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相続

相続した「区分所有オフィス(テナント1室)」を売るには?賃貸借の承継と管理組合の実務

相続した実家を前に立つ二人の後ろ姿を描いた水彩イラスト
浦松 丈二

浦松 丈二

代表取締役・宅地建物取引士(四葉不動産株式会社)

プロフィール(士業ドットコム)↗

相続した賃貸中の区分所有オフィス(テナント1室)は、賃貸人たる地位も含めて相続人が当然に承継します(民法第896条)。売るときは買主に賃貸人たる地位が移り、テナントに対抗するには所有権移転登記が要ります(民法第605条の2)。売る前に確認するのは、管理規約で事業用に使えるか・管理費と修繕積立金の滞納がないか・テナント契約の中身の3点。住宅マンションより買主が限られ価格は賃料(利回り)で決まりやすい点まで、東京都文京区の宅地建物取引士兼行政書士が区分所有法・民法・不動産登記法の条文から整理します。

結論(先に要点):相続した賃貸中の区分所有オフィス(テナント1室)は、賃貸人たる地位も含めて相続人が当然に承継します(民法第896条)。売るときは買主に賃貸人たる地位が移り、テナントに対抗するには所有権移転登記が要ります(民法第605条の2)。売る前に確認するのは、管理規約で事業用に使えるか・管理費と修繕積立金の滞納がないか・テナント契約の中身の3点。住宅マンションより買主が限られ、価格は賃料(利回り)で決まりやすくなります。売る前提として相続登記(2024年4月から義務)を先に済ませます。

親などから、賃貸中の区分所有オフィスや店舗1室を相続した——住宅マンションのつもりで動き出すと、テナントとの契約、管理組合、そして「そもそも売りにくい資産類型である」ことでつまずきます。本記事は、区分所有の事業用オフィス・店舗1室(賃貸中)を相続した方に向けて、売る前に何を確認し誰に相談すればよいかを、民法・区分所有法・不動産登記法の条文から整理したものです。売却の進め方・査定・買主探しは当社(四葉不動産株式会社)が情報提供として担い、法的判断は有資格者が行います。

相続した区分オフィスは、住宅マンションと何が違いますか?

建物の区分所有という枠組みは同じですが、用途が事業用であることが実務を変えます。買主の層、管理組合の規約、賃貸借(テナント)の性格、そして流動性が、住宅とは別物になります。

区分所有オフィスも、住宅マンションと同じく建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)の適用を受けます。専有部分(1室)を所有し、廊下・エレベーター・外壁などの共用部分を他の区分所有者と共有し、管理組合の一員になる構造は同じです。違いは次の点です。

論点住宅マンション区分所有オフィス(事業用1室)
賃借人入居者(借地借家法の手厚い保護)テナント(事業者)。原則は借地借家法の適用を受ける
管理規約住居専用が一般的事業用可・用途制限の有無を要確認
買主実需(自宅)+投資家自社利用の事業者か投資家に限られやすい
価格の決まり方相場・面積が軸賃料(利回り)が軸になりやすい

つまり、区分オフィスは「区分所有の枠組み=住宅と同じ/中身=事業用で別物」と捉えるのが出発点です。相続した不動産全般の売り方は相続と不動産に、共有名義になった不動産の売り方は「相続した共有の不動産を売る」に整理しています。

賃貸中のテナント契約は、相続でどう引き継がれますか?

相続人が、賃貸人(オーナー)の地位をそのまま引き継ぎます。民法第896条により、相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するため、テナントとの賃貸借契約・賃料を受け取る地位・敷金を返す義務も当然に相続人へ移ります。

相続は「包括承継」です。売買のように所有権を新たに移す場面(民法第605条の2の賃貸人たる地位の移転)とは異なり、相続では被相続人の地位が当然に相続人へ移るため、テナントへの通知や登記がなくても賃貸人はそのまま相続人に代わります。実務では次を押さえます。

確認する事項なぜ確認するか
賃貸借契約書・覚書賃料・契約期間・更新・原状回復・中途解約の条件。普通借家か定期借家か
敷金・保証金の額と預り売却時に敷金返還債務も買主へ承継されるため、金額を確定しておく
賃料の入金口座・滞納の有無名義変更と、滞納があれば承継後の対応
複数の相続人がいるか遺産分割が済むまでは賃料債権が相続人間で分かれる(共有状態)

複数人で相続してまだ分割が済んでいないと、賃料の扱いや売却の同意で共有のルールが効いてきます。共有不動産を売る手順は「相続した共有の不動産を売る」を、賃貸人たる地位やサブリースの承継は「相続でサブリース(マスターリース)契約の地位はどう引き継ぐか」をご覧ください。

売る前に、管理組合と何を確認しますか?

