相続人が海外在住・外国籍の場合は?必要書類・署名証明と行政書士に頼めること
海外在住と外国籍は同じ問題ではありません。印鑑証明・署名証明・住所証明に加え、被相続人が外国籍の場合は本国法と反致が関係します。中国大陸と台湾の準拠法の違い、行政書士に頼める範囲を文京区の実務に沿って整理しました。
結論(先に要点):「海外在住」と「外国籍」は同じ問題ではありません。海外在住では主に印鑑証明・署名証明・住所証明・書類送付・本人確認が論点になり、外国籍ではさらに身分関係の証明や、被相続人が外国籍の場合の準拠法(本国法・反致)が加わります。準拠法の確定や外国法の解釈、相続人・相続分の確定は弁護士、税務は税理士、相続登記の代理申請は司法書士の領域です。行政書士は戸籍等の収集、外国の身分関係書類の整理、翻訳文書の整理、合意済み内容の文書化などを担当します。
海外在住と外国籍では、相続手続の何が違う?
「海外在住」と「外国籍」は同じ問題ではありません。
たとえば次のケースでは、確認すべき事項が異なります。
- 日本人の相続人が台湾・中国大陸・米国など海外に住んでいる
- 外国籍の相続人が日本に住んでいる
- 外国籍の相続人が海外に住んでいる
- 被相続人自身が外国籍
海外在住で主に問題になるのは、印鑑証明、署名証明、住所証明、書類の送付、本人確認などです。
外国籍ではさらに、身分関係を何で証明するか、被相続人が外国籍の場合にどの国の相続法が適用されるか、といった論点が加わります。
「外国籍の相続人がいるから、その国の相続法が適用される」とは一概にいえません。相続人調査・戸籍収集の基本は相続は何から始める?文京区で進める戸籍収集・相続人調査と行政書士に頼めることをご覧ください。
被相続人が外国籍なら、どの国の相続法を使う?「本国法」と「反致」とは
日本の法の適用に関する通則法第36条では、**「相続は、被相続人の本国法による」**とされています。
ここで重要なのは、最初に見るのは「相続人の国籍」ではなく**「被相続人の国籍」**である点です。例えば日本人の父が死亡し、その子が台湾籍や中国籍であっても、子が外国籍だからといって直ちに台湾法・中国法になるわけではありません。
一方、被相続人が外国籍の場合は、まずその被相続人の本国法を確認します。ただし、外国法をそのまま適用するとは限りません。
通則法第41条では、被相続人の本国法側の国際私法が日本法を指定する場合、日本法を適用することがあります。これを**「反致(はんち)」**といいます。
一般的な流れは次のとおりです。
日本(通則法第36条)→ 被相続人の本国法を見る → その外国の国際私法が日本法を指定する → 日本法へ戻る(通則法第41条の反致)
つまり、**「外国籍だから必ず外国法」も、「日本に財産があるから必ず日本法」**も、どちらも正しくありません。
なお、被相続人が複数の国籍を有する場合や無国籍の場合には、「本国法」をどのように決めるか自体に別のルールがあります(通則法第38条)。複数国籍の場合は常居所国や最も密接な関係がある国などの基準で、無国籍の場合は常居所地法によると整理されます。
具体的な準拠法、相続人の範囲、相続分の確定は渉外国際私法の法的判断であり、行政書士は個別に判断しません。弁護士の領域として留保します。
中国大陸と台湾では「反致」の結論がどう違う?
