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2026.07.25賃貸の基礎

賃貸借契約書、どこを読めばいいか──宅建士が「ここだけは」と言う5つの条項

浦松 丈二

浦松 丈二

代表取締役・宅地建物取引士(四葉不動産株式会社)

プロフィール(士業ドットコム)↗

契約日に読み上げられる書類の束を、その場で理解するのは分量の面で無理があります。全部は読まなくて構いません。後から揉めるのは決まった場所です。普通借家か定期借家か、解約予告期間、更新料、原状回復の特約欄、禁止事項と使用目的——説明する側の宅建士が「ここだけは先に見てほしい」と考える5つの条項と、重要事項説明を契約前に受けるという原則を整理しました。

結論(先に要点):賃貸借契約書を契約日にその場で読み切るのは、分量の面で無理があります。全部を読む必要はありません。後から揉めるのは、だいたい決まった場所です。①普通借家か定期借家か ②解約予告期間 ③更新料 ④原状回復と特約欄 ⑤禁止事項と使用目的——この5つを、契約日より前に見てください。そして、重要事項説明は契約の「前」に受けるものです。書面のドラフトを事前に送ってもらうことは、実務上ふつうに行われています。

その場で理解するのは、そもそも難しい

契約日、机の上に置かれた書類の束。読み上げが始まって20分。正直、頭には入っていない。「はい」「はい」と頷いて、最後に署名と押印をして終わる——。

宅地建物取引士として説明する側から申し上げても、あの分量を一度で理解するのは難しいと思います。制度上は必要な手続でも、集中力の問題として、続けざまの読み上げには限界があります。

だからこそ、読む場所を絞ります。

その前に——重要事項説明は「契約の前」に受けるもの

意外に知られていないので、先にお伝えします。契約日に受け取る書類には、性格の違う2種類が混ざっています。

書面根拠性格
重要事項説明書宅地建物取引業法第35条契約するかどうかを判断するための説明
契約書同法第37条契約の内容を証する書面

重要事項説明は、契約の前に受けるものです。 内容に納得できなければ契約しないという選択肢が、まだ残っている段階の手続です。

ところが実務では、同じ日に立て続けに行われることがほとんどです。説明を聞いて、その場で判断して、そのまま署名する。これでは判断のための時間がありません。

事前にデータで送ってもらって構いません。 そう頼まれて困る不動産会社は、まずありません。読んで、分からないところに印を付けて、契約日にまとめて聞く。これがいちばん確実です。

では、どこに印を付けるか。

① 普通借家か、定期借家か

最重要です。 ここを取り違えると、後の条項をどれだけ丁寧に読んでも意味が変わってしまいます。

普通借家契約定期借家契約
期間満了時貸主に正当な事由がなければ更新を拒めない更新がなく、期間の満了で終了する
住み続けたいとき原則として更新できる「再契約」となり、応じるかは貸主の任意
契約書の表記「契約期間 2年」「契約期間 2年」

同じ「2年」でも、意味が違います。

定期借家契約については、契約の更新がなく期間の満了により終了する旨を、あらかじめ建物の賃借人に対しその旨を記載した書面を交付して説明しなければならないとされています(借地借家法第38条。同条は令和4年5月18日施行の改正により、賃借人の承諾を得て電磁的方法により提供することも認められています)。この説明書面を受け取った記憶がないまま定期借家になっている、という状態は起こり得ます。

賃料が相場より明らかに低い物件では、定期借家であることが理由の場合があります。転勤中の持ち家、建て替えを予定している建物など、貸主側に事情があるケースです。それ自体が悪いわけではありません。知って選ぶのであれば、問題ありません。

② 解約予告期間

「退去の何か月前までに通知が必要か」です。1か月前か、2か月前か。

効いてくるのは、転勤、進学、家族の事情で急に動くときです。予告が足りなければ、その分の賃料を支払うことになります。2か月前予告の物件で退去日の3週間前に通知すれば、住んでいない期間の家賃を1か月以上支払うことになりかねません。

数字を1つ確認しておくだけの話です。契約書の該当箇所に印を付けておいてください。

③ 更新料・更新の条件

更新料の有無と金額(賃料の1か月分とされている例が多く見られます)、更新事務手数料の有無。2年ごとに発生する費用を月々に均して考えると、物件の比較結果が変わることがあります。

④ 原状回復と、特約欄

いちばん揉めるのがここです。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)では、建物の経年変化・通常損耗の回復費用は賃料に含まれているという考え方が示されています。通常の使用によって生じた損耗まで借主が負担する、という前提には立っていません。

