出国後の未納は、いつまで追いかけてくるのか —— 加算税・差押え、そして次のビザ審査
納税義務は出国では消えません。遅れれば延滞税(令和8年は年2.8%、納期限の翌日から2か月経過後は年9.1%)と無申告加算税(5〜30%、隠蔽・仮装があれば重加算税40%)が上乗せされ、日本に残した預金や不動産は差押えの対象になります。徴収権の時効は法定納期限から5年ですが、時効は援用も放棄もできず、督促があれば進みません。そしていちばん重いのは、次に日本へ来るときです。出入国在留管理庁のガイドラインは、在留期間の更新・在留資格の変更で納税義務の不履行を「消極的な要素」と評価し、令和8年6月の改正で「関係機関から提供を受けた納税義務等の履行状況に関する情報を踏まえ、許否判断を行う場合があります」と注記されました。永住許可では、申請時点で納付済みでも当初の期間内に払っていなければ原則として消極評価です。文京区小日向・茗荷谷駅徒歩5分。
追いかけてきます。納税義務は出国では消えません。延滞税(令和8年は年2.8%、2か月経過後9.1%)と無申告加算税(5〜30%)が上乗せされ、日本に残した口座や不動産は差押えの対象になります。いちばん重いのは、次のビザ審査です。
このページは、日本を離れる方・すでに離れた方に向けて、払わなかった場合に何がどの順で起きるかを条文と公表資料で追ったものです。出国前に何を届け出れば通常どおりの期限で申告できるかは納税管理人に資格は要るのか、会社でもなれるのかに、出国前の売却の流れは出国前の不動産売却の特集にまとめています。
最終更新:2026年9月8日
出国したら、日本の税金は追いかけてこないのか?
追いかけてきます。 国税の徴収を目的とする国の権利(徴収権)は、法定納期限から5年間行使されないと時効で消滅します(国税通則法第72条第1項)。ただし、ここを「5年逃げ切れる」と読むのは誤りです。
同条第2項は、この時効について援用を要せず、その利益を放棄することもできないと定めています。時効は当事者が主張して初めて効くものではなく、制度として動くもの、という趣旨です。そして督促などがあれば、時効はそこで進まなくなります。実務上、税務署が滞納を把握していて督促を出している案件で、5年が静かに過ぎることはまずありません。
そもそも、日本を出ることと納税義務があることは、別のことです。日本国内にある不動産を売って生じた譲渡所得は、売主がどこに住んでいても日本の所得税の対象です。
遅れると、いくら上乗せされるのか?
2つ乗ります。延滞税(遅れた日数に対する利息のようなもの)と、加算税(申告しなかったこと自体へのペナルティ)です。
延滞税
| 期間 | 納期限の翌日から2か月を経過する日まで | それ以後 |
|---|---|---|
| 令和7年(2025年) | 年 2.4% | 年 8.7% |
| 令和8年(2026年) | 年 2.8% | 年 9.1% |
割合は毎年見直されます。令和8年は前年より上がりました(国税庁「延滞税の割合」)。2か月を境に3倍以上に跳ねるのが延滞税の設計です。
無申告加算税
令和5年分以降(令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの)は、次のとおりです。
| どの段階で申告したか | 50万円までの部分 | 50万円超300万円までの部分 | 300万円超の部分 |
|---|---|---|---|
| 税務署の調査の事前通知の前に、自分から期限後申告 | 5% | 5% | 5% |
| 事前通知の後、調査による決定を予知する前に申告 | 10% | 15% | 25% |
| 調査を受けた後に申告、または決定を受けた | 15% | 20% | 30% |
さらに次の加算があります。
| 事情 | 加算 |
|---|---|
| 前年・前々年の所得税について無申告加算税等を課されている(または課されるべきと認められる) | +10% |
| 調査で帳簿の提示等をしなかった、または売上金額の記載等が本来の2分の1未満 | +10% |
| 売上金額の記載等が本来の3分の2未満 | +5% |
重加算税
事実の全部または一部を隠蔽または仮装していた場合は、加算税に代えて重加算税です。
| 区分 | 割合 |
|---|---|
| 無申告加算税に代えて課される場合 | 40%(国税通則法第68条第2項) |
| 過少申告加算税に代えて課される場合 | 35%(同条第1項) |
| 過去5年内に無申告加算税等を課されたことがあるとき | 上記に**+10%**(同条第4項。令和6年1月1日施行) |
自分から先に出せば、軽くなるのか?