ここが本稿の重要な論点です。中国大陸と台湾では、相続の準拠法の定め方が異なります。
中国大陸
中国「涉外民事关系法律适用法」第31条では、法定相続について、動産=被相続人死亡時の常居所地法、不動産=不動産所在地法とされています。
したがって、例えば中国籍の被相続人が死亡時に日本を常居所としていた場合の動産、または中国籍の被相続人が所有する日本所在の不動産については、日本の通則法第36条で一度中国法を参照した後、中国側の国際私法が日本法を指定し、日本の通則法第41条による反致で日本法が適用される場合があります。
ただし、「中国籍なら必ず日本法へ反致する」とはいえません。 例えば中国籍の被相続人が死亡時も中国に常居所を有し、中国の動産が問題になる場合などは、中国法がそのまま適用される場合があります。
なお、中国「涉外民事关系法律适用法」第9条には、中国側で外国法を適用するときは外国の法律適用法を含めないという反致排除のルールがあります。この中国法第9条の「中国側での反致排除」と、日本の通則法第41条による「日本側での反致」は別のものであり、混同しないことが重要です。本稿では制度構造を一般論として説明し、中国法の個別適用判断は弁護士の領域です。
台湾
台湾の「涉外民事法律適用法」第58条では、相続は原則として**「被相続人死亡時の本国法」**による、とされています。
したがって、台湾籍の被相続人の場合、第58条の基本ルール上、台湾法自身が台湾法を指定します。典型例として、台湾籍の父が長年東京に居住し、東京のマンションと日本の銀行預金を残して死亡した場合、日本の通則法第36条で被相続人の本国法として台湾法を参照し、台湾「涉外民事法律適用法」第58条も被相続人死亡時の本国法=台湾法を指定するため、「日本に長年住んでいた」「財産がすべて日本にある」というだけでは当然に日本法へ反致するわけではありません。
台湾の反致規定は「涉外民事法律適用法」第6条です。第6条は、台湾側が外国の本国法を適用する場面で、その外国法が別の法を指定する場合の一般的な反致規定です。第58条後段は台湾所在遺産についての独自の例外であり、反致規定そのものではありません。
つまり、台湾籍被相続人については、第58条の基本構造上、中国大陸のように常居所地・不動産所在地を介して日本法へ戻る構造とは異なります。具体的な準拠法判断は弁護士へ留保します。
中国大陸・台湾の比較
| 被相続人 | 相手国側の相続準拠法の基本 | 日本への反致 |
|---|---|---|
| 中国大陸籍 | 動産=死亡時の常居所地法、不動産=所在地法 | 日本居住・日本不動産などで日本法へ戻る場合がある |
| 台湾籍 | 原則=被相続人死亡時の本国法 | 台湾法を指すのが原則で、中国大陸型の反致は通常生じにくい |
上記はあくまで一般論であり、「必ず」「常に」を断定するものではありません。
海外・外国籍の相続人は、何で身分関係を証明する?
「外国の戸籍・除籍」と一括りにせず、国によって日本のような戸籍制度がない場合があります。
一般的には、本国の戸籍、出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書、家族関係証明書その他の身分関係を証明する公的書類などを用いることになります。
台湾の戸籍・除戸謄本の取り寄せは台湾の除戸謄本はどこで取るかをご覧ください。
日本語訳・公証・アポスティーユは必要?
外国語で作成された書類について、日本の提出先から日本語訳を求められることがあります。
一方、公証・領事認証・アポスティーユ等の要否は、国・書類の種類・提出先・手続の種類によって異なります。「必ずアポスティーユが必要」「必ず領事認証が必要」とは一概にいえません。提出先へ事前に確認するのが確実です。
法定相続情報一覧図は利用できる?
被相続人や相続人が日本国籍を有しないなどの理由で、必要な戸除籍謄抄本を提出できない場合は、法定相続情報証明制度を利用できません(法務局)。
ただし、**「外国籍が1人でもいれば利用不可」**という単純な基準ではありません。利用の可否や制度の詳細は法定相続情報一覧図とは?戸籍一式の代わりに利用できる制度と申出のしかたをご覧ください。
海外在住の日本人は印鑑証明の代わりに何を使う?
日本国内に住民登録・印鑑登録がない日本人については、日本の在外公館による署名証明が印鑑証明の代替として利用される場合があります。在外公館の署名証明は、原則として日本国籍を有する海外在住者向けの制度です。
ただし、提出先・手続によって必要形式が異なるため、利用先への事前確認が必要です。「海外在住者なら誰でも日本大使館でサイン証明」とは一概にいえません。
外国籍の相続人は署名をどう証明する?
