外国人に部屋を貸すのは、本当にリスクか──断る前に大家さんが確認したい3つのこと
「外国人はちょっと」と断る前に。家賃、近隣トラブル、失踪という3つの不安を分解すると、その多くは在留カードの確認と保証会社、そして入居者が読める言語でのルール提示で手当てできます。一方で「連絡が取れなくなったら荷物を処分できる」という特約は、契約書に書いても効きません(自力救済の禁止)。備えるべきは在留期間満了日の管理と緊急連絡先の二重取得です。令和7年末の在留外国人は412万人。文京区の宅建士が貸主目線で整理しました。
結論(先に要点):外国人の入居申込みを断る理由の多くは、手当てできる不安です。家賃は保証会社と在留資格の確認で、近隣トラブルは入居者が読める言語でのルール提示で、大半が対応できます。一方、「連絡が取れなくなったら鍵を替えて荷物を処分する」という特約は、契約書に書いても効きません(自力救済の禁止)。備えるべきは事後の強制手段ではなく、在留期間の満了日の管理と緊急連絡先の二重取得という事前の設計です。これは入居者が日本人でも外国人でも変わりません。
「外国人はちょっと」の中身を分解する
入居申込みをお持ちすると、大家さんからそう言われることがあります。理由をうかがうと、実際に被害に遭ったという話が出てくることは、むしろ多くありません。「なんとなく不安で」「以前、管理会社から止められたことがあって」。
不安の中身が言葉になっていないと、判断は「一律で断る」に寄ります。中身が分かれば、そのうちいくつかは手当てできる不安です。
そして、これは規模の面でも無視できない話になりました。出入国在留管理庁の公表によると、令和7年(2025年)末現在の在留外国人数は4,125,395人で、前年末から356,418人(9.5%)増え、初めて400万人を超えています。文京区は大学と研究機関が集まる地域です。留学生・研究者とその家族の住まいの需要は、年々厚くなっています。
大家さんの不安は、おおむね次の3つに分けられます。
| 不安 | 実際に効く備え |
|---|---|
| 家賃を払ってもらえるか | 家賃債務保証会社の利用+在留カードによる在留資格・在留期間の確認 |
| 近隣とトラブルにならないか | 入居者が読める言語での生活ルールの提示 |
| 失踪・帰国で連絡がつかなくなったら | 在留期間満了日の管理と緊急連絡先の二重取得(事後の特約では対応できない) |
以下、順に見ていきます。
不安① 家賃を払ってもらえるか
滞納リスクは国籍そのものではなく、収入と生活の安定度に左右されます。そして、それを確認する道具はすでにあります。
現在は家賃債務保証会社の利用が一般的で、外国人の受入れに慣れた保証会社や、母国語対応の窓口を持つ保証会社も増えました。審査では勤務先・学校、収入、在留資格と在留期間が確認されるのが一般的です。
貸主側で確認しておきたいのが在留カードです。見るべき欄は3つあります。
- 在留資格——「留学」「技術・人文知識・国際業務」「経営・管理」など、何のために日本に在留しているか
- 在留期間の満了日——いつまでの在留が認められているか
- 就労制限の有無——収入の裏付けと直結します
在留カードの番号は、出入国在留管理庁のウェブサイトで失効の有無を確認できます。原本を確認してコピーを保管する。宅地建物取引業者としての基本動作です。
なお、在留資格そのものの申請・変更手続に関する書類の作成は行政書士の業務であり、四葉不動産(宅地建物取引業)の業務とは別です。必要な場合は四葉行政書士事務所が別契約で受任します。
不安② 近隣とトラブルにならないか
実際に起きるのは、ゴミ出し、生活音、共用部の使い方といった場面です。
ただし現場での実感としては、これらは「外国人だから」起きるというより、ルールが伝わっていないから起きています。ゴミの分別方法は自治体ごとに異なり、隣の区から転入した日本人の入居者でも間違えます。
ですから対策も単純です。入居時の説明を口頭だけで終わらせず、区のゴミ出しルールと建物の生活ルールを、入居者が読める言語の紙で渡す。それだけで、揉め事は目に見えて減ります。
契約書も同じです。日本語の契約書に署名してもらったことと、内容が伝わったことは別です。後から「聞いていない」となる余地は、契約の時点で減らしておくのが結局は安上がりです。
不安③ 失踪・帰国で連絡がつかなくなったら
ここが本丸で、貸主側の誤解がいちばん多いところでもあります。
「連絡が取れなくなったら、鍵を替えて荷物を処分すればいい」
「そういう特約を契約書に入れておけば大丈夫だと聞いた」
これはできません。契約書に書いてあっても、です。
日本では自力救済が原則として禁止されています。最高裁は「私力の行使は、原則として法の禁止するところである」とし、例外は法律に定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難と認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合の、必要の限度を超えない範囲に限られるとしています(最判昭和40年12月7日)。借主に無断で鍵を交換したり家財を搬出したりした事例では、貸主・管理会社側の損害賠償責任が認められた裁判例があります(大阪高判平成23年6月10日、東京地判平成24年9月7日)。
さらに、最判令和4年12月12日は、家賃債務保証業者の保証委託契約にあった、賃料等を2か月以上滞納し連絡も取れず使用形跡もない場合に「明渡しがあったものとみなす」という条項について、消費者契約法第10条により無効と判断しました。この事案は保証委託契約に関するものですが、「契約書で先に決めておけば強制的に処理できる」という考え方そのものが通らないことを示したものとして受け止められています。
では、どうするか。手順は、契約の解除 → 建物明渡請求訴訟 → 判決 → 強制執行です。借主が行方不明の場合は、解除の意思表示も訴状も公示送達という方法で進められます(裁判所の掲示から2週間の経過により送達の効力が生じます)。残置物は、この強制執行の手続の中で処理します。
