実家を兄弟で相続したら──『とりあえず共有名義』が一番危ない理由
実家を兄弟姉妹で共有名義のまま相続すると、売却も賃貸も全員の同意が必要になり、次の相続を経るごとに権利者がさらに増えていきます。現物・代償・換価という3つの分け方の考え方と、話し合いから相続登記までの段取りを整理しました。
結論から言うと、実家を兄弟姉妹で相続したときの「とりあえず共有名義」は、後になるほど動かしにくくなる選択です。共有名義は共有者全員の同意がなければ売却も賃貸もできず、次の相続が重なると権利者はさらに増えます。まず話し合いで分け方の方向性を決め、遺産分割協議書の作成は行政書士、査定・売却は不動産会社、相続登記は司法書士、税務は税理士と、担当を分けて進めるのが安全です。
なぜ「とりあえず共有」を選んでしまうのか?
きょうだいで実家を相続する場面では、最初の選択はたいてい同じです。「とりあえず全員で均等に」。誰か一人が多く取れば角が立つ、話し合いを長引かせたくない、悲しみの中でお金の話をしたくない――そうした事情が重なり、法定相続分どおりの共有登記が、もっとも公平で波風の立たない答えに見えてしまいます。
記者時代、空き家問題を取材する中で、姉妹3人で実家を共有登記したという方に話を聞いたことがあります。相続の直後は「まさか揉めるわけがない」と思っていたそうですが、十年後、姉妹それぞれに次の相続が発生し、共有者は3人から7人に増えていました。顔を合わせたこともない親戚同士で、実家の処分をめぐる話し合いが始まっていたといいます。
平等を優先した判断が、時間を味方につけられなかった一例です。なお「そもそも売るか残すか」で迷っている段階であれば、実家を売るか残すかの記事もあわせてご覧ください。
共有名義に潜む「三重苦」とは?
共有名義のトラブルは、相続の直後ではなく、時間をかけてじわじわと表面化します。共有名義には、時間が経つほど重くなる3つの負担があります。
第一に、全員の同意がなければ売ることも貸すこともできません。共有物の変更(処分に近い行為)には共有者全員の同意が必要です(民法第251条)。一人でも「まだ決めたくない」と言えば、他の共有者の意向にかかわらず手続きは止まります。
第二に、次の相続のたびに持分が枝分かれします。共有者の一人が亡くなれば、その持分はさらにその相続人へ引き継がれます。世代が一つ進むごとに共有者が増え、全員の同意を取り付けること自体が難しくなっていきます。所在が分からない共有者がいる場合に備え、2023年(令和5年)4月1日施行の民法改正で、裁判所の関与によって手続きを進められる制度が整いました(民法第251条第2項・第252条第2項)が、これは対症療法であり、共有そのものを避けるに越したことはありません。
第三に、固定資産税や修繕費、空き家になった場合の管理責任を「誰が負担するか」で押し付け合いが生じやすくなります。
話し合いがまとまらないまま共有状態を解消したい場合、裁判所に共有物の分割を求める法的手続きもありますが、これは紛争性の高い領域のため、提携弁護士のご紹介となります。
実家の分け方、3つの選択肢をどう比較するか?
共有を避けると決めたら、分け方は主に3つです。どれが正解ということはなく、家族の状況によって向き不向きがあります。
現物分割:土地を分筆するなど、不動産そのものを物理的に分ける方法です。一戸建て一棟のままでは現実的に難しいことが多く、マンションの一室ではほぼ選べません。
代償分割:相続人の一人が不動産を単独で取得し、他の相続人へ代償金を支払う方法です。取得する側にまとまった資金力が必要です。
換価分割:売却して現金化し、持分に応じて分配する方法です。もっとも公平に見えますが、「実家を残したい」という気持ちとは相反します。
いずれの方法でも、代償金や分配額を決めるには、不動産の適正な価格を把握しておくことが前提になります。
共有名義を解消するには、どんな段取りで進めるか?
