メインコンテンツにスキップ
2026.07.25事業用不動産

介護事業所の物件が見つからない本当の理由──用途地域と消防法、そして大家さんの誤解

浦松 丈二

浦松 丈二

代表取締役・宅地建物取引士(四葉不動産株式会社)

プロフィール(士業ドットコム)↗

人員も資金計画も整っているのに、物件だけが半年決まらない。介護・障害福祉サービスの開業でいちばん多い詰まりどころを、用途地域・用途変更の確認申請と検査済証・消防法・貸主側の懸念という4つの壁に分けて整理しました。訪問介護事業所が「老人福祉センターその他これに類するもの」として扱われ得ることは、実務で見落とされがちです。確認の順番を間違えないための記事です。

結論(先に要点):介護・障害福祉サービスの開業で物件が決まらない原因は、物件数の不足ではなく、確認の順番にあります。事務所の感覚で探すと用途地域で外れ、契約後に用途変更や消防設備の負担が判明して手戻りになります。押さえる順番は、①用途地域(訪問介護等は「老人福祉センターその他これに類するもの」として扱われ得る点が実務で見落とされがちです)→ ②用途変更確認申請の要否と検査済証の有無 → ③所轄消防署への事前相談 → ④貸主への説明資料。いずれも最終確認は特定行政庁および所轄消防署の窓口で行ってください。

「あとは物件だけ」で半年止まる

「指定申請の準備はできているのに、物件で止まっています」

介護・障害福祉サービスの開業を準備されている方から、いちばん多くうかがう言葉です。人員基準を満たす採用の目処も立ち、資金計画も固まっている。あとは物件だけ。ところが、その「あとは物件だけ」で半年が過ぎます。

物件が決まらなければ指定申請は進まず、申請が進まなければ開業日が決まらず、開業日が決まらなければ採用も待たせることになります。不動産で詰まると、事業計画全体が止まります。

理由は、次の4つに整理できます。

何が起きるか確認先
①用途地域「事務所可」で探すと候補が外れる/逆に使える物件を見落とす特定行政庁(区市町村の建築部署)
②用途変更200㎡超で確認申請。検査済証がないと調査から建築士・特定行政庁
③消防法設備工事の要否で予算と工期が変わる所轄消防署
④貸主の懸念説明材料がなく申込みが通らない——(事業者側の準備)

壁① 用途地域——「事務所」の感覚で探すと外れる

建築できる建物の用途は、用途地域ごとに定められています(e-Gov法令検索「建築基準法」昭和25年法律第201号・別表第2)。

一般の会社事務所と同じ感覚で「事務所可の物件」を探すと、ここでずれます。

「事務所」は住居系の地域に弱い

たとえば第一種低層住居専用地域では、原則として事務所を建てることができません。認められるのは兼用住宅の場合で、居住部分が延べ面積の2分の1以上であること、事務所部分の床面積が50㎡以下であることなどの条件が付きます。

一方で「福祉施設」なら建てられる場合がある

同じ第一種低層住居専用地域でも、老人福祉センターその他これらに類するもの児童福祉施設等は、延べ面積600㎡以下であれば建築が可能とされています。

訪問介護事業所の扱いが変わっている

ここが実務で最も知られていない点です。

訪問介護事業所は、かつて単なる「事務所」として扱われ、住居専用地域での開設を断られる事例がありました。その後、国土交通省の技術的助言(平成27年11月10日付・国住指第107号「『老人福祉センターその他これに類するもの』の取扱いについて」)により、訪問介護等の事業所を**「老人福祉センターその他これに類するもの」として取り扱って差し支えない**旨が示されています。

つまり——「この地域は事務所が建てられないので難しい」と言われた物件が、実際には検討の余地がある場合があるということです。

ただし、サービス種別、建物の規模、既存建物の登記上の用途によって結論は変わります。逆に、使えると思っていた物件が使えないこともあります。最終的な可否の判断は特定行政庁(区市町村の建築部署)の窓口で行われます。 物件を押さえる前に必ず窓口で確認してください。ここを飛ばすと、契約後に手戻りします。

壁② 用途変更——200㎡と検査済証

既存の建物を借りて用途を変える場合、用途変更部分の床面積が200㎡を超えると建築確認申請が必要です。かつては100㎡超でしたが、令和元年(2019年)6月25日施行の改正建築基準法で200㎡超に緩和されました。

注意していただきたいのは、200㎡以下であれば確認申請の手続が不要になるだけで、建築基準法に適合させる義務がなくなるわけではないということです。避難関係規定や内装制限などは、手続の要否とは別に適用されます。

そしてもうひとつ、実務上いちばん厄介なのが検査済証です。築年数の経った雑居ビルや戸建てでは、検査済証が見当たらないケースが珍しくありません。用途変更の確認申請が必要な規模で検査済証がないと、そこから調査に入ることになり、時間も費用も膨らみます。

内見の段階で、検査済証の有無を必ず確認してください。 「あとで探しておきます」と言われた物件は、注意が必要です。

壁③ 消防法——契約後に判明すると致命的になる

用途が変われば、消防法上の防火対象物の区分も変わります。社会福祉施設は消防法施行令別表第一の(6)項に区分され、利用対象者の種別によってさらに分かれます。

特に負担が大きいのが、自力での避難が困難な方が入所する(6)項ロの施設です。従前は延べ面積275㎡以上でスプリンクラー設備の設置が義務づけられていましたが、平成27年4月1日施行の改正により、原則として延べ面積にかかわらず設置が義務づけられました(既存施設については平成30年3月31日までの経過措置が置かれていました)。

