自筆証書遺言書保管制度を使うと、相続開始後の手続きはどう変わる?

法務局の自筆証書遺言書保管制度(平成30年法律第73号)を使うと、相続開始後の手続きが大きく変わります。保管された遺言書は民法第1004条第1項の検認が不要になり(法第11条第1項)、相続人の1人が内容を確認すると他の相続人全員に関係遺言書保管通知が届きます。遺言書保管事実証明書(1通800円)と遺言書情報証明書(1通1,400円)の使い分け、死亡時の通知(指定者通知)、検認不要の根拠を整理し、相続登記は司法書士、相続税は税理士、争いは弁護士、相続不動産の売却は別事業体の不動産会社へ分離受任で振る分担を、行政書士の実務からまとめました。
結論(先に要点):法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)にもとづく自筆証書遺言書保管制度を使うと、相続が始まった後の手続が大きく変わります。最大の違いは、保管された遺言書については民法第1004条第1項の検認が不要になる点(同法第11条第1項)と、相続人の1人が内容を確認すると、ほかの相続人全員に法務局から「関係遺言書保管通知」が届く点です。相続人は、まず遺言書が保管されているかを「遺言書保管事実証明書」で確かめ、内容は「遺言書情報証明書」の交付を請求して確認します。情報証明書は検認を経ずに相続登記などの手続にそのまま使えます。本記事は、保管制度を使った場合の相続開始後の流れを整理する一般的な情報提供であり、遺言の効力など個別の法的判断はしません。
自筆証書遺言書保管制度とはどんな仕組みなのか
自筆証書遺言書保管制度は、自分で書いた遺言書(自筆証書遺言)を、全国の法務局(遺言書保管所)に預けられる制度です。2020年(令和2年)7月10日に始まりました。自宅で保管する自筆証書遺言は、紛失・改ざん・隠匿のおそれや、死亡後に見つけてもらえないおそれがありますが、法務局に預けることでこれらを避けられます。
法第4条第1項は「遺言者は、遺言書保管官に対し、遺言書の保管の申請をすることができる」と定めています。申請の主な特徴は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請できる人 | 遺言者本人のみ(代理人による申請は不可) |
| 手続の場所 | 遺言者の住所地・本籍地・所有不動産の所在地を管轄する遺言書保管所 |
| 手数料 | 保管の申請は1件につき3,900円(収入印紙で納付) |
| 予約 | 遺言書保管所での手続はすべて予約が必要 |
形式面のチェックは受けられますが、遺言の内容が有効かどうかまでを法務局が保証するものではありません。作成方式そのものの選び方(自筆証書と公正証書の違い)は自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶ?で整理しています。
保管された遺言は相続開始後にどうやって確認するのか
遺言者が亡くなった後、相続人や受遺者などは、次の2つの証明書を使い分けて遺言書の有無と内容を確認します。
| 証明書 | 何がわかるか | 手数料 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 遺言書保管事実証明書 | 自分が関係する遺言書が保管されているか(有無) | 1通800円 | 法第10条 |
| 遺言書情報証明書 | 保管された遺言書の内容(画像を含む) | 1通1,400円 | 法第9条 |
法第10条第1項は「何人も」遺言書保管所に対して遺言書保管事実証明書の交付を請求できると定めています。まず存否だけを確かめたいときに使います。内容まで知りたいときは、法第9条第1項にもとづき、相続人・受遺者・遺言執行者など(関係相続人等)が遺言書情報証明書の交付を請求します。原本やモニターでの閲覧を請求する方法もあります(閲覧はモニターで1回1,400円、原本で1回1,700円)。遺言書情報証明書は、家庭裁判所の検認を経ることなく、相続登記などの手続にそのまま使える点が実務上の利点です(相続登記の流れは相続登記はどう進める?)。
なぜ検認が不要になり、相続人にはどう通知されるのか
通常、自宅などで保管されていた自筆証書遺言は、民法第1004条第1項により、保管者や発見した相続人が相続の開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求しなければなりません(公正証書遺言は同条第2項で検認不要)。検認は、遺言書の形状や内容を家庭裁判所が確認して保存する手続で、申立てから期日まで時間がかかります。
これに対し、保管制度を使った遺言書には、法第11条第1項により「民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない」とされ、検認が不要になります。法務局で保管され、内容が画像データとして管理されているため、改めて家庭裁判所で確認する必要がないという整理です。
さらに、保管制度には他の相続人へ知らせる2つの通知があります。
- 関係遺言書保管通知(法第9条第5項):相続人等の1人が遺言書情報証明書の交付を受けるか、遺言書を閲覧すると、遺言書保管官が速やかに、ほかの相続人・受遺者・遺言執行者などに、遺言書を保管している旨を通知します。これにより、一部の相続人だけが遺言を知って手続を進めることを防げます。
- 死亡時の通知(指定者通知):遺言者があらかじめ希望して指定した人に、遺言者の死亡を法務局が確認したときに通知されます。2023年(令和5年)10月2日から、指定できる人が最大3名まで拡大されました。
保管制度を使うときに専門家へ何を振り分けるのか
保管制度は手続の入口にすぎず、相続の全体はいくつもの専門分野にまたがります。担当は次のとおりです。
- 遺言書の保管申請・相続開始後の証明書請求の手続案内、相続関係を示す書類の作成 → 四葉行政書士事務所(行政書士)
- 遺言に基づく不動産の名義変更(相続登記) → 司法書士
- 相続税の申告・納税 → 税理士