進め方はシンプルです。
- 話し合い:誰が住みたいか、誰が売りたいか、まず希望を出し合います。
- 査定で数字を共有する:感情論だけでは進みません。想定価格が分かって初めて、代償分割の金額や換価分割の手取りが見えてきます。
- 遺産分割協議書の作成:話し合いの結果を文書にします。作成は行政書士の独占業務であり、四葉行政書士事務所が別契約で受任します。
- 相続登記:2024年(令和6年)4月1日から相続登記の申請が義務化されています。不動産の取得を知った日から原則3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になり得ます(不動産登記法第76条の2第1項・第164条第1項)。登記の申請代理は提携司法書士が担います。
- 出口を選ぶ:売却するか、賃貸などで活用するか、当面は維持するか。空き家のまま放置すると、自治体の勧告により固定資産税が最大6倍になる場合もあります(空き家の完全ガイド)。
税務(相続税や、売却時の譲渡所得課税)は提携税理士が担当します。売却を選ぶ場合、要件を満たせば「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」により譲渡所得から最大3,000万円を控除できることもあります(適用期限は令和9年〔2027年〕12月31日まで)が、適用可否は税理士の確認が必要です。
よくある質問
Q1. 共有名義のまま、一人だけが固定資産税を払い続けています。問題ないでしょうか。
一般的には、共有者は持分に応じて費用を負担するものとされています。一人が立て替えている状態が続くと、後日の精算をめぐって関係がこじれやすいため、早い段階で負担割合を書面に残しておくことをお勧めします。個別の精算方法は事案により異なるため、専門家にご確認ください。
Q2. 兄弟の一人が、自分の持分だけを第三者に売ってしまうことはありますか。
一般論として、共有者は自分の持分に限れば単独で譲渡できます。面識のない第三者が共有者に加わるケースもあり、これも共有名義が抱えるリスクの一つです。
Q3. 相続登記をしないでいると、どうなりますか。
2024年4月1日に相続登記の申請義務化が施行されました。正当な理由なく3年以内に申請しないと、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。詳細は法務局または提携司法書士にご確認ください。
Q4. 話し合いがまとまりません。どうすればいいですか。
家庭裁判所での遺産分割調停や、共有物分割請求といった法的手続きがあります。これらは紛争性の高い領域のため、提携弁護士のご紹介となります。
四葉不動産にできること
私たちがお手伝いできるのは、売却そのものより先にある「決め方」です。文京区・小日向を拠点に、査定という数字を共有するところから、ご家族の話し合いを支えます。遺産分割協議書の作成は併設の四葉行政書士事務所が別契約で受任し、登記は提携司法書士、税務は提携税理士、紛争性のある場面は提携弁護士と、それぞれ独立した専門家が分担します。普通の不動産業者との違いは、この「決め方」の段階から数字を示しながら伴走できる点にあります。デパートのようにすべてを一括で抱え込むのではなく、下町の商店街のように、それぞれの専門店へ迷わずおつなぎする役割です。
まだ何も決まっていない段階でも構いません。相続不動産の完全ガイドや空き家の完全ガイドもあわせてご覧ください。書類作成のご相談は四葉行政書士事務所へ、その他のご相談はお問い合わせからどうぞ。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的判断は有資格者による確認を経て、または確認を要するものです。
当社が対応できないこと:紛争性のある相続案件の代理交渉(弁護士をご紹介します)、不動産登記の申請代理(提携司法書士が受任します)、相続税申告(提携税理士が受任します)。社会保険労務士業務は2026年9月の開業までお受けできません。各専門家とは分離受任・個別契約であり、当社が紹介料を受け取ることはありません。
浦松 丈二|四葉不動産株式会社 代表取締役・専任宅地建物取引士。行政書士。元毎日新聞中国総局長(記者歴34年)。中国や台湾、タイに駐在。社会保険労務士試験合格(2026年9月開業予定)。