軽くなります。ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
上の表をもう一度見てください。同じ無申告でも、調査の事前通知の前に自分から出せば5%、調査を受けた後なら最大30%(+加算)。6倍の差がつきます。
さらに、次の要件をすべて満たせば、無申告加算税はかかりません(国税庁 No.2024)。
| # | 要件 |
|---|---|
| 1 | 期限後申告が、法定申告期限から1か月以内に自主的に行われていること |
| 2 | その期限後申告に係る納付すべき税金の全額を法定納期限までに納付していること(口座振替納付の手続をした場合は、期限後申告書を提出した日まで) |
| 3 | その期限後申告書を提出した日の前日から起算して5年前までの間に、無申告加算税または重加算税を課されたことがなく、かつ、この不適用を受けていないこと |
「気づいたときには遅い」と思って放置するのが、いちばん高くつきます。気づいた時点が、いつも最善のタイミングです。
日本に残した財産は、どうなるのか?
滞納が続けば、督促を経て**滞納処分(差押え)**に進みます。海外に住んでいることは、日本国内にある財産の差押えを妨げません。
日本を離れるときに残しがちなものが、そのまま対象になります。
| 残しがちなもの | 論点 |
|---|---|
| 日本の銀行口座 | 出国後も残す方が多い。売却代金の受取口座がそのままになっていることもあります |
| 売らずに残した不動産 | 貸している場合は賃料も含めて問題になります |
| 敷金・保証金の返還請求権 | 賃貸物件を引き払った後の返還金 |
| 未収の還付金 | 源泉徴収された10.21%の還付を待っている状態 |
とくに注意していただきたいのが最後の行です。 非居住者が日本の不動産を売ると、買主が代金の10.21%を源泉徴収して納付します(所得税法第161条第1項第5号・第212条第1項ほか)。多くの場合、確定申告をすれば一部が還付されます。申告しないと、その還付を受け取れないまま、本税と加算税・延滞税だけが積み上がります。「払いたくないから申告しない」が、金額の上でも裏目に出る典型です。
海外にいる自分にまで、手は届くのか?
制度としては、あります。
日本は税務行政執行共助条約の締約国です(日本について2013年10月1日発効)。この条約は締約国間で、①情報交換 ②徴収共助(滞納者の資産が他の締約国にある場合に、その国に徴収を依頼できる)③送達共助 を相互に行う仕組みです(財務省「税務行政執行共助条約のポイント」)。締約国は日本を除いて122か国、適用拡張により140か国・地域に及びます(財務省・2023年7月1日現在)。
ただし、過大に受け取らないでください。 この条約は締約国が項目ごとに留保でき、徴収共助を留保している国があります。お住まいになる国で実際に徴収共助が使えるかは、国によって異なります。
そして実務的には、この条約が使えるかどうかより先に、日本国内に残した財産のほうが手前にあります。 前の項で挙げたものです。
いちばん重いのは、実は次のビザ審査ではないか?
そのとおりです。そして、ここが最も見落とされています。
日本を離れるときに「もう戻らない」と思っていても、数年後に仕事で、家族の事情で、あるいは事業で、また日本に来ることになる方は珍しくありません。そのとき、納税の履歴が読まれます。
在留期間の更新・在留資格の変更
出入国在留管理庁の「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」(最終改正 令和8年6月)は、考慮要素の7番目に**「納税義務等を履行していること」**を挙げ、こう書いています。
納税義務がある場合には、当該納税義務を履行していることが求められ、履行していない場合には消極的な要素として評価されます。例えば、納税義務の不履行により刑を受けている場合は、納税義務を履行していないと判断されるほか、刑を受けていなくても、高額の未納や長期間の未納などが判明した場合等も、悪質なものについては同様に取り扱います。
そして令和8年6月の改正で、この項目に次の注書きが追記されました。
(注)当庁からの求めに応じ、関係機関から提供を受けた納税義務等の履行状況に関する情報を踏まえ、許否判断を行う場合があります。
「言わなければ分からない」という前提が、明文で崩れています。
永住許可
「永住許可に関するガイドライン」(令和8年2月24日改訂)は、永住が日本国の利益に合すると認められることの内容として、こう定めています。
罰金刑や拘禁刑などを受けていないこと。公的義務(納税、公的年金及び公的医療保険の保険料の納付並びに出入国管理及び難民認定法に定める届出等の義務)を適正に履行していること。
さらに、注記が付いています。
※ 公的義務の履行について、申請時点において納税(納付)済みであったとしても、当初の納税(納付)期間内に履行されていない場合は、原則として消極的に評価されます。
「あとでまとめて払えばいい」が通らない、と明記されています。 払ったかどうかではなく、期限内に払ったかどうかを見る、という基準です。
不動産を売った年の譲渡所得は、金額が大きくなりがちです。その1年の未納が、5年後・10年後の永住申請や、経営・管理の在留資格の更新にそのまま残ります。税金の問題は、税金の中では終わりません。
(外国人が日本で事業を営む場合の在留資格については、外国人がグループホーム事業を始めるにはでも「経営・管理」の要件に触れています。)
すでに出していない年がある。どうすればいいのか?