- 遺言の有効性・遺留分など争いのある事項 → 弁護士
- 相続した不動産の売却・活用 → 別事業体の四葉不動産株式会社(宅地建物取引業者)
ご自身のケースについて相談したい方へ
在留資格・許認可など、行政手続について状況をお聞かせください。
四葉行政書士事務所は、書類作成と手続案内までを担当し、遺言の効力の有無といった具体的な法的判断は本人・弁護士に委ねます。相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士、争いのある事項は弁護士が、いずれも独立した事業体として別々にご契約いただきます。相続した不動産を売る場合は、別事業体の四葉不動産株式会社が独立した事業体として別契約で対応します(相続のご相談)。各分野は、それぞれの窓口・資格者と別々にご契約いただく前提で、当事務所は紹介料を受け取りません。受任の流れは受任の流れ、料金は報酬額表、相続の取扱業務は相続手続サポートをご覧ください。
保管制度に向くケースと向かないケースはどう判断するのか
保管制度は、費用を抑えつつ紛失・改ざんを防ぎ、検認の手間も省きたい場合に向きます。一方、形式の要件を満たすかは遺言者自身の責任で、保管制度は内容が法的に有効かまでを保証しません。内容の適切さや遺言執行まで含めて専門家に関与してほしい場合は、公証人が関与する公正証書遺言も選択肢です(公正証書遺言の作成と公証人・証人・費用)。
| 向いているケース | 検討が必要なケース |
|---|---|
| 費用を抑えて紛失・改ざんを防ぎたい | 内容が有効か不安で、専門家に内容面も確認してほしい |
| 検認の手間を省きたい | 自分で出頭・予約が難しい(申請は本人のみ・代理不可) |
| 相続人に確実に遺言の存在を知らせたい | 遺留分や相続人間の争いが見込まれる |
どちらが適切かは、財産の内容や相続人の状況によって変わります。遺言の効力や遺留分にかかわる判断は弁護士、名義変更は司法書士、税額は税理士の領域で、当事務所の判断の対象ではありません。相続全体の進め方は相続手続の全体像とチェックリストもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 保管制度を使えば、相続開始後に家庭裁判所の検認は本当に不要ですか?
A. はい。法第11条第1項は、民法第1004条第1項の検認の規定を、遺言書保管所に保管されている遺言書には適用しないと定めています。相続人は家庭裁判所での検認を経ずに、遺言書情報証明書の交付を受けて相続登記などの手続に進めます。ただし、保管されていない自宅保管の自筆証書遺言は、従来どおり検認が必要です。
Q. 相続人の1人が遺言書を確認すると、ほかの相続人にも伝わりますか?
A. 伝わります。法第9条第5項により、相続人等の1人が遺言書情報証明書の交付を受けるか遺言書を閲覧すると、遺言書保管官が速やかに、ほかの相続人・受遺者・遺言執行者などに遺言書を保管している旨を通知します(関係遺言書保管通知)。これとは別に、遺言者が生前に指定した人へ死亡時に通知する仕組み(指定者通知)もあります。
Q. 保管された遺言の内容を確認するには、いくらかかりますか?
A. 保管の有無だけを確かめる遺言書保管事実証明書は1通800円、内容を証明する遺言書情報証明書は1通1,400円です(閲覧はモニター1回1,400円、原本1回1,700円)。遺言者が生前に申請する保管の手数料は1件3,900円です。金額は変わることがあるため、請求前に最寄りの遺言書保管所(法務局)か法務省の公式案内でご確認ください。
Q. 自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらにすべきか決められません。
A. 保管制度は費用を抑えて紛失・改ざんを防ぎ検認も省けますが、内容が有効かは遺言者の責任です。内容面まで専門家に確認してほしい場合は公正証書遺言も選択肢です。どちらが適切かは財産・相続人の状況で変わり、効力に関する判断は弁護士の領域です。当事務所は書類作成と手続案内の範囲で、面談のうえ整理をお手伝いします。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(平成30年法律第73号)第4条第1項、第9条第1項・第5項、第10条第1項、第11条第1項(参照日 2026-10-09)
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)第1004条第1項・第2項・第3項(遺言書の検認)(参照日 2026-10-09)
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」(制度の概要・手数料・通知・相続開始後の手続)(参照日 2026-10-09)
- 法務省「遺言書保管制度に関する通知について」(関係遺言書保管通知・死亡時の通知〔指定者通知〕、2023年〔令和5年〕10月2日からの指定者拡大)(参照日 2026-10-09)
本記事は一般的な情報提供であり、個別の遺言の有効性、遺言内容の適否、手続の結果、必要書類、各証明書の交付の可否を保証するものではありません。手数料や様式は改定されることがあるため、必ず最寄りの遺言書保管所(法務局)と法務省の公式案内で最新の情報を確認してください。遺言の効力や遺留分にかかわる法的判断は弁護士、遺言に基づく不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続税の申告は税理士が、いずれも独立した事業体として別々にご契約のうえ対応します。相続した不動産の売却・活用は、別事業体の四葉不動産株式会社(宅地建物取引業者)が独立した事業体として別契約で対応します。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松 丈二(行政書士・宅地建物取引士)です。
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