配偶者居住権が設定された相続建物は売れるのか──評価・買い手・消滅の実務
配偶者居住権が付いた相続建物も、所有権を相続した人は売れます。ただし居住権が登記されていれば買主に対抗でき(民法第1031条)、居住権は第三者に譲渡できない(民法第1032条第2項)ため、実務では配偶者に放棄・合意消滅してもらい抹消登記を入れてから売るのが通例です。抹消登記は司法書士、消滅の対価にかかる譲渡所得やみなし贈与は税理士、遺産分割の紛争は弁護士に振り分けます。東京都文京区の宅地建物取引士兼行政書士が、売却の可否と段取りを条文と国税庁の資料から整理します。
結論(先に要点):配偶者居住権が設定された相続建物も、所有権を相続した人は売ること自体はできます。ただし配偶者居住権が登記されていれば買主に対抗でき(民法第1031条)、買主は「住み続ける配偶者がいる」負担を引き継ぎます。配偶者居住権は第三者に譲渡できない(民法第1032条第2項)ため、実務では、配偶者に居住権を放棄・合意消滅してもらい、抹消登記を入れてから、負担のない状態で売るのが通例です。抹消登記は司法書士、消滅の対価にかかる譲渡所得や相続税法上のみなし贈与の判断は税理士、遺産分割で揉めた場合は弁護士の領域で、これらはそれぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。当社(四葉不動産株式会社)は物件の調査・査定・媒介の情報提供に限ります。
本記事は、配偶者居住権の付いた実家・自宅を相続後に売却したいご家族に向けて、不動産仲介の立場から「売れるのか・いくらになるのか・どう消すのか」を整理するものです。権利の設定登記・抹消登記は司法書士、相続税・譲渡所得や居住権の評価額計算は税理士、遺産分割の紛争は弁護士に振り分けます。当社は物件の情報提供に限り、これらはそれぞれ独立した事業体として別々にご契約いただきます。
配偶者居住権が付いたままの建物は第三者に売れるのか?
売れます。ただし「誰の何を売るか」を分けて考える必要があります。
配偶者居住権は、相続開始時に被相続人所有の建物に住んでいた配偶者が、遺産分割・遺贈・死因贈与・家庭裁判所の審判によって取得する権利です(民法第1028条・第1029条)。このとき、建物そのものの所有権は、多くの場合、配偶者以外の相続人(子など)が取得します。所有権を取得した人は、その所有権を第三者に売ることができます。所有権の処分そのものは自由だからです。
問題は、買った人がどうなるかです。配偶者が配偶者居住権の登記を備えていれば、居住建物の取得者その他の第三者に対抗できます(民法第1031条第2項が民法第605条を準用)。つまり買主は、配偶者が住み続ける建物を、負担付きで買うことになります。買主は自分で住むことも、明渡しを求めることもできません。
さらに、配偶者居住権は第三者に譲渡することができません(民法第1032条第2項)。居住権だけを買い取って転売する、ということもできない建て付けです。
| 売る対象 | 誰が売れるか | 買主の立場 |
|---|---|---|
| 建物の所有権(負担付き) | 所有権を相続した人 | 配偶者居住権の負担を引き継ぐ。使用も明渡し請求もできない |
| 配偶者居住権そのもの | 譲渡できない(民法第1032条第2項) | ― |
| 敷地(土地)の所有権 | 土地を相続した人 | 建物に居住権がある間は土地も使いにくく、買い手が限られる |
このため、「配偶者居住権が付いたまま」の売却は、理屈のうえでは可能でも、買い手がほとんど付きません。
居住権付き・負担付きの物件は査定でいくら下がるのか?
一律の下げ幅はありません。「あと何年、配偶者が住むのか」で価値の目減りが変わるからです。
配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間です(民法第1030条)。ただし、遺産分割の協議・遺言・審判で「10年」などの有期に定めることもできます。負担付き所有権の市場価値は、この存続期間が長いほど(=配偶者が若いほど)小さくなります。買主がその建物を自由に使えるようになるのが先になるからです。
相続税の計算では、この配偶者居住権と負担付き所有権の評価方法が法律で定められています(相続税法第23条の2)。存続年数・法定利率・建物の耐用年数などから、居住権の価額と、その分を差し引いた所有権の価額を算出する仕組みです(国税庁タックスアンサー No.4666)。相続税の評価額と、実際に市場でいくらで売れるか(時価)は別物ですが、「終身か有期か」「配偶者の年齢」で価値が変わるという構造は共通します。
| 価値を左右する要素 | 効き方 |
|---|---|
| 存続期間(終身か有期か) | 有期で短いほど、負担付き所有権の価値は下がりにくい |
| 配偶者の年齢 | 終身の場合、若いほど負担付き所有権の価値は小さくなる |
| 建物の状態・立地 | 通常の査定要素として別途効く |
実際の市場売却では、負担付きのまま買う投資家は限られ、想定利回りに見合う相当の値引きが求められるのが通常です。**だからこそ、次に述べる「合意で消滅させてから売る」段取りが実務の中心になります。**具体的な評価額の計算は税理士の領域で、当社は市場での売りやすさ・査定の観点から情報をお示しします。
配偶者居住権を合意で消滅させてから売るにはどんな順序になるのか?
