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2026.08.29相続

台湾の専門家が日本の不動産取引で戸惑う登記と権利証の違いはどこ?

浦松 丈二

浦松 丈二

代表取締役・宅地建物取引士(四葉不動産株式会社)

プロフィール(士業ドットコム)↗

台湾の「權狀(権利証)」と日本の「登記識別情報」は、どちらも所有者の本人性を示す道具ですが性格が違います。日本は2004年の不動産登記法改正で紙の権利証(登記済証)を廃止し、英数字12桁の登記識別情報に切り替えました。所有権を公示する正本は登記簿で、権利証や識別情報を失っても事前通知や資格者代理人の本人確認情報で売れます。所有権移転登記を代理できるのは日本では司法書士で、台湾の地政士は代理できません。東京都文京区の宅地建物取引士兼行政書士が、専門家間の前提知識として条文から整理します。

結論(先に要点):台湾の「權狀(所有權狀)」と日本の「登記識別情報」は、どちらも所有者の本人性を示す道具ですが、性格が違います。日本は2004年の不動産登記法改正で紙の権利証(登記済証)を廃止し、英数字12桁の登記識別情報に切り替えました。所有権を公示する正本は登記簿(登記記録)で、権利証や識別情報を失っても、事前通知や資格者代理人の本人確認情報で売れます。所有権移転の登記を代理できるのは日本では司法書士で、台湾の地政士は日本の登記を代理できません。専門家間の前提知識として、この違いを条文から整理します。

本記事は、日本の不動産・相続案件を扱う台湾の地政士・律師など現地の専門家に向けて、台湾(地政士制度・權狀あり)と日本の登記制度の違いを整理したものです。日本の登記の実行可否そのものの判断は司法書士に留保します。台湾側の制度は理解の対照のために触れるにとどめ、断定はしません。

台湾の權狀と日本の登記識別情報は何が違う?

台湾では、地政事務所が「所有權狀(權狀)」という紙の権利証明書を所有者に交付します。取引や登記の場面で使われ、遺失すれば補發(再交付)の申請ができ、公告30日を経て再交付されます。一方で、土地登記謄本(地政機関の公式記録)が別にあり、權狀と謄本は役割が違います。

日本も、かつては紙の「登記済証(いわゆる権利証)」を交付していました。しかし2004年(平成16年)の不動産登記法全面改正(平成16年法律第123号、オンライン申請対応の登記識別情報制度は2005年3月7日施行)で、権利証は廃止され、「登記識別情報」に切り替わりました。 登記識別情報は、英数字を組み合わせた12桁の符号です。

台湾日本(2005年〜)
所有者に渡る道具所有權狀(紙の権利証明書)登記識別情報(英数字12桁の符号)
交付の場面登記完了時に權狀を交付登記完了時に登記名義人へ通知(不動産登記法第21条)
公示の正本土地登記謄本(地政機関の記録)登記簿=登記記録(登記事項証明書で確認)
失ったとき補發(公告30日を経て再交付)再発行はされない。売買時は別の本人確認手続で対応

ここが最初の誤解ポイントです。日本の登記識別情報は「再発行されない」符号であり、紙の権利証のように補發する制度はありません。 通知を受けたら符号自体を厳重に管理する、という設計です。日本の不動産取引で台湾側の專門家が戸惑う点は、共同仲介の実務も含め「中華圏の不動産プロと組む共同仲介・紹介料の考え方」に整理しています。

日本では権利証がなくても売れるのはなぜ?

権利証・登記識別情報は「所有権の証明書」ではなく、所有権移転などの登記を申請するとき、登記義務者(売主)が本人であることを示すための道具だからです。所有権そのものを公示しているのは登記簿(登記記録)で、これは登記事項証明書として誰でも取得できます。

不動産登記法第22条は、売買などの共同申請で登記義務者の登記識別情報を提供すべきことを定めますが、「正当な理由があるとき」は提供しなくてよいとしています。識別情報を提供できないときの代替は、同法第23条に用意されています。

代替手段根拠概要
事前通知不動産登記法第23条第1項登記官が登記義務者に「申請があった」旨を通知し、期間内に本人からの申出があれば登記を進める
資格者代理人による本人確認情報不動産登記法第23条第4項第1号司法書士等が本人確認を行い、その情報を提供すれば事前通知を省ける
公証人の認証不動産登記法第23条第4項第2号登記義務者が公証人の認証を受けた場合

つまり、登記識別情報を失っても、売却そのものはできます。 台湾の「權狀を失うと補發が要る」感覚のまま「権利証がないから日本の物件は売れない」と考えると、実務を誤ります。ただし、どの代替手段を使うかは登記の専門家の判断領域です。海外に住む所有者が日本の物件を管理・処分する全体像は「海外在住オーナーの日本不動産の管理」に整理しています。

所有権移転登記は誰が代理する?地政士は代理できる?

日本では、所有権移転などの登記申請を代理できるのは司法書士です。 司法書士法(昭和25年法律第197号)第3条第1項第1号は「登記又は供託に関する手続について代理すること」を、同項第2号は「法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類……を作成すること」を司法書士の業務と定めています。

台湾の地政士は、地政士法第16条により台湾の土地登記の代理や不動産契約の作成を業務としますが、これは台湾の資格であって、日本の登記を代理する資格ではありません。 日本の登記手続は日本の司法書士に依頼することになります。ここは「地政士=日本の登記もできる」と混同しやすい点です。

役割を日本側で分けると、次のようになります。

手続日本での担い手
所有権移転・相続登記の申請代理司法書士
売買契約・重要事項説明(宅地建物取引業法第35条)宅地建物取引士(当社)
遺産分割協議書など権利義務に関する書類の作成行政書士
相続税・譲渡所得税の申告税理士
相続人間の争い・交渉弁護士

台湾の相続人が日本の物件を処分するとき、登記で何が要る?

