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相続の手続き(行政書士の実務から)

遺産の一部だけ先に分けられる?「一部分割協議書」の考え方

座卓を囲んで一枚の書面に向かう三人の後ろ姿を描いた水彩イラスト
浦松 丈二

浦松 丈二

行政書士・宅地建物取引士(四葉行政書士事務所/四葉不動産株式会社)

プロフィール(士業ドットコム)↗

遺産は一部だけを先に分けられます。共同相続人は、遺言による禁止などを除き、いつでも協議で遺産の全部又は一部の分割ができます(民法第907条第1項。平成30年改正・令和元年7月1日施行で「一部」を明文化)。一部分割協議書には対象財産を特定し、残りは別途協議する旨(留保)を書きます。申告期限(10か月)は動かず、未分割部分は法定相続分で申告し、申告期限後3年以内の分割見込書で配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例の適用余地を残します。分割前に処分された財産(民法第906条の2)や遡及効と第三者保護(同第909条)まで整理し、協議書作成は行政書士・登記は司法書士・相続税は税理士・争いは弁護士へ分離受任で振る分担を示しました。

結論(先に要点):遺産は、一部だけを先に分けることができます。共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合などを除き、いつでも協議で「遺産の全部又は一部の分割」ができると民法第907条第1項が定めています(平成30年改正・令和元年7月1日施行で「一部」の文言が明文化)。決まった不動産・預金だけを先に確定し、評価や連絡に時間がかかる財産は未分割のまま残す、という進め方です。一部分割協議書には、対象財産を特定し、残りは別途協議する旨(留保)を書き残します。ただし相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)は一部分割でも動かず、未分割部分は法定相続分で申告し、申告期限後3年以内の分割見込書を出すことで配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例を後から適用できる余地を残します。本記事は一般的な情報提供であり、具体的な分け方の当否は資格者・当事者の判断によります。協議書の作成支援は四葉行政書士事務所(行政書士)、名義変更(相続登記)は司法書士、相続税は税理士、争いは弁護士が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約のうえ対応します。

遺産の一部だけを先に分ける「一部分割」は法律上できるのか?

できます。共同相続人は、被相続人が遺言で分割を禁じた場合(民法第908条)などを除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができます(民法第907条第1項)。この「全部又は一部」という文言は、平成30年法律第72号による相続法改正(令和元年7月1日施行)で明文化されました。改正前から実務上は一部分割が行われていましたが、改正でその根拠がはっきりしました。

協議が調わないときや協議ができないときは、各共同相続人が家庭裁判所に遺産の全部又は一部の分割を請求できます(民法第907条第2項)。ただし、遺産の一部を分割することで他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合は、その一部の分割の請求はできない、というただし書きがあります。一部だけを切り出すと残りの分け方が不公平になりかねないケースでは、家庭裁判所は一部分割を認めないことがあるということです。

一部分割が向いているのは、たとえば「自宅と代表者の口座の預金だけは早く名義を移したいが、非上場株式や共有名義の土地は評価と話し合いに時間がかかる」といった場面です。急ぐ財産だけを先に確定し、時間のかかる財産は落ち着いてから分ける、という段階的な進め方ができます。相続人全員の合意が前提であることは、遺産分割協議書は自分で作れる?で扱う全部分割と同じです。

一部分割協議書には、残りの財産についてどう書き残すのか?

一部分割協議書では、まず今回分ける対象の財産を、登記事項証明書や通帳の記載に合わせて特定します。不動産なら所在・地番・家屋番号、預金なら金融機関名・支店・口座番号まで書き込み、誰が取得するかを明記します。そのうえで、残りの財産の扱いを留保する条項を置きます。よくあるのは「本協議書に記載のない遺産については、相続人全員で別途協議して定める」といった文言です。

留保の書き方には注意が必要です。今回の一部分割が、残りの財産の取り分(法定相続分や具体的相続分)にどう影響するのか——たとえば「今回自宅を取得した相続人が、残りの財産では取り分を減らす」のか、「今回の分割は残りの計算に含めない」のか——を曖昧にすると、後の協議でもめる原因になります。今回の分割の位置づけを協議書に残しておくのが安全です。また、後から新たな遺産が判明したときの取扱い(別途協議とするか、法定相続分によるか)も一言添えておくと、再協議の手間を減らせます。

どの条項をどう組むかは事案ごとに異なり、権利義務に関する書類の作成は行政書士が支援しますが、具体的な分け方の当否や有利・不利の判断そのものは、相続人ご本人の意思と、争いがあれば弁護士・家庭裁判所の判断によります。

一部分割をすると相続税の申告や小規模宅地の特例にどう影響するのか?