そしてこれは、入居者が外国人であるかどうかとは関係のない話です。 日本人の入居者が失踪した場合も、手続は同じです。
参考として、国土交通省と法務省は令和3年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しています。こちらは賃借人が死亡した場合の残置物処理を想定したもので、失踪や滞納の場面に直接使えるものではありません。ただし注目したいのはその形式です。この仕組みは「賃貸借契約の特約」ではなく、解除の委任と残置物処理の委任という2本の委任契約として組み立てられています。一方的に特約を書くだけでは足りないという前提が、設計そのものに表れています。
だから、備えるのは「事後」ではなく「事前」
強制的に片づける手段は、契約書では手に入りません。手に入るのは、連絡が取れなくなる前に気づける状態です。
在留期間の満了日を管理台帳に入れる。 これは外国人賃貸ならではの、日本人の入居者にはない先行指標です。在留期間の更新時期の前後で、退去や契約更新の判断も動きます。満了日の2〜3か月前に一度連絡を入れておくだけで、突然連絡が取れなくなる事態はかなり避けられます。
緊急連絡先を二重に取る。 国内(勤務先・学校・知人)と、母国のご家族。契約時であれば通常の手続として自然に取得できますが、関係が悪くなってからでは取れません。
断る前に、この3つを
- 在留カード——在留資格・在留期間の満了日・就労制限
- 緊急連絡先——国内と母国の二重で
- 言語——契約内容と生活ルールが、入居者に読める形で伝わっているか
この3つが押さえられているなら、外国人の入居申込みを一律に断る合理的な理由は多くありません。空室を1か月空けておくことのほうが、確実な損失です。
四葉不動産にできること(四葉の視点)
当社は日本語・英語・繁体字・簡体字の4言語に対応しています。代表は元毎日新聞記者で、中国総局長として中国や台湾、タイに駐在しました。帰国後に宅地建物取引士・行政書士の資格を取得しています。契約内容を入居者の言語で説明し、生活ルールも同じ言語でお渡しできます。
「貸したいが、言葉が通じるか不安」という大家さんにも、「日本で部屋を借りたいが断られ続けている」という方にも、ご相談いただけます。詳しくは外国人の部屋探し、中国語でのご相談は中国語相談、賃貸・売買・管理の業務内容はサービス一覧をご覧ください。
よくある質問
Q. 外国人の入居申込みを、国籍を理由に断ってもよいのでしょうか?
A. 貸主にどのような相手と契約するかを選ぶ自由がある一方で、合理的な理由のない一律の拒否は、入居差別として問題となり得ると指摘されています。実務的には、国籍という属性ではなく、在留資格・在留期間・収入・保証会社の審査結果という個別の事情で判断するほうが、根拠が明確になります。個別の事案における適否の判断は、事情により異なります。
Q. 家賃を3か月滞納して連絡が取れません。荷物を処分する特約があるのですが、使えますか?
A. そのような特約があっても、貸主が自ら鍵を交換したり残置物を処分したりすることは、自力救済の禁止(最判昭和40年12月7日)に触れるおそれがあり、損害賠償責任を負った裁判例があります。最判令和4年12月12日も、滞納と連絡不通を要件に明渡しがあったものとみなす条項を消費者契約法第10条により無効としています。実際の対応は、契約解除・明渡請求訴訟・強制執行という手続によることになります。訴訟手続の代理は弁護士の業務です。
Q. 入居者が行方不明でも、裁判はできますか?
A. 相手方の住所・居所が通常の調査方法では分からない場合に、裁判所への申立てにより意思表示や書類を到達させたものとする「公示送達」という手続があります。裁判所の掲示から2週間の経過により送達の効力が生じるとされています。要件を満たすかどうかは個別の事案によります。
Q. 在留期間の満了日が近い方とは、契約しないほうがよいですか?
A. 一律にそう判断する必要はありません。在留期間の更新が見込まれる方も多く、満了日は「更新の時期に一度連絡する」ための管理情報として使えます。むしろ、満了日を把握せずに管理していることのほうがリスクになります。
この記事の出典(一次情報)
- 出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」(在留外国人数 4,125,395人・前年末比 356,418人/9.5%増)
- 法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について」(国土交通省と共同。令和3年6月)
- 東京簡易裁判所「意思表示の公示送達」(掲示から2週間の経過により送達の効力が生じる)
- 最判昭和40年12月7日(自力救済の禁止)、最判令和4年12月12日(いわゆる追い出し条項を消費者契約法第10条により無効とした事例)、大阪高判平成23年6月10日・東京地判平成24年9月7日(自力救済行為に係る損害賠償が認められた事例)
- 消費者契約法(平成12年法律第61号)第10条
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的判断ではありません。実際のご対応は、事案ごとに資格者の確認を経てご判断ください。訴訟手続の代理は弁護士、登記は司法書士、税務は税理士の業務です。在留資格に関する官公署提出書類の作成は行政書士の独占業務にあたり、必要な場合は四葉行政書士事務所が別契約で受任します。
※各裁判例の詳細な事案・射程は個別に異なります。本記事では判決日を明示するにとどめ、個別事案への当てはめは行っていません。
この記事の執筆者
浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。元毎日新聞記者・中国総局長として中国や台湾、タイに駐在しました。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。日本語・英語・繁体字・簡体字の4言語で対応しています。
賃貸借契約書の読み方については「賃貸借契約書、どこを読めばいいか」もあわせてご覧ください。
