を維持するための条件(住所変更の届出、本人確認の更新など)は金融機関によって異なります。出国前に取引店にご確認ください。
納税管理人の届出は、いつまでですか?
出国の日までです。
所得税法は「出国」を、国税通則法第117条第2項の届出をしないで国内に住所および居所を有しなくなることと定義しています(所得税法第2条第1項第42号)。裏を返せば、届け出ておけば税法上の「出国」に当たりません。
届け出ていなければ、その年の申告を出国の時までに済ませることになります(所得税法第126条・第127条)。届け出ていれば、翌年2月16日から3月15日までの通常の期限で足ります。
納税管理人には資格の定めがなく、法人でもなれます。ただし事務の範囲に税務書類の作成が含まれるため、**当社ではお受けせず、税理士におつなぎしています。**詳しくは納税管理人に資格は要るのか、会社でもなれるのかへ。
出国前の最後のチェックリスト
順番に並べます。上から順に、転出届より前に済ませるものです。
| # | やること | 済ませる時期 |
|---|---|---|
| 1 | 購入時の売買契約書・領収書を探す | 荷造りの前 |
| 2 | 登記事項証明書を取り、登記簿の住所を確認する | 早いほどよい |
| 3 | 住所が古ければ、変更登記の準備(証明書類を揃える) | 転出届の前 |
| 4 | 印鑑登録がなければ登録する(在留カードで即日) | 転出届の前 |
| 5 | 印鑑登録証明書・住民票を取る(各2通) | 転出届の前 |
| 6 | 日本の銀行口座の扱いを決め、取引店に確認する | 転出届の前 |
| 7 | 税理士と契約し、納税管理人の届出を出す | 出国の日まで |
| 8 | 鍵・残置物・室内の写真を整理し、日本側の連絡先を決める | 出国前 |
| 9 | 転出届 | 7の後 |
| 10 | 出国 | — |
**7を9より後にしないでください。**順番は「納税管理人の届出 → 転出届 → 出国」です。
出国後、売るまでのあいだは?
物件は空いたままになります。管理をどうするかは、売る前に決めておく論点です。
管理されていない状態が続くと、固定資産税の負担が増える場合があります。2023年12月13日施行の改正空家法で「管理不全空家等」の区分が新設され、勧告を受けると土地の固定資産税の住宅用地特例が外れます。
海外にいると、庭木の越境や郵便物の滞留といった初期のサインが届きません。貸すという選択も含めて、海外に住んだまま、日本の家をどうするかをご覧ください。
この記事の根拠
| 内容 | 根拠 |
|---|---|
| 非居住者から不動産を購入する際の源泉徴収(10.21%)と、判定時点が引渡しの日であること | 所得税法第161条第1項第5号・第212条第1項/復興財源確保法第28条/所得税基本通達36-12/国税庁 質疑応答事例 |
| 所得税法上の「出国」=納税管理人の届出をしないで国内に住所および居所を有しなくなること | 所得税法第2条第1項第42号 |
| 出国をする場合の確定申告(出国の時までに) | 所得税法第126条第1項・第127条第1項 |
| 納税管理人の選任と届出(出国の日までに) | 国税通則法第117条/国税庁「A1-7 所得税・消費税の納税管理人の選任届出又は解任届出手続」 |
| 取得費が分からない場合に売った金額の5%相当額を取得費とすることができること | 租税特別措置法第31条の4、同法通達31の4-1/国税庁 タックスアンサー No.3258 |
| 住所等変更登記の申請義務(変更の日から2年以内)と過料 | 不動産登記法第76条の5、第164条第2項(令和8年4月1日施行) |
| 管理不全空家等と住宅用地特例の解除 | 空家等対策の推進に関する特別措置法(令和5年法律第50号・2023年12月13日施行) |
本ページは一般的な情報提供です。**証明書の有効期限や必要書類は、手続と時期によって異なります。**個別の登記手続は司法書士、個別の税務判断は税理士が行います。金融機関の取扱いは各行にご確認ください。
不動産の媒介は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)が、許認可申請書類の作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ別の契約としてお受けします。登記は司法書士、税務は税理士におつなぎし、それぞれご本人と直接ご契約いただきます。当社が紹介料を受け取ることはありません。
この記事の著者 浦松 丈二|四葉不動産株式会社 代表取締役・専任宅地建物取引士。行政書士。元毎日新聞中国総局長(記者歴34年)。中国総局長として中国や台湾、タイに駐在しました。社会保険労務士試験合格(2026年9月開業予定)。