いちばん高いのは、放置です。 順番だけ、整理しておきます。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 該当する年と、おおよその金額を書き出す(売買契約書・決済時の精算書・源泉徴収の記録) |
| 2 | 税理士に相談する。調査の事前通知が来る前かどうかで、加算税の割合が変わります(5% か 15〜30% か) |
| 3 | 日本国内の窓口がなければ、納税管理人を定めて届け出る(国税通則法第117条) |
| 4 | 期限後申告と納付。納付が一度にできない場合の取り扱いも、税理士にご相談ください |
個別の判断は税理士が行います。 当社は、不動産に関わる部分(売買の記録、取得費の資料、決済の精算)を揃えるところをお手伝いし、税理士におつなぎします。
四葉不動産は、この場面で何ができるのか?
正直に、できることとできないことを分けて書きます。
| 誰が | 何を |
|---|---|
| 四葉不動産株式会社 | 出国日から逆算した売却の段取り。決済日と納税管理人の届出日の順番の調整。取得費の資料(購入時の売買契約書・領収書)探しのお手伝い。税理士・司法書士へのおつなぎ。日本語・英語・中国語(繁体字・簡体字)での連絡 |
| 税理士(ご本人と直接契約) | 納税管理人への就任、届出書の作成、譲渡所得の計算、確定申告、納付。期限後申告の判断 |
| 行政書士(別契約) | 在留資格に関する申請書類の作成 |
当社が対応できないこと: 税額の計算と申告書の作成、期限後申告をどうするかの判断(いずれも税理士へ)。登記の申請代理(司法書士へ)。紛争性のある案件の代理交渉(弁護士へ)。
それぞれ独立した事業体・独立した契約として受任します。 税理士・司法書士・弁護士とは、ご本人が直接ご契約いただく形をご案内し、当社が紹介料を受け取ることはありません。 不動産の媒介は四葉不動産株式会社が、在留資格に関する申請書類の作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ別の契約としてお受けします。
いちばん確実なのは、そもそもこの記事の状況にならないことです。出国前に納税管理人を届け出て、翌年の通常の期限で申告する。それだけで、この記事に書いたことは何も起きません。順番は納税管理人に資格は要るのか、会社でもなれるのかに書きました。
この記事の根拠
| 内容 | 根拠 |
|---|---|
| 国税の徴収権の消滅時効(法定納期限から5年)・時効の援用を要せず利益を放棄できないこと | 国税通則法(昭和37年法律第66号)第72条第1項・第2項。最終改正 令和4年3月31日 |
| 延滞税の割合(令和8年1月1日〜12月31日:年2.8%/2か月経過後 年9.1%。令和7年:2.4%/8.7%) | 国税庁「延滞税の割合」(令和3年1月1日以後) |
| 無申告加算税の割合(5%/10・15・25%/15・20・30%)、繰り返しの加算(+10%)、帳簿不提示等の加算(+10%・+5%)、1か月以内の自主申告による不適用 | 国税庁 タックスアンサー No.2024「確定申告を忘れたとき」(令和7年4月1日現在法令等)/国税通則法第66条・第60条ほか。令和5年分以降(令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの)に適用 |
| 重加算税(無申告に代えて40%、過少申告に代えて35%、5年内の繰り返しで+10%) | 国税通則法第68条第1項・第2項・第4項。第4項は令和6年1月1日施行 |
| 非居住者から不動産を購入する際の源泉徴収(10.21%) | 所得税法(昭和40年法律第33号)第161条第1項第5号・第212条第1項/復興財源確保法第28条/国税庁 タックスアンサー No.2879 |
| 納税管理人の選任と届出 | 国税通則法第117条 |
| 税務行政執行共助条約(情報交換・徴収共助・送達共助/日本について2013年10月1日発効/締約国は日本を除き122か国、適用拡張により140か国・地域) | 財務省「税務行政執行共助条約のポイント」/財務省「我が国の租税条約ネットワーク」(2023年7月1日現在)。同条約は締約国が項目ごとに留保でき、徴収共助を留保している国があります |
| 在留期間の更新・在留資格の変更における納税義務の履行(消極的な要素としての評価、高額・長期の未納の取扱い、関係機関からの情報提供) | 出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」7(平成20年3月策定・最終改正 令和8年6月) |
| 永住許可における公的義務の履行(申請時点で納付済みでも、当初の期間内に履行されていなければ原則として消極的に評価) | 出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン」1(3)イ(令和8年2月24日改訂) |
本ページは一般的な情報提供です。個別の税務判断は税理士が、在留資格の許否は出入国在留管理庁が判断します。 個々のご事情によって適用される規定や結論は変わります。加算税・延滞税の割合は改正・年次見直しの対象です。
この記事の著者 浦松 丈二|四葉不動産株式会社 代表取締役・専任宅地建物取引士。行政書士。元毎日新聞中国総局長(記者歴34年)。中国総局長として中国や台湾、タイに駐在しました。社会保険労務士試験合格(2026年9月開業予定)。