外国籍の相続人について、日本の在外公館の署名証明を当然に利用できるとはいえません。本国官憲、本国の領事館、現地公証人、その他現地の公的機関などによる署名証明・宣誓供述書等を用いる場合があります。国籍・居住地・提出先ごとに確認します。
不動産登記の具体的必要書類・代理申請は、司法書士・管轄登記所へ確認します。
なお、台湾には印鑑登録制度があり、日本人海外在住者の在外公館署名証明とは同じ扱いではありません。台湾の詳細は台湾在住の相続人がいる遺産分割協議書をご覧ください。
遺産分割協議書はどう作る?
海外・外国籍が関係する相続では、誰が相続人か、どの国の法が適用されるか、署名・押印をどう証明するかを確認したうえで、合意済みの内容を遺産分割協議書にします。
行政書士は、合意済みの内容を文書化する立場です。相続人同士の交渉、分割内容の法的妥当性判断、外国法に基づく相続人・相続分の確定は行いません。協議書の基本は遺産分割協議書は自分で作れる?をご覧ください。
海外が関係する遺言は、どの法律で判断する?
遺言については、「遺言の成立・効力」と「遺言の方式」を分けて考えます。
通則法第37条では、遺言の成立・効力は遺言成立当時の遺言者の本国法によるとされています。一方、遺言の「方式」は「遺言の方式の準拠法に関する法律」が関係します。
方式については、行為地法、遺言成立時または死亡時の国籍国法、遺言成立時または死亡時の住所地法、遺言成立時または死亡時の常居所地法、不動産については所在地法など、複数の接続点があります。
つまり「遺言の内容・効力に適用される法律」と「遺言の方式に適用される法律」は別に考える、という点が重要です。具体的な準拠法・有効性判断は弁護士へ留保します。国内向け遺言の基本は自筆証書遺言と公正証書遺言の違いとは?をご覧ください。
相続登記・相続税・納税管理人は誰に確認する?
海外在住・外国籍というだけで、日本の相続税の課税範囲は決まりません。被相続人・相続人の住所、国籍、過去の居住状況、財産所在地などによって、日本国内財産だけが課税対象となる場合と、国外財産まで含めて課税対象となる場合があります。
日本に住所がない相続人が日本の相続税申告をする必要がある場合には、納税管理人を定める必要があります。具体的な納税義務の判定、課税範囲、申告、納税管理人の要否・手続は税理士の領域です。相続登記の代理申請は司法書士の領域です。
行政書士に頼めること・頼めないこと
行政書士が行うのは、おおむね次のとおりです。
- 戸籍等の収集
- 外国の身分関係書類の整理
- 翻訳文書の整理
- 法定相続情報一覧図の作成・申出が可能なケースでの対応
- 合意済み内容に基づく遺産分割協議書の作成
- 国内手続に必要な書類の整理
- 各専門家へ渡す資料の整理
行政書士が行わないのは、外国法の解釈、準拠法の確定、反致の個別適用判断、相続人の範囲・相続分の法的確定判断、相続人間の交渉・紛争対応、税務判断・税務申告、相続登記の代理申請です。
専門家の分担は次のとおりです。
- 準拠法・外国法・紛争 → 弁護士
- 相続税・納税管理人等の税務 → 税理士
- 相続登記の代理申請 → 司法書士
- 不動産売却・管理 → 宅地建物取引業者(四葉不動産株式会社。四葉行政書士事務所とは別事業体・別契約)
いずれも独立した契約で、当事務所は紹介料を受け取りません。
台湾・中国大陸など個別ケースはどこを確認する?