台湾に住む相続人が日本の不動産を相続して売るときは、まず相続登記を入れてから売買に進むのが基本の順序です。日本では2024年4月1日から相続登記が義務化され(不動産登記法第76条の2)、相続によって所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。売る前提であっても、相続登記は避けて通れません。

在外の相続人でつまずきやすいのは、日本の印鑑証明に相当する書類がないことです。実務では、住所地の在外公館(大使館・領事館)などで署名証明(サイン証明)や在留証明を取得して代替します。遺産分割協議書の作成は行政書士が、登記申請は司法書士が担い、争いがあれば弁護士に移ります。相続した実家を売るか残すかの判断材料は「相続した実家、売る・貸す・残すの分かれ目」に整理しています。

なお、台湾側の戸籍・相続資格の証明や相続人の確定は台湾の制度に従うため、現地の資格者(地政士・律師)と日本側の司法書士・行政書士が役割を分けて進めるのが実務です。日本側の登記の実行可否は司法書士に確認します。

専門家として日本側の誰に何を振ればいい?

日本の物件の調査、媒介、売買契約と重要事項説明(宅地建物取引業法第35条)は、四葉不動産株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)が承ります。遺産分割協議書など官公署・相手方に提出する書類の作成は、四葉行政書士事務所が承ります。所有権移転・相続登記の申請代理は司法書士へ、相続税・譲渡所得税は税理士へ、相続人間の争いは弁護士へ、それぞれ振り分けます。

不動産会社と行政書士事務所はそれぞれ独立した事業体です。それぞれ直接ご契約いただきます。 当社・当事務所は、紹介料・送客手数料を受け取ることも支払うこともありません。台湾の地政士・律師の先生とは、現地側の手続と日本側の手続を分担する形で連携します。相続不動産の売却の流れは「台湾の相続人が日本の不動産を相続したら」に、相続と不動産の全体像は相続の相談窓口にも整理しています。相談は無料です。

よくある質問

Q. 日本の権利証(登記済証)は、いまも発行されますか?
A. 発行されません。2004年(平成16年)の不動産登記法全面改正で登記済証は廃止され、2005年3月7日以降は登記識別情報(英数字12桁の符号)が登記完了時に登記名義人へ通知されます(不動産登記法第21条)。以前に交付された登記済証は引き続き有効ですが、新たな権利証は交付されません。

Q. 登記識別情報を紛失したら、日本の物件は売れなくなりますか?
A. 売れます。登記識別情報は所有権の証明書ではなく、登記申請時に登記義務者の本人性を示す道具です。提供できないときは、事前通知(不動産登記法第23条第1項)、司法書士等の資格者代理人による本人確認情報(同条第4項第1号)、公証人の認証(同項第2号)で代替できます。台湾の權狀のような補發(再交付)の制度はありません。

Q. 台湾の地政士が、日本の所有権移転登記を代理できますか?
A. できません。日本で登記申請を代理できるのは司法書士です(司法書士法第3条第1項第1号)。地政士は台湾の資格で、地政士法第16条に基づく台湾の土地登記等を業務とします。日本の登記は日本の司法書士に依頼することになります。

Q. 台湾に住む相続人が日本の不動産を売るには、何から始めますか?
A. 相続登記を入れてから売買に進むのが基本です。2024年4月1日から相続登記は義務化され(不動産登記法第76条の2)、取得を知った日から3年以内の申請が求められます。在外の相続人は印鑑証明に代わる署名証明・在留証明を在外公館で取得し、遺産分割協議書は行政書士、登記は司法書士が担います。

この記事の出典(一次情報)

  • e-Gov法令検索「不動産登記法」(平成16年法律第123号。第21条=登記識別情報の通知(登記完了時に登記名義人へ)、第22条=登記識別情報の提供(共同申請時、正当な理由があれば不要)、第23条=事前通知・資格者代理人による本人確認情報・公証人の認証、第76条の2=相続登記の申請義務(3年以内)。2026年8月29日参照
  • e-Gov法令検索「司法書士法」(昭和25年法律第197号。第3条第1項第1号=登記又は供託に関する手続についての代理、第2号=法務局等に提出・提供する書類の作成が司法書士の業務。2026年8月29日参照
  • e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(昭和27年法律第176号。第35条=重要事項の説明(売買・貸借の契約が成立するまでの間に宅地建物取引士が書面を交付して説明)。2026年8月29日参照
  • 台湾「地政士法」(第16条=地政士の業務範囲=土地登記の代理・不動産契約の作成等)。台湾の資格制度であり、日本の登記を代理する資格ではないことの対照として参照。2026年8月29日参照
  • 台湾の所有權狀(權狀)の補發(再交付)は、地政事務所での公告30日を経る運用(各地政事務所の案内による)。日本の登記識別情報に補發の制度がないことの対照として参照。2026年8月29日参照

※台湾側の登記・權狀・相続資格の制度は、理解の対照のために概要を示したものです。台湾の制度の適用・解釈は現地の資格者(地政士・律師)にご確認ください。本記事はその当否を判断していません。
※日本の登記の実行可否・具体的な必要書類は、個別事情と管轄の登記所の運用で変わります。最終確認は司法書士・登記所の窓口で行ってください。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の取引や登記の可否を判断・保証するものではありません。登記は司法書士、税務は税理士、紛争は弁護士の領域です。
※物件の調査・媒介および売買契約は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が、遺産分割協議書等の官公署提出書類の作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形で受任します。紹介料・送客手数料のやりとりはありません。

この記事の執筆者

浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。物件(不動産)と登記・行政手続の論点を同じテーブルに並べて確認します。詳しい経歴は著者ページをご覧ください。

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