管理規約・管理費と修繕積立金の状況・大規模修繕の予定の3点です。区分所有では、これらが売りやすさと価格に直接効きます。

区分所有法は、管理費・修繕積立金などの債権について、特定承継人(買主)にも効力が及ぶと定めています(区分所有法第8条・第7条)。つまり前所有者の滞納があると、買主が支払義務を引き継ぐおそれがあり、売却の障害になります。売る前に管理組合(管理会社)へ確認する要点は次のとおりです。

確認する事項見るポイント
管理規約・使用細則事業用としての使用可否、用途制限、テナント営業への制約
管理費・修繕積立金月額と滞納の有無。滞納は買主に承継され得る(区分所有法第8条)
修繕積立金の残高・長期修繕計画大規模修繕の予定と一時金の有無。価格・買主の判断に効く
集会(総会)の議決・規約変更の予定用途や費用に関わる決議が進んでいないか

これらは管理組合の管理会社に問い合わせれば書面(重要事項に係る調査報告書など)で確認できます。売買では宅地建物取引業法第35条の重要事項説明でこれらを買主へ説明するため、売る側も早めに管理費等の現況をそろえておくとスムーズです。

区分オフィスは売りにくいのですか?価格はどう決まりますか?

住宅より買主が限られるため、一般に流動性は低めです。価格は、賃貸中なら**賃料から逆算した利回り(収益還元)**が軸になり、空室なら自社利用を想定する事業者の需要で決まります。

区分所有オフィス1室の買主は、実務上は「その立地で自社の事務所を構えたい事業者」か「賃料収入を得たい投資家」に絞られやすくなります。1棟のオフィスビルと違い、建物全体の運用を左右できず、管理組合の合意に縛られるため、投資家からは値づけが慎重になりがちです。価格の見方は次のとおりです。

状況価格の主な決まり方
賃貸中(テナントあり)賃料・稼働率から利回りで逆算(収益還元)。テナントの信用と契約残存も影響
空室自社利用を想定する事業者の需要と、周辺の賃料相場・成約事例
管理・修繕の状態修繕積立金の残高・滞納・長期修繕計画が価格に反映される

「賃貸中のまま売る(オーナーチェンジ)」か「テナント退去後に売る」かでも買主層と価格が変わります。オーナーチェンジで売る場合の段取りは「海外の相続人が所有者となった不動産をオーナーチェンジで売る」も参考になります。査定と売り方の比較は当社がご案内します。

登記・税務・紛争は、それぞれ誰に相談しますか?

区分オフィスの相続・売却には複数の専門家が関わります。役割を分けると次のとおりです。

ご自身のケースについて相談したい方へ

物件探しや売却について、状況をお聞かせください。

売買や名義変更をするには、その不動産が誰の名義かが登記で確定していなければなりません。相続で取得した不動産は、まず相続登記(被相続人から相続人への名義変更)を済ませる必要があります。不動産登記法第76条の2は、相続により不動産を取得した相続人に対し、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内の相続登記の申請を義務づけています(令和6年4月1日施行)。正当な理由なく怠ると過料の対象になり得ます。

やること担い手
売却の進め方・査定・買主探し・媒介・売買契約宅地建物取引業者(四葉不動産株式会社)
遺産分割協議書の作成行政書士(四葉行政書士事務所)
相続登記・所有権移転登記司法書士
相続税評価・譲渡所得税・取得費の計算税理士
賃料の滞納・立退き・テナントとの紛争弁護士

売却時は、買主に賃貸人たる地位が移り(民法第605条の2第1項)、テナントに対抗するには所有権移転登記が必要です(同条第3項)。敷金返還債務も買主へ承継されます(同条第4項)。譲渡所得(売った金額から取得費・譲渡費用を差し引いて計算)の計算・申告は税理士が担います。

誰に相談すればよいですか?