配偶者居住権は譲渡できないので、消すには居住権を持つ配偶者自身が手放すしかありません。実務の順序はこうなります。
- 配偶者(居住権者)と、建物・土地の所有者(他の相続人)とで、売却の方針と代金の分け方を話し合う
- 配偶者が配偶者居住権を放棄する、または当事者間で合意により消滅させる
- 配偶者居住権の抹消登記を入れる(司法書士)
- 負担のない所有権として、通常どおり売却する
- 売却代金を、あらかじめの取り決めに従って配分する
ここで税務の論点が出ます。存続期間の途中で、対価を支払わずに(または著しく低い対価で)配偶者居住権を消滅させ、建物所有者がその負担のない完全な所有権という利益を受けた場合、相続税法第9条により、所有者が配偶者から贈与により取得したものとみなされることがあります(みなし贈与)。逆に、配偶者が消滅の対価を受け取った場合、その対価は配偶者の譲渡所得として課税され得ます。いずれも税額の判断は税理士の領域で、当社が有利・不利をお答えすることはありません。
話し合いがまとまらない、配偶者が放棄に応じない、といった場合は、遺産分割や権利の争いとして弁護士が扱う領域になります。売却の前提として相続登記(2024年〈令和6年〉4月1日から義務化)を先に済ませておく点は、相続したときにまず何をするかにも整理しています。共有名義や換価分割で分ける場合は相続した共有不動産を売る・換価分割で売る流れもあわせてご覧ください。
居住権者が施設に入った・亡くなった場合、売却はどう変わるのか?
配偶者の状況が変わると、消滅の道筋も変わります。
配偶者が亡くなった場合、配偶者居住権は消滅します(民法第1036条が準用する民法第597条第3項=存続期間中に配偶者が死亡すると終了)。相続はされません。この消滅は民法の予定どおりのものなので、その時点で新たな相続税・贈与税は生じないと整理されています(国税庁の質疑応答事例)。消滅後は、所有者が負担のない所有権として売却できます。抹消登記の手続きは司法書士が担います。
配偶者が施設に入居した場合は、それだけでは居住権は消えません。施設入居は消滅事由ではないためです。売りたいなら、前章のとおり配偶者が放棄・合意消滅に応じる必要があります。なお、配偶者は所有者の承諾を得れば第三者に居住建物を賃貸することもでき(民法第1032条第3項)、施設費用の原資として建物を貸すという選択肢もあります(この場合は居住権は残ったままです)。
有期で設定した居住権が存続期間の満了を迎えた場合も、居住権は消滅し、これも予定どおりの消滅として新たな課税は生じないと整理されています。
| 配偶者の状況 | 居住権はどうなるか | 売却への影響 |
|---|---|---|
| 死亡 | 消滅(民法第597条第3項準用)。相続されない | 抹消登記後、負担なく売れる |
| 存続期間(有期)の満了 | 消滅 | 抹消登記後、負担なく売れる |
| 施設入居 | 消滅しない | 放棄・合意消滅が必要。または承諾を得て賃貸 |
| 存続期間中に放棄・合意消滅 | 消滅(対価の有無で課税論点) | 抹消登記後に売却。税理士に確認 |
登記・評価・税金・紛争はそれぞれ誰に相談すればよいのか?
配偶者居住権が付いた建物の売却は、複数の専門家の領域が重なります。役割はきれいに分かれます。
| 相談内容 | 担い手 |
|---|---|
| 配偶者居住権の設定登記・抹消登記、相続登記、所有権移転登記 | 司法書士 |
| 相続税、居住権消滅の対価にかかる譲渡所得、みなし贈与の判断 | 税理士 |
| 遺産分割・放棄の合意が調わないなどの紛争 | 弁護士 |
| 物件の調査・査定・媒介・売買契約 | 宅地建物取引業者(当社) |
登記は司法書士、税額の計算と有利・不利の判断は税理士、当事者間で争いになれば弁護士——という線引きは、資格制度で決まっているもので動きません。**この分担は、どこか一社がまとめて引き受ける形ではありません。**それぞれ独立した事業体として、別々にご契約いただきます。当社・当事務所は、紹介料・送客手数料を受け取ることも支払うこともありません。当社は、売却の段取りと市場での売りやすさという不動産の側だけを担い、税金や登記の可否・要否は必ず有資格者にご確認いただくかたちで進めます。相続不動産の売却全般は相続と不動産に整理しています。