ただし、ここからが重要です。

通常損耗まで借主の負担とする特約が、直ちに無効になるわけではありません。

最高裁平成17年12月16日判決は、こうした通常損耗補修特約について、借主が負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書に具体的に明記されているか、契約書からは明らかでない場合には貸主が口頭により説明し、借主がその旨を明確に認識して合意の内容としたものと認められるなど、特約が明確に合意されていることが必要である旨を判示しています。

つまり、「ハウスクリーニング代は借主負担とする」という一行だけの特約は、範囲も金額も示されていないため、後から争いになりやすいということです。

読むべきは、契約書の後ろのほうにある特約欄です。

  • 借主が負担する範囲が、具体的に書かれているか
  • 金額が入っているか(「実費」ではなく「〇〇円」と書かれているか)
  • 契約前に説明を受けた記憶があるか

金額が入っていなければ、契約日の前に聞いてください。「クリーニング代はいくらですか」と尋ねるだけです。

なお、敷金については、令和2年4月1日施行の改正民法で定義と返還義務が明文化されました(民法第622条の2)。賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたときに、受け取った金銭から未払賃料等の債務額を控除した残額を返還する、という内容です。

⑤ 禁止事項と使用目的

ペット、楽器、喫煙、同居人の追加、民泊。そして近年とくに増えているのが、在宅勤務・SOHO利用と法人登記の可否です。

「住居として使用する」とだけ書かれた契約で、法人登記まで認められるとは限りません。開業や登記の予定があるなら、契約前に確認し、可であればその旨を契約書に記載してもらってください。 口頭の「大丈夫ですよ」は、担当者が替われば残りません。

なお、登記手続そのものは司法書士の業務です。

契約書は「読めない書類」ではなく「先に聞くための材料」(四葉の視点)

やることは単純です。

重要事項説明書と契約書のドラフトを事前にもらう → 上の5か所を見る → 分からないところを契約日に聞く。

これだけで、退去時のトラブルのかなりの部分は避けられます。そして、質問に丁寧に答えられるかどうかで、その不動産会社の仕事の質もある程度わかります。

四葉不動産では、ご希望に応じて重要事項説明書と契約書のドラフトを事前にお渡ししています。英語・繁体字・簡体字での説明にも対応しています。その場で判断させないことが、結局はトラブルの少ないやり方だと考えています。賃貸・売買・管理の業務内容はサービス一覧、よくいただくご質問はよくある質問、外国語での対応は外国人の部屋探しをご覧ください。

よくある質問

Q. 重要事項説明書を、契約日より前にもらうことはできますか?
A. 実務上ふつうに行われています。宅地建物取引業法第35条の重要事項説明は契約の前に行われるものであり、内容を検討する時間を確保するために事前に案をお渡しすることは差し支えありません。当社ではご希望に応じてお渡ししています。

Q. 定期借家契約かどうかは、どこを見れば分かりますか?
A. 契約書の表題や条項に「定期建物賃貸借」「契約の更新がない」といった記載があるか、また、更新がなく期間の満了により終了する旨を記載した別の書面を受け取っているかが手がかりになります。借地借家法第38条は、この説明を書面(賃借人の承諾を得た場合は電磁的方法)で行うことを求めています。判断に迷う場合は契約前にお尋ねください。

Q. 「ハウスクリーニング代は借主負担」という特約は有効ですか?
A. 特約自体が直ちに無効になるわけではありません。もっとも最判平成17年12月16日は、通常損耗補修特約が有効であるためには、借主が負担する通常損耗の範囲が契約書に具体的に明記されているか、口頭で説明され借主が明確に認識して合意の内容としたと認められるなど、明確に合意されていることが必要である旨を判示しています。個別の特約の効力は、記載内容と説明の経緯により判断されます。

Q. 退去時の原状回復費用に納得できない場合は、どうすればよいですか?
A. まずは国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)で考え方を確認し、契約書の特約欄と突き合わせるのが出発点です。当事者間で解決しない場合の交渉代理・訴訟手続の代理は弁護士の業務であり、必要に応じて連携する専門家をご案内します。

この記事の出典(一次情報)

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の契約内容に対する法的判断ではありません。実際の契約条項の解釈や、すでに生じている紛争へのご対応は、事案ごとに資格者の確認を経てご判断ください。交渉代理・訴訟手続の代理は弁護士、登記は司法書士、税務は税理士の業務です。
※各法令の最終改正日は個別にご確認ください(未検証)。

この記事の執筆者

浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。元毎日新聞記者・中国総局長として中国や台湾、タイに駐在しました。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。日本語・英語・繁体字・簡体字の4言語で対応しています。

貸主の立場からの論点は「外国人に部屋を貸すのは、本当にリスクか」もあわせてご覧ください。

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