中国本土の相続人が日本の相続に加わるとき:親族関係公証書と認証
相続人や被相続人の一部が中国本土に居る相続では、戸籍がない中国で「誰が相続人か」を公証処の親族関係公証書で証明します。中国のハーグ条約発効(2023年11月7日)で領事認証に代わるアポスティーユ、遺産分割協議書への署名・委任の整え方、準拠法(通則法第36条・中国の渉外民事関係法律適用法第31条・反致=通則法第41条)の考え方を整理し、準拠法の最終判断は弁護士・司法書士、登記は司法書士、相続税は税理士へ分離受任で振る分担を示しました。
結論(先に要点):相続人や被相続人の一部が中国本土(大陸)に居る相続では、日本のような戸籍がないため、「誰が相続人か」を中国の公証処が発行する親族関係公証書で証明します。日本で使うには、その公証書に日本語訳を付け、外国公文書としての証明を備える必要があります。中国は「外国公文書の認証を不要とする条約」(ハーグ条約)に加入し、日中間では2023年11月7日から発効したため、従来の領事認証に代えてアポスティーユを用います。どの国の相続法で分けるか(準拠法)は、法の適用に関する通則法第36条を出発点に、中国の渉外民事関係法律適用法や反致(同法第41条)まで見て判断する必要があり、最終的な判断は弁護士・司法書士などの有資格者が行います。本記事は書類の整え方の一般的な情報であり、個別の準拠法や手続の可否を判断するものではありません。台湾の相続は制度が異なるため本稿の対象外です。
相続人が中国本土に居ると、日本の相続手続はどこでつまずく?
日本の相続手続は、戸籍で相続人の範囲を確定し、実印と印鑑証明書で本人の意思を示すことを前提に組み立てられています。中国本土にはこの戸籍・印鑑登録の制度がないため、同じ書類をそのまま用意できません。ここが最初のつまずきです。
主に次の3点を、中国側の制度に置き換えて用意することになります。
| 日本の前提 | 中国本土での代替 |
|---|---|
| 戸籍で相続人を証明 | 公証処が発行する親族関係公証書 |
| 印鑑証明書で本人確認 | 署名の公証(サイン証明) |
| 住民票で住所を証明 | 住所を証する公証書等 |
さらに、これらの中国の公文書を日本の手続(遺産分割協議、預貯金の解約、相続登記など)で使うには、日本語訳と、外国公文書としての証明(後述のアポスティーユ)が必要になります。被相続人が中国籍の場合は、そもそもどの国の相続法で分けるか(準拠法)の検討も加わります。既存の相続人が海外在住・外国籍の場合も併せてご覧ください。
戸籍がない中国で、相続人であることをどう証明する(親族関係公証書)?
中国本土では、相続人であることを親族関係公証書(中国語では「親属関係公証書」)で証明します。これは、公証処(公証機構)が、申請者と関係者との親族関係が真実であることを証明する公証書です。日本の戸籍謄本の束が担っていた「誰と誰がどういう関係か」を、この1通(複数通のこともあります)で示します。
作成にあたっては、戸籍がない代わりに、居民戸口簿、居民身分証、勤務先や居住地の関係資料など、親族関係を裏づける資料を公証処に提出します。誰について・どの範囲の親族関係を証明するかは、日本側で必要な相続人の範囲に合わせて設計する必要があります。相続人が一人でも欠けると遺産分割協議は成立しないため、日本の実務(遺産分割協議書の作成)から逆算して、証明すべき親族関係を過不足なく特定することが重要です。公証書の作成そのものは中国の公証処の業務であり、日本の当事務所が中国で公証を行うことはできません。
公証書は領事認証とアポスティーユ、どちらが要る?
中国で作成した公証書を日本で使うには、その文書が本物であることの証明が要ります。以前は在外公館などによる領事認証が必要でしたが、中国が「外国公文書の認証を不要とする条約」(ハーグ条約。アポスティーユ条約)に加入し、日中間では2023年11月7日から発効しました。これにより、中国から日本へ持ち込む公文書は、原則として領事認証に代えてアポスティーユを用います。
| 時期・経路 | 求められる証明 |
|---|---|
| 2023年11月7日以降、中国本土 → 日本 | アポスティーユ(中国の権限ある当局が付与) |
| 条約発効前の従来の取扱い | 領事認証 |
| 台湾 → 日本 | 条約の対象外(本稿の範囲外・別稿参照) |
アポスティーユは、中国側で公証書を作成したうえで、中国の権限ある当局(外交部およびその委託を受けた地方外事弁公室)が付与します。日本側で新たに認証を取り直す必要は原則ありません。もっとも、提出先(金融機関・法務局など)が求める訳文や様式は個別に異なるため、事前に確認します。なお、台湾はこの条約の対象外で、台湾の戸籍・除籍の取得や台湾の印鑑証明と遺産分割は別の手続によります。
遺産分割協議書への署名・委任は、中国からどう整える?
