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2026.08.01グループホーム

「グループホームには貸せない」と断られたら──オーナーの4つの懸念と、承諾までの準備

浦松 丈二

浦松 丈二

四葉不動産株式会社 代表取締役・専任宅地建物取引士(東京)第293544号/行政書士 第25087022号。元毎日新聞中国総局長(記者歴34年)。社会保険労務士試験合格(2026年9月開業予定)

プロフィール(士業ドットコム)↗

「グループホームと伝えると断られる。内覧すらさせてもらえない」という開設事業者の記録は珍しくありません。しかし断られる理由の多くは、障害への偏見だけではなく、家賃・建物・近隣・責任というオーナーの4つの現実的な懸念に答えていないことにあります。効く伝え方の型と面談に持参する書類12点、言ってはいけない言葉を、宅地建物取引業として大家側の不安を日常的に聞いている文京区の四葉不動産が整理しました。

「グループホームに使います」と伝えた途端に断られる——物件探しの局面で、開設事業者が最初にぶつかる壁です。断られる理由の多くは、障害への偏見だけではありません。オーナーには家賃・建物・近隣・責任という4つの現実的な懸念があり、そこに答えない限り、「社会貢献になります」という説明では動きません。この記事では、効く伝え方の型と、面談に持参する書類12点を整理します。

この記事は、これから開設する事業者の方に向けたものです。逆の立場——貸すかどうか迷っているオーナーの方は、戸建て・空き家を「グループホームに貸す」という選択をご覧ください。同じ交渉を、貸主の目線から書いたものです。

「グループホーム」と伝えると、なぜ断られるのでしょうか?

ある開設事業者の公開記録に、こういう経過が残っています。1棟目を満室まで運営した実績のある法人が、2棟目の物件を探し始めたところ——物件を探しては断られ、探しては断られ、ついには内覧もさせてもらえなくなった。ようやく貸してもらえそうな物件が見つかっても、今度は検査済証が確認できず、既存建物での開設自体を断念した(事業者による開設記録・2022年1月公開)。

1棟目を満室にした実績があってもこうなります。初めての開設なら、なおさらです。

断られる背景は、大きく2つに分かれます。

ひとつは、障害への漠然とした不安です。これは近隣説明の記事で書いた構図と同じで、正面から反論しても動きません。

もうひとつが、この記事の主題です。賃貸経営者としての、合理的な心配。 オーナーは慈善家ではなく経営者です。経営者の心配には、経営の言葉で答える必要があります。

なお、制度の建前を先に押さえておくと——宅地建物取引業者が障害を理由に「そういう物件は扱っていない」と門前払いすることや、物件広告に「障害者不可」と記載することは、障害者差別解消法に基づく国土交通省の対応指針(令和5年11月改正)で不当な差別的取扱いの具体例として挙げられています。2024年4月からは事業者による合理的配慮の提供も法的義務になりました。ただし、この建前を交渉の場で振りかざすことはお勧めしません。近隣説明の記事に書いたとおり、法的な正しさは、心の中の足場として持っておくもの。 承諾は、正しさではなく安心から生まれます。

オーナーは、何を心配しているのでしょうか?

公開されている事例や、当社が大家さんから日常的に聞く声を整理すると、懸念は次の4つに集約されます。

懸念オーナーの本音答えになるもの
1. 家賃確実に入るのか。滞納されないか借主が法人であること。法人の財務資料・保証会社の利用可否
2. 建物壊されないか。変な改造をされないか改修箇所の図面と費用負担・原状回復の範囲を先に示す
3. 近隣苦情が来て、自分が板挟みにならないか近隣対応の窓口を法人に一本化する体制の説明
4. 責任問題が起きたとき、誰が対応するのか責任者の氏名・連絡先・緊急時対応のフロー

見てのとおり、「障害のある方の住まいが足りていません」という説明は、4つのどれにも答えていません。 社会的意義は嘘ではありませんが、それはオーナーが安心したあとで共感してくれるものであって、安心の代わりにはならないのです。

どう伝えれば、承諾に近づくのでしょうか?