スプリンクラー設備の工事は、費用も工期も小さくありません。自動火災報知設備や消防機関へ通報する火災報知設備との連動まで含めると、内装工事の予算感が根本から変わります。

契約後にこれを知ると、取り返しがつきません。 申込みの前に、所轄消防署への事前相談を済ませてください。図面を持参すれば、必要となる設備の見当は早い段階で付きます。個別の設備の要否は、建物の規模・構造・用途区分により異なるため、必ず所轄消防署にご確認ください。

壁④ 貸主の懸念——ここは説明で越えられる

用途地域も消防もクリアした。それでも申込みが通らない。最後の壁がこれです。

よくうかがう懸念は、おおむね3つです。

「近隣から反対されるのではないか」
通所・訪問系の事業所は、日中の運営が中心です。送迎車両の出入りの時間帯と台数、駐停車の場所を具体的に示せると、話が変わります。

「原状回復が大変になるのではないか」
造作をどこまで残し、どこまで撤去するのか。契約の時点で範囲を決めておけば、貸主側の不安は減ります。設備を残して次の福祉系テナントに引き継げる場合もあります。

「途中で撤退されたら困る」
介護報酬・障害福祉サービス等報酬は公費が原資です。一般の店舗テナントとは収入の安定性の性質が異なります。この点は、事業計画書と指定取得の見通しをあわせて示すのが有効です。

これらは事業者側が先回りして資料で示すと、通ることが多いというのが実感です。貸主は反対しているのではなく、判断材料がないだけ、という場合が大半です。

物件は「探す」より「翻訳する」(四葉の視点)

介護事業所の物件探しが難航する理由は、物件が少ないからではありません。事業者側の要件(指定基準)と、不動産側の要件(用途地域・用途変更・消防)と、貸主側の懸念が、それぞれ別の言葉で語られているからです。

この3つを突き合わせて翻訳する作業ができれば、候補は増えます。

四葉不動産は文京区の宅地建物取引業者として物件の媒介を行い、代表は行政書士でもあるため、指定基準と建築・消防の要件を見ながら物件をお探しできます。詳しくは介護事業所の開業、事業用不動産全般は投資・事業用不動産をご覧ください。

なお、指定申請等に係る官公署提出書類の作成は行政書士の独占業務にあたり、書類の作成・提出は四葉行政書士事務所が別契約で受任します。建築確認申請・設計は建築士、登記は司法書士の業務であり、必要な場面では連携する専門家をご案内します。

また、障害者グループホーム(共同生活援助)は居住系のサービスであり、建築基準法上は原則として「寄宿舎」として扱われるなど、通所・訪問系とは検討事項が大きく異なります。開設をお考えの方はグループホーム開設ガイドをご覧ください。

よくある質問

Q. 訪問介護の事業所は、住宅街の物件でも開設できますか?
A. 国土交通省の技術的助言(平成27年11月10日付・国住指第107号)により、訪問介護等の事業所を「老人福祉センターその他これに類するもの」として取り扱って差し支えない旨が示されており、住居系の用途地域でも検討の余地があります。ただし建物の規模や既存の用途によって結論が変わるため、最終的な可否は特定行政庁(区市町村の建築部署)の窓口でご確認ください。

Q. 用途変更の確認申請は、どんなときに必要ですか?
A. 用途変更する部分の床面積が200㎡を超える場合に必要とされています(令和元年6月25日施行の改正建築基準法。従前は100㎡超)。200㎡以下でも建築基準法に適合させる義務自体はなくなりません。要否の判断は建築士または特定行政庁にご確認ください。

Q. スプリンクラー設備は必ず必要になりますか?
A. 施設の用途区分によります。自力避難が困難な方が入所する消防法施行令別表第一(6)項ロの社会福祉施設等については、平成27年4月1日施行の改正により原則として延べ面積にかかわらず設置が義務づけられています。通所系・訪問系では区分が異なる場合があります。個別の要否は所轄消防署にご確認ください。

Q. 物件を契約する前に、指定基準に合うかどうか見てもらえますか?
A. はい。図面をもとに、用途地域・用途変更の要否・消防の論点と、指定基準(面積・区画・動線等)の論点を整理してお示しします。建築確認や設計の判断は建築士、指定申請書類の作成は行政書士の業務であり、それぞれ別契約でのご依頼となります。

この記事の出典(一次情報)

※用途地域上の可否、用途変更確認申請の要否、消防用設備等の設置義務は、建物の規模・構造・サービス種別・所在地により結論が変わります。本記事は一般的な情報提供であり、個別物件の可否を判断・保証するものではありません。必ず特定行政庁(区市町村の建築部署)および所轄消防署にご確認ください。
※物件の媒介および賃貸借契約は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が、指定申請等に係る官公署提出書類の作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ独立した事業体として別契約で受任します。

この記事の執筆者

浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。元毎日新聞記者・中国総局長として中国や台湾、タイに駐在しました。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。建築士の判断が必要な場面は連携する専門家をご案内します。

まずはお気軽にご相談ください

コラムの内容に関するご質問も大歓迎です。