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。中国本土に居る相続人については、来日せずに整える方法として、次のいずれかが実務でとられます。
- 遺産分割協議書に署名し、その署名を中国の公証処で公証(サイン証明)し、アポスティーユを付けて日本へ送る
- 日本側の手続を他の相続人や専門家に委ねる委任状を作成し、同様に署名を公証してアポスティーユを付ける
いずれも、日本語の書面に中国語圏の相続人が署名する場合は、内容を理解したうえで署名できるよう、対訳や説明を添えることが実務上重要です。日本側で使う遺産分割協議書・委任状・翻訳の準備、相続人の範囲の整理、金融機関や法務局へ提出する書類一式の作成は、行政書士が支援できます。ただし相続登記の申請代理や登記相談は司法書士・弁護士、相続税は税理士、相続人間に争いがある場合の交渉・代理は弁護士の領域です。当事務所は書類作成と収集の支援を独立した事業体として担い、これらは別々にご契約いただきます。
準拠法(どの国の相続法で分けるか)は誰が判断する?
どの国の相続法で分けるかは、法の適用に関する通則法第36条により「相続は、被相続人の本国法による」ことが出発点です。被相続人が中国籍なら、まず中国法を見ます。ところが中国の渉外民事関係法律適用法(涉外民事关系法律适用法)第31条は、法定相続について「被相続人の死亡時の常居所地法により、ただし不動産の法定相続は不動産所在地法による」と定めています。
この結果、たとえば被相続人が中国籍で日本に不動産を残した場合、中国法(第31条)が不動産所在地である日本の法を指すため、通則法第41条の反致により、日本の民法で分けることになる可能性があります。動産や、常居所地がどこであったかによって結論は変わり、遺言がある場合はさらに別の検討が要ります。
こうした準拠法の最終的な判断は、法律判断そのものであり、弁護士・司法書士などの有資格者が行います。当事務所(行政書士)は、判断に必要な資料・書類(親族関係公証書、翻訳、財産の資料など)を整える段階を支援します。相続の入口や全体像は相続の手続き、受任の流れ、報酬額表、不動産の売却・活用は別事業体である四葉不動産株式会社の窓口(相続と不動産)をご覧ください。
よくある質問
Q. 親族関係公証書は、日本で誰かに代わりに取ってもらえますか?
A. 親族関係公証書の作成は、中国の公証処(公証機構)の業務です。日本の行政書士が中国で公証を行うことはできません。当事務所が支援できるのは、日本側でどの範囲の親族関係を証明してもらう必要があるかの整理と、取得後の日本語訳・提出書類の作成です。中国側の申請は、現地の公証処や現地の専門家を通じて行います。
Q. アポスティーユと領事認証は、両方付ける必要がありますか?
A. 2023年11月7日以降、中国本土から日本へ持ち込む公文書については、原則としてアポスティーユのみで足り、領事認証は不要です。両方を求められることは通常ありません。ただし提出先によって扱いが異なる場合があるため、金融機関・法務局など提出先に事前に確認してください。
Q. 相続人全員が来日しないと遺産分割はできませんか?
A. 必ずしも来日は必要ありません。遺産分割協議書や委任状に署名し、その署名を中国の公証処で公証し、アポスティーユを付けて日本へ送る方法があります。日本語の書面に署名する場合は、内容を理解できるよう対訳を添えるのが実務です。相続人全員が関与することが要件で、一人でも欠けると協議は成立しません。
Q. 被相続人が中国籍なら、必ず中国の法律で分けるのですか?
A. 一概には言えません。通則法第36条は被相続人の本国法(中国法)を出発点としますが、中国の渉外民事関係法律適用法第31条が不動産所在地法や常居所地法を指す場合があり、反致(通則法第41条)により日本法で分ける可能性もあります。財産の種類や常居所地で結論が変わるため、最終的な準拠法の判断は弁護士・司法書士などの有資格者が行います。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)第36条(相続)、第41条(反致)(参照日 2026-09-04)
- 中華人民共和国「渉外民事関係法律適用法」(涉外民事关系法律适用法)第31条(法定相続の準拠法)(参照日 2026-09-04)
- 外務省「アポスティーユ(付箋による証明)」および「公印確認」の説明(参照日 2026-09-04)
- ハーグ国際私法会議「外国公文書の認証を不要とする条約」の中国についての発効(2023年11月7日。日中間で領事認証に代えてアポスティーユを適用。参照日 2026-09-04)
本記事は一般的な情報提供であり、個別の準拠法の判断、親族関係公証書やアポスティーユの要否・様式、提出先ごとの取扱いを保証するものではありません。どの国の相続法で分けるか(準拠法)や相続人の範囲の確定は法律判断にあたり、その最終的な判断は弁護士・司法書士などの有資格者が行います。親族関係公証書やその認証(アポスティーユ)は中国の公証処・権限ある当局が担い、相続登記の申請代理・登記相談は司法書士又は弁護士、相続税は税理士、相続人間に争いがある場合の交渉・代理は弁護士が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約・ご相談のうえ対応します。不動産の売却・活用は別事業体である四葉不動産株式会社が担い、当事務所との間で相互に紹介料を受け取りません。台湾に関する相続はこの条約の対象外で手続が異なります。当事務所(行政書士)は、日本側で用いる遺産分割協議書・委任状・翻訳の作成と書類収集の支援を行います。個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松 丈二(行政書士・宅地建物取引士)です。
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