個別の国・地域の詳細は、次の既存記事をご覧ください。
- 台湾の戸籍・除戸謄本:台湾の除戸謄本はどこで取るか
- 台湾在住相続人の印鑑証明・遺産分割協議書:台湾在住の相続人がいる遺産分割協議書
- 電子署名・海外在住者の代替手段:電子契約はどこまで使えるか
「海外にいるから電子署名で全部解決できる」とは限りません。利用可否は、書類の種類、提出先、登記等の手続方法によって異なります。
文京区で海外相続を進める流れ
四葉行政書士事務所(文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分)では、海外相続について、必要書類の範囲確認、国内外の書類収集整理、翻訳文書整理、合意済み内容の文書化などを段階的に案内します。中国語(繁体字・簡体字)・英語での相談にも対応しています。
受任の流れは受任の流れ、料金は報酬額表、相続業務の全体像は相続・遺言・信託サービスをご覧ください。相続した不動産の売却・管理は相続不動産の完全ガイド(四葉不動産)をご覧ください。四葉不動産株式会社は四葉行政書士事務所とは別事業体・別契約で対応します。
よくある質問
Q. 相続人が中国籍なら中国法で相続するのですか?
A. 相続人の国籍だけでは決まりません。日本の通則法第36条では、まず被相続人の本国法を見ます。被相続人が外国籍の場合には、反致も含めて準拠法の確認が必要です。個別判断は弁護士の領域です。
Q. 中国籍の被相続人と台湾籍の被相続人では違いますか?
A. 違う場合があります。中国大陸の国際私法では、法定相続について動産は常居所地法、不動産は所在地法を指定するため、日本法へ反致する場合があります。台湾は原則として被相続人死亡時の本国法を指定するため、通常の構造が異なります。個別判断は弁護士へご相談ください。
Q. 海外在住の日本人は印鑑証明の代わりに何を使いますか?
A. 在外公館の署名証明が利用される場合があります。ただし提出先ごとに必要形式が異なるため、事前に確認してください。
Q. 外国籍の相続人も日本の大使館で署名証明を取れますか?
A. 日本の在外公館による署名証明は、原則として日本国籍を有する海外在住者向けです。外国籍の方は本国官憲、領事館、現地公証人等による署名証明等を検討し、提出先に確認してください。
Q. 海外在住の相続人がいると日本の相続税はどうなりますか?
A. 海外在住・外国籍だけでは判断できません。被相続人・相続人の住所、国籍等で課税範囲が変わります。日本に住所がない相続人が日本で申告する必要がある場合、納税管理人が必要になります。税務判断は税理士へご相談ください。
この記事の出典(一次情報)
- 法の適用に関する通則法第36条(相続は被相続人の本国法による)
- 法の適用に関する通則法第37条(遺言の成立・効力は遺言者の本国法による)
- 法の適用に関する通則法第38条(複数国籍・無国籍の場合の本国法の決定)
- 法の適用に関する通則法第41条(反致)
- 遺言の方式の準拠法に関する法律
- 法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」(外国籍の場合の利用可否)
- 外務省「在外公館における署名証明」
- 法務省・法務局の外国在住者・外国人の不動産登記に関する資料
- 国税庁「相続税の納税義務者」「納税管理人」
- 中華人民共和国「涉外民事关系法律适用法」第9条(反致排除)・第31条(法定相続の準拠法)
- 台湾「涉外民事法律適用法」第6条(反致)・第58条(相続は被相続人死亡時の本国法)
本記事は一般的な情報提供であり、個別の相続・遺言の準拠法、相続人の範囲、相続分、課税範囲、手続の可否・効果を保証するものではありません。準拠法・外国法・反致・紛争は弁護士、税務は税理士、相続登記の代理申請は司法書士、不動産は宅地建物取引業者が、それぞれ独立した事業体として別契約で対応します。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松 丈二(行政書士・宅地建物取引士)です。
まずは、状況を整理するところから。
四葉行政書士事務所(文京区小日向・東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分)が、要件の整理から書類作成・申請までお手伝いします。
LINEは代表・浦松丈二に直接つながります。24時間受付・順次お返事します。
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