よくある質問
Q. 配偶者居住権が付いたままでも、所有権だけを先に売ってしまえますか?
A. 所有権の売却自体はできます。ただし配偶者居住権が登記されていれば買主に対抗でき(民法第1031条)、買主は配偶者が住み続ける負担を引き継ぎます。買主は自分で使うことも明渡しを求めることもできないため、負担付きで買う投資家に限られ、相当の値引きが前提になります。実務では配偶者に居住権を消滅してもらってから売るのが通例です。
Q. 配偶者居住権を配偶者から買い取って、まとめて売ることはできますか?
A. できません。配偶者居住権は第三者に譲渡することができません(民法第1032条第2項)。居住権を消すには、配偶者自身が放棄するか、当事者の合意で消滅させるしかありません。その際、対価を支払うかどうかで税務の扱いが変わるため、税理士にご確認ください。
Q. 配偶者が亡くなれば、建物はそのまま売れますか?
A. 配偶者の死亡で配偶者居住権は消滅します(民法第1036条が準用する第597条第3項)。相続はされません。消滅後は所有者が負担のない所有権として売却でき、抹消登記は司法書士が行います。この消滅は民法どおりのもので、新たな相続税・贈与税は生じないと整理されています(国税庁の質疑応答事例)。
Q. 存続期間の途中で居住権を消すと、贈与税がかかると聞きました。本当ですか?
A. 対価を支払わずに(または著しく低い対価で)居住権を消滅させ、建物所有者が完全な所有権という利益を受けた場合、相続税法第9条により所有者が贈与を受けたとみなされることがあります。逆に配偶者が対価を得た場合は配偶者の譲渡所得の問題になります。どちらも金額の判断は税理士の領域です。当社が課税の有無をお答えすることはありません。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号。第1028条〜第1029条=配偶者居住権の成立、第1030条=存続期間は原則配偶者の終身、第1031条=居住建物所有者の登記義務と対抗要件〔第605条準用〕、第1032条第2項=譲渡できない・同条第3項=所有者の承諾を得た第三者への使用収益、第1036条=第597条第3項〔配偶者の死亡による終了〕等の準用。配偶者居住権は平成30年法律第72号で新設、令和2年〈2020年〉4月1日施行。2026年9月8日参照)
- e-Gov法令検索「相続税法」(昭和25年法律第73号。第9条=対価を支払わないで利益を受けた場合のみなし贈与、第23条の2=配偶者居住権等の評価。2026年9月8日参照)
- 国税庁タックスアンサー No.4666「配偶者居住権等の評価」(配偶者居住権・居住建物・敷地利用権等の相続税評価の計算方法。2026年9月8日参照)
- 国税庁「配偶者居住権が合意等により消滅した場合」等の質疑応答事例(配偶者の死亡・存続期間満了による消滅は民法どおりで課税なし、存続期間中の対価を伴わない合意消滅等は相続税法第9条のみなし贈与、対価を得た配偶者は譲渡所得となる旨。2026年9月8日参照)
※配偶者居住権の消滅にかかる課税(譲渡所得・みなし贈与)の有無と金額、居住権・所有権の評価額は、存続期間、配偶者の年齢、対価の有無、建物・敷地の状況によって変わります。本記事は個別の課税関係や評価額を判断していません。
※配偶者居住権の設定・抹消登記、相続登記、所有権移転登記は司法書士、相続税・譲渡所得・みなし贈与の判断は税理士、遺産分割・放棄の合意が調わないなどの紛争は弁護士の領域です。当社は物件の調査・査定・媒介の情報提供に限ります。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的・税務判断を助言・保証するものではありません。物件の調査・媒介および売買・賃貸借契約は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が、官公署提出書類の作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形で受任します。税務は税理士、登記は司法書士、紛争は弁護士の領域です。紹介料・送客手数料のやりとりはありません。
この記事の執筆者
浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。物件(不動産)と届出(行政手続)の論点を同じテーブルに並べて確認します。詳しい経歴は著者ページをご覧ください。
売る・貸す・持ち続ける——決める前のご相談からで大丈夫です。
相続した実家、海外に住んだまま持っている物件、入居者がいるままの一棟——いまの状況をLINEで一言お送りください。代表(宅地建物取引士)が直接お返事し、売却・賃貸・そのまま持つ場合の見通しを整理します。査定・媒介は四葉不動産株式会社が単独でお受けします。
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