実務で効く説明の核は、次の一文に集約されます。

入居者お一人おひとりにお貸しいただくのではなく、運営法人が一括してお借りします。家賃のお支払い、建物の管理、近隣対応の窓口は、すべて法人に一本化されます。

この一文が効くのは、4つの懸念に同時に答えているからです。家賃の支払義務者は法人(懸念1)。建物を日常管理するのは事業者の職員(懸念2)。近隣からの連絡は法人が受ける(懸念3・4)。入居者が入れ替わっても契約相手は変わらず、1室空いても家賃は契約どおり——ここが、個人に貸す通常の賃貸との最大の違いです。

そのうえで、言ってよいことと、言ってはいけないことの線を引いてください。

言ってよい言ってはいけない
契約書に書ける条件(契約期間・予告期間・原状回復の範囲)「絶対に迷惑はかけません」「トラブルは起きません」
法人の財務資料に基づく支払能力の説明裏付けのない「長期一括借り上げします」「滞納は一切ありません」
保険・保証会社という仕組みでの担保契約内容で担保されていない「原状回復はすべて負担します」
「問題が起きたときは、この手順でこの者が対応します」「何かあれば私が全責任を負います」(法人契約と矛盾)

約束できないことを約束すると、最初の一件で信頼ごと崩れます。これは近隣説明とまったく同じ原則です。保証ではなく、手順を示す。 断言ではなく、書面で裏付ける。

もう一つ、順序の注意です。オーナーの承諾より先に、近隣へ話を持って行かないでください。 オーナーが近隣から先に聞かされると、「知らないところで話が進んでいる」という不信になり、承諾そのものが遠のきます。順序は、オーナー→(承諾後に)近隣です。

面談には、何を持って行けばよいのでしょうか?

口頭の熱意より、書類の束が効きます。次の12点を、法人・運営・リスク・契約の4グループで揃えてください。

グループ書類何に効くか
法人① 運営法人の概要・財務状況懸念1(支払能力)
法人② 代表者・管理者の経歴信頼の土台
運営③ 利用者像と支援体制の説明資料漠然とした不安の解消
運営④ 夜間支援・緊急時対応のフロー懸念4
運営⑤ 苦情受付窓口(開設後も変わらない連絡先)懸念3・4
リスク⑥ 家賃保証会社の利用可否懸念1
リスク⑦ 損害保険・賠償責任保険の内容懸念2・4
リスク⑧ 消防・建築・指定権者との相談状況話が具体的である証明
契約⑨ 改修箇所の一覧と費用負担の案懸念2
契約⑩ 原状回復の範囲の案懸念2
契約⑪ 近隣対応の方針懸念3
契約⑫ 退去・事業撤退時の処理の案「もしやめたら」への答え

とくに⑧は効きます。区市町村・消防・建築部署への事前協議を始めている事業者と、まだ何も動いていない事業者では、オーナーから見た確度がまったく違うからです。⑨⑩は、消防設備の要否で費用が大きく動くため、案の段階でよいので数字を持って行ってください。

⑫を入れているのは、オーナーが最後まで口にしない懸念だからです。聞かれる前にこちらから示すと、信頼の質が変わります。

物件は、どう探せばよいのでしょうか?

「グループホーム可」と書かれた募集物件は、市場にほとんど流通していません。したがって、探し方はおおむね3つになります。

  • 仲介会社に事業計画を預ける:上の書類一式を渡し、オーナーへの打診時に使ってもらう。手ぶらの問い合わせと、書類つきの打診では、オーナーの反応が変わります
  • 空き家・相続物件からのルート:普通の賃貸に出しにくい戸建てのオーナーは、法人一括の借り手と相性がよいことがあります。当社はこの経路のご相談を日常的に受けています
  • 既存建物にこだわらない選択も、最後に検討:ただし新築は壁が高い、というのが公開事例の教訓です

3つめについて、先ほどの事業者の記録の続きを紹介します。既存建物を断念したこの法人は「それなら新築」と土地探しに切り替えました。その先に待っていたのは、土地価格に加えて、福祉のまちづくり条例への対応(オストメイト対応トイレ・車椅子対応浴室・屋内点字ブロック等)で建築費が膨らみ、事業として億単位になるという現実でした。

定員の面でも、既存建物には固有の扱いがあります。共同生活住居の入居定員は原則2人以上10人以下ですが、寮として建てられた建物など既存建物を活用する場合は、2人以上20人以下の取扱いが可能とされています(平成18年厚生労働省令第171号に基づく指定基準)。

ただし、ここは単純に「大きいほど有利」とは言えません。入居定員8人以上の共同生活住居は基本報酬が減算されます(日中サービス支援型を除く)。定員を増やせば収入が比例して増えるわけではないため、規模は報酬・人員配置とセットで設計してください。定員・減算の具体的な取扱いは指定権者にご確認ください。