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月で、一部分割をしても動きません。期限までに分割が終わっていない財産(未分割部分)は、各相続人が法定相続分で取得したものとして課税価格を計算し、いったん申告・納税します(相続税法第55条)。一部分割で確定した財産と、未分割のまま残した財産が混在しても、この考え方は変わりません。

問題は、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が、原則として「申告期限までに分割された財産」にしか使えない点です。未分割のままだとこれらの特例が使えず、いったん高い税額で納めることになります。そこで、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておくと、申告期限から3年以内に残りが分割されたときに、更正の請求などによってこれらの特例を後から適用できる余地が残ります。一部分割で先に自宅を取得しておくと、その自宅について小規模宅地等の特例の適用を早く固められる場合もあります。

税額の計算や特例の適用可否は税理士の業務です。当事務所は税務相談を行いません。相続税の申告が必要かどうかの入り口は相続税の申告が必要な人で整理しています。個別の税額・特例の判断は、必ず税理士にご相談ください。

後から出てきた財産や、残した財産でもめたらどうなるのか?

一部分割の後に新たな遺産が判明したときは、その財産について改めて相続人全員で協議します。協議書に「記載のない遺産は別途協議する」旨の留保を入れておけば、すでに済んだ一部分割をやり直す必要は原則ありません。留保がないと、新たな財産の扱いをめぐって一からの話し合いになりがちです。

残した財産の分け方で合意できないときは、その未分割部分について、家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てることになります。手続の流れは遺産分割の調停・審判にまとめています。なお、一部分割の後、残りを分割する前に、相続人の一人が遺産に属する財産を勝手に処分してしまった場合には、共同相続人全員(処分をした者を除く)の同意により、その財産を遺産分割時になお遺産として存在するものとみなすことができます(民法第906条の2)。使い込みなどで遺産が目減りしたときに、残った財産だけで公平を図れない不都合を調整する規定です。

ご自身のケースについて相談したい方へ

在留資格・許認可など、行政手続について状況をお聞かせください。

こうした相続人間の対立が「争い」の段階に入ると、交渉の代理や調停・審判での主張・立証は弁護士の業務になります。行政書士は、相続人全員の合意が成立している場合の協議書の作成支援までを担い、争いの代理は行いません。

登記や払戻しは一部分割協議書だけで進められるのか?

一部分割協議書で特定の不動産の取得者が決まれば、その不動産についての相続登記(名義変更)を進められます。ただし、相続登記の申請の代理や登記申請書の作成、個別の登記に関する法律相談は、司法書士又は弁護士の業務です。当事務所は相続登記の代理・登記申請書の作成を行いません。相続登記は令和6年(2024年)4月1日から義務化され、正当な理由なく期限内に申請しないと過料の対象になり得ます。相続登記の全体像は相続登記の流れにまとめています。

預金についても、一部分割協議書で取得者が決まれば、金融機関の相続手続で払戻し・名義変更を進められます。必要書類は金融機関ごとに異なります。なお、葬儀費用や当面の生活費のために遺産分割前に一定額を引き出す方法としては、預貯金の払戻し制度(民法第909条の2)があり、これは一部分割協議書とは別の仕組みです。詳しくは遺産分割前の預貯金の払戻しをご覧ください。遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じますが、第三者の権利を害することはできません(民法第909条)。

協議書作成・登記・税務・争いをどう分けて頼むのが安全か?