区分所有オフィスの売却の進め方・査定・買主探し・媒介・売買契約は、四葉不動産株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)が承ります。遺産分割協議書など官公署・私人間に提出する書類の作成は、四葉行政書士事務所が承ります。相続登記・所有権移転登記は司法書士が、相続税評価・譲渡所得税の計算は税理士が、賃料の滞納や立退きなどテナントとの紛争は弁護士が扱います。

これらはそれぞれ独立した事業体です。それぞれ直接ご契約いただきます。 当社・当事務所は、紹介料・送客手数料を受け取ることも支払うこともありません。登記は司法書士、税務は税理士、紛争は弁護士、雇用・社会保険は社会保険労務士(四葉社会保険労務士事務所)へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。相談は無料です。

よくある質問

Q. 相続したオフィスにテナントが入っています。契約はどうなりますか?
A. 相続人が賃貸人(オーナー)の地位をそのまま引き継ぎます。民法第896条により、相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するため、テナントとの賃貸借契約・賃料を受け取る地位・敷金を返す義務も当然に相続人へ移ります。相続は包括承継なので、テナントへの通知や登記がなくても賃貸人は相続人に代わります。賃料の入金口座の変更や、複数相続人がいる場合の賃料の扱いは、遺産分割の状況とあわせて整理します。

Q. 売ると、テナントとの契約や敷金はどうなりますか?
A. 売却により、買主に賃貸人たる地位が移転します(民法第605条の2第1項)。買主が賃貸人であることをテナントに対抗するには、その不動産の所有権移転登記が必要です(同条第3項)。敷金の返還義務も買主へ承継されます(同条第4項)。賃貸中のまま売る(オーナーチェンジ)か、テナント退去後に売るかで買主層と価格が変わるため、契約内容を確認してから進めます。

Q. 管理費や修繕積立金の滞納があると売れませんか?
A. 売れないわけではありませんが、注意が要ります。区分所有法第8条・第7条により、管理費・修繕積立金などの債権は特定承継人(買主)にも及ぶため、前所有者の滞納を買主が引き継ぐおそれがあります。これは売却の障害になりやすいので、売る前に管理組合(管理会社)へ滞納の有無を確認し、清算しておくのが実務です。修繕積立金の残高や長期修繕計画も価格に影響します。

Q. 名義が亡くなった親のままです。先に何をすべきですか?
A. 売買や名義変更の前に、相続登記(親から相続人への名義変更)を済ませる必要があります。相続登記は2024年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が求められます(不動産登記法第76条の2)。相続登記・所有権移転登記は司法書士の業務です。遺産分割協議書の作成は行政書士が承ります。相続税評価・譲渡所得税は税理士へご相談ください。

この記事の出典(一次情報)

  • e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号。第605条の2=不動産の賃貸人たる地位の移転(第1項=対抗要件を備えた賃貸借で不動産が譲渡されたときは賃貸人たる地位が譲受人に移転、第3項=賃借人に対抗するには所有権移転登記が必要、第4項=敷金返還債務の承継。令和2年4月1日施行の債権関係改正で明文化)、第896条=相続の一般的効力(相続人は相続開始時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継。一身専属権を除く)。2026年9月30日参照)
  • e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(昭和37年法律第69号。専有部分・共用部分、管理組合、規約、集会。第7条=先取特権、第8条=特定承継人の責任(管理費・修繕積立金などの債権は買主にも及ぶ)。2026年9月30日参照)
  • e-Gov法令検索「借地借家法」(平成3年法律第90号。建物賃貸借の対抗力・更新・解約の制限。事業用の建物賃貸借にも適用。2026年9月30日参照)
  • e-Gov法令検索「不動産登記法」(平成16年法律第123号。第76条の2=相続による所有権の移転の登記の申請の義務化。取得を知った日から3年以内。令和6年4月1日施行。2026年9月30日参照)

※賃貸人たる地位の承継・管理費等の滞納の承継・売却価格・オーナーチェンジの可否は、個別の契約内容・管理規約・遺産分割の状況によって変わります。本記事は個別の事案について判断していません。テナントとの紛争のある事案は弁護士へご相談ください。
※相続税評価・譲渡所得税・取得費の具体的な計算と申告は税理士へ、相続登記・所有権移転登記は司法書士へご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の売却の可否や税額を判断・保証するものではありません。
※不動産の調査・媒介および売買契約は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が、遺産分割協議書等の書類作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形で受任します。紹介料・送客手数料のやりとりはありません。

この記事の執筆者

浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。物件(不動産)と権利・手続(相続・登記・税務の振り分け)の論点を同じテーブルに並べて確認します。詳しい経歴は著者ページをご覧ください。

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