つまり、既存建物を借りられるかどうかは、事業の採算そのものを左右します。 オーナー説得の準備に時間をかける価値は、ここにあります。

なお、借りる前の建物の確認——用途地域、検査済証の有無、消防設備の追加可否——は障害者グループホームに使える物件の探し方にまとめています。検査済証が見つからない場合の対処(台帳記載事項証明書・現況調査)はこちらの記事で詳しく書きました。建築部署との事前協議では、検査済証のほか確認済証・建築台帳記載事項証明書・建築計画概要書といった書類で建物の適法性を確認する運用が一般的です。物件確保と行政確認は並行して進めてください。

誰に相談すればよいのでしょうか?

相談したいこと窓口
物件の探索、オーナーへの打診・折衝、契約条件の整理宅地建物取引業者(四葉不動産株式会社)
指定申請書類の作成・提出行政書士(四葉行政書士事務所/別契約)
用途変更の確認申請、検査済証のない建物の現況調査建築士
消防設備の要否管轄の消防署
指定基準・定員・報酬の運用指定権者・区市町村の障害福祉主管課

四葉不動産株式会社は、宅地建物取引業者として物件の確認とオーナーとの折衝を担当します。大家さんの側のご相談も日常的に受けているため、オーナーが何を不安に思うかを前提にした打診の組み立てができます。指定申請の書類作成は、併設の四葉行政書士事務所別契約で受任します。四葉不動産株式会社・四葉行政書士事務所・四葉社会保険労務士事務所(2026年9月開業予定)は、それぞれ独立した事業体として業務を受任し、当社が紹介料を受け取ることはありません。

よくある質問

Q. 何件も断られ続けています。伝え方の問題でしょうか。

伝え方だけの問題とは限りません。公開事例には、運営実績のある法人でも断られ続けた記録があります。ただ、書類一式を持った打診と手ぶらの打診では、オーナーの受け取り方が変わるのも事実です。まず上の12点を揃え、仲介会社に預けるところから始めてください。

Q. 家賃の相場はどう考えればよいですか。

近隣の戸建て賃料をベースに、契約期間の長さ・改修の費用負担・原状回復の設計とセットで調整するのが実務です。一律の相場はありません。金額だけを切り出して交渉するより、負担の全体設計で折り合うほうがまとまりやすい傾向があります。

Q. 定員は多いほうが有利ですか。

一概には言えません。既存建物を活用する場合は20人以下まで可能とされていますが、入居定員8人以上の共同生活住居は基本報酬が減算されます(日中サービス支援型を除く)。物件の規模は、報酬と人員配置を含めた収支の全体で判断してください。

Q. オーナー側は何を考えているのですか。

貸主の目線は戸建て・空き家を「グループホームに貸す」という選択にまとめています。交渉相手が読んでいる前提で、同じ情報を共有しておくことをお勧めします。

Q. オーナーの承諾は口頭でもらえれば十分ですか。

不十分です。用途の承諾(共同生活援助事業の用に供すること)、改修工事の承諾、原状回復の範囲は、契約書または覚書に残してください。口頭承諾のまま改修や指定申請を進めると、撤回されたときの損失が大きくなります。

この記事の根拠

  • 国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針(令和5年11月改正)——宅地建物取引業者が障害を理由に門前払いすること、物件広告に「障害者不可」と記載すること等を不当な差別的取扱いの具体例として例示(国土交通省PDF
  • 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号・2024年4月1日施行)——事業者による合理的配慮の提供が法的義務化(政府広報オンライン
  • 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年9月29日厚生労働省令第171号)——共同生活住居の入居定員は原則2人以上10人以下、既存建物を活用する場合は2人以上20人以下の取扱いが可能。事業所の定員は4人以上。居室は収納設備を除き7.43平方メートル以上。なお入居定員8人以上の共同生活住居は基本報酬の減算対象(日中サービス支援型を除く)。運用の詳細は指定権者にご確認ください
  • 公開されている開設事例——2棟目の物件探しで断られ続け、検査済証の確認ができず既存建物での開設を断念し、新築転換後に建築費等の壁に直面した事業者の記録(事業者ブログ・2022年1月公開)

※本記事に引用した開設事例は、第三者が公開している記録であり、四葉グループが受任した案件ではありません。

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的判断・契約条件の判断を行うものではありません。指定基準・定員・報酬・検査済証の取り扱いは指定権者・自治体により異なります。

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