一部分割は、段階ごとに担当が分かれます。

  • 相続人・財産の調査、相続人全員の合意が成立した場合の一部分割協議書の作成支援 → 四葉行政書士事務所(行政書士)
  • 分け方でまとまらない場合の交渉、遺産分割調停・審判、権利義務にわたる個別の法的判断 → 弁護士
  • 不動産の名義変更(相続登記)→ 司法書士
  • 相続税の申告・計算、特例の適用可否 → 税理士
  • 相続した不動産の売却・活用の相談 → 四葉不動産株式会社

四葉行政書士事務所は、相続人全員で合意が成立した場合の一部分割協議書の作成支援を、独立した事業体として担います。分け方をめぐる交渉や争いは弁護士、名義変更は司法書士、相続税は税理士、相続不動産の売却・活用は四葉不動産株式会社(別事業体)が、それぞれ別々にご契約・ご相談のうえ対応します。四葉行政書士事務所と四葉不動産株式会社は別事業体です。当事務所は紹介料を受け取りません。相続手続の全体像は相続の手続き、受任の流れは受任の流れ、料金は報酬額表、相続不動産の相談は相続不動産の窓口をご覧ください。一部分割が適切か、残りをどう留保するかの最終判断は、事情を踏まえて資格者と当事者が行います。

よくある質問

Q. 遺産の一部だけを先に分けても、法律上有効ですか?
A. 有効です。共同相続人は、遺言による禁止などがある場合を除き、いつでも協議で遺産の全部又は一部の分割ができます(民法第907条第1項)。この「一部」の分割は平成30年改正(令和元年7月1日施行)で明文化されました。相続人全員の合意が前提で、対象財産を特定した一部分割協議書を作成します。

Q. 一部分割をすると、相続税の申告期限は延びますか?
A. 延びません。申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月のままです。未分割部分は法定相続分で申告し、申告期限後3年以内の分割見込書を添付しておくと、後日分割したときに配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できる余地が残ります。税額・特例の判断は税理士にご相談ください。

Q. 一部分割の後で新しい財産が見つかったら、やり直しですか?
A. 原則やり直しにはなりません。協議書に「記載のない遺産は別途協議する」旨の留保を入れておけば、その財産だけを改めて協議すれば足ります。留保がないと再協議の範囲でもめやすいため、残りの財産の扱いを書き残しておくのが安全です。

Q. 一部分割協議書だけで、不動産の名義変更はできますか?
A. その不動産の取得者が協議書で決まっていれば、相続登記を進められます。ただし相続登記の申請の代理・登記申請書の作成・個別の登記の法律相談は司法書士又は弁護士の業務で、当事務所は行いません。相続登記は2024年4月1日から義務化されている点にも注意してください。

この記事の出典(一次情報)

  • e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)第896条(相続の一般承継)、第906条(遺産の分割の基準)、第906条の2(遺産の分割前に処分された財産)、第907条(遺産の分割の協議・全部又は一部の分割)※平成30年法律第72号による改正・令和元年7月1日施行、第908条(遺言による分割の禁止等)、第909条(遺産の分割の効力・遡及効と第三者保護)、第909条の2(遺産分割前の預貯金債権の行使)(参照日 2026-09-25)
  • 国税庁 タックスアンサー No.4208「相続財産が分割されていないときの申告」(未分割の場合の法定相続分による申告、申告期限後3年以内の分割見込書。相続税法第55条。参照日 2026-09-25)
  • 法務省「相続登記の申請義務化」(令和6年=2024年4月1日施行)の案内(参照日 2026-09-25)
  • 裁判所「遺産分割調停」(courts.go.jp。参照日 2026-09-25)

本記事は一般的な情報提供であり、特定の遺産について一部分割の当否や、どこまで留保すべきか、特例の適用可否を保証するものではありません。一部分割が他の共同相続人の利益を害するおそれの有無、留保条項の書き方、税務上の取扱いは、事情を踏まえた個別判断であり、相続人の間で争いがあれば家庭裁判所の調停・審判や訴訟で確定します。分け方をめぐる交渉・調停、権利義務にわたる個別の法的判断は弁護士、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続税の申告・計算と特例の判断は税理士、相続不動産の売却・活用は四葉不動産株式会社が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約・ご相談のうえ対応します。四葉行政書士事務所と四葉不動産株式会社は別事業体です。当事務所は紹介料を受け取りません。個別の判断は、面談のうえ資格者が行います。執筆は浦松 丈二(行政書士・宅地建物取引士)です。

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