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2026.08.22投資・事業用不動産

クリニックの物件は、契約前に何を確認するのか──用途地域・用途変更・開設届の順番

浦松 丈二

浦松 丈二

代表取締役・宅地建物取引士(四葉不動産株式会社)

プロフィール(士業ドットコム)↗

診療所は用途地域の制限では13地域すべてで建てられます。物件で詰まるのは用途地域ではなく、有床か無床か、用途変更の確認申請の要否、消防用設備の現況、そして開設者が個人か医療法人か。東京都文京区の宅地建物取引士兼行政書士が、契約前に確認できることを条文と自治体の案内から順に整理します。

結論(先に要点):診療所は、建築基準法の用途制限では13すべての用途地域で建てられます。物件で詰まるのは用途地域ではなく、①入院用のベッドを置くか(有床か無床か)②用途変更の確認申請が要るか③消防用設備が既にあるか④開設者が個人か医療法人か、の4点です。この4点は、賃貸借契約を結ぶ前に確認できます。

「あとは物件だけ」と言われて探し始め、内見の段階で止まる。介護事業所で起きることと同じ手戻りが、クリニックでも起きます。本記事は、東京で診療所(無床・19床以下の有床を含む)を開こうとしている医師・歯科医師の方と、医療テナントを受け入れる貸主の方に向けて、契約前に確認できることを順に並べたものです。可否の最終確認は、特定行政庁・所轄消防署・保健所の窓口で行います。

クリニックは、どの用途地域なら開けますか?

建築基準法(昭和25年法律第201号)は、用途地域ごとに建てられる建築物を別表第二で定めています。「診療所」は、最も制限の厳しい第一種低層住居専用地域でも建てられます(同法別表第二(い)項第八号)。第二種低層住居専用地域は(ろ)項第一号で、田園住居地域は(ち)項第一号で、それぞれ(い)項第一号から第九号までを引いています。

一方、「病院」は違います。工業地域では(を)項第六号で、工業専用地域では(わ)項第一号で建築が禁じられ、第一種・第二種低層住居専用地域と田園住居地域では、そもそも建てられる建築物として挙げられていません。

「病院」と「診療所」の分かれ目は病床数です。医療法(昭和23年法律第205号)第1条の5第1項は病院を「二十人以上の患者を入院させるための施設を有するもの」、同条第2項は診療所を「患者を入院させるための施設を有しないもの……又は十九人以下の患者を入院させるための施設を有するもの」と定めています。

用途地域診療所(無床・19床以下)病院(20床以上)
第一種・第二種低層住居専用地域建てられる建てられない
田園住居地域建てられる建てられない
第一種・第二種中高層住居専用地域建てられる建てられる
第一種・第二種住居地域、準住居地域建てられる建てられる
近隣商業地域、商業地域、準工業地域建てられる建てられる
工業地域、工業専用地域建てられる建てられない

用途地域そのものは自治体の都市計画図で調べられます。ただし、地区計画・建築協定・条例による上乗せがある区域では結論が変わることがあります。最終確認は特定行政庁の窓口で行ってください。土地の値づけが用途地域と容積率でどう動くかは「日本の土地値はなぜ『容積率』で変わるのか」に整理しています。

事務所や店舗をクリニックに変えるとき、用途変更の確認申請は要りますか?

ここが、無床と有床で最も大きく分かれるところです。

建築基準法第87条第1項は、「建築物の用途を変更して第六条第一項第一号の特殊建築物のいずれかとする場合」に確認申請の規定を準用すると定めています。その第6条第1項第1号は「別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が二百平方メートルを超えるもの」です。

そして別表第一(い)欄(二)は、「病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎その他これらに類するもので政令で定めるもの」と書いています。

つまり——入院用のベッドを置かない診療所は、別表第一(い)欄の特殊建築物に当たりません。 事務所や店舗から無床診療所へ変える場合、用途変更の確認申請は原則として要らないことになります。

ただし、ここで安心しないでください。確認申請が要らないことと、建築基準法を守らなくてよいことは別です。同法第87条第2項は、用途を変更する場合に第48条(用途地域の制限)などを準用すると定めています。採光・排煙・避難・内装制限といった実体規定も、変更後の用途に応じてかかります。「確認申請が不要」は「工事の中身を誰も見ない」という意味ではありません。

無床診療所有床診療所(1〜19床)
建築基準法別表第一(い)欄の特殊建築物当たらない当たる((二)項)
用途変更の確認申請(第87条第1項)原則不要その用途部分が200㎡超なら必要
病床を設ける手続都道府県知事の許可(医療法第7条第3項)

有床にする場合、医療法第7条第3項が「診療所に病床を設けようとするとき……は、厚生労働省令で定める場合を除き、当該診療所の所在地の都道府県知事の許可を受けなければならない」と定めています。病床は、物件を決めたあとで足せるものではありません。

消防用設備は、契約前に何を見ますか?

消防法施行令(昭和36年政令第37号)別表第一は、診療所を(6)項イに置き、さらに4つに分けています。

区分内容
(6)項イ(1)特定診療科名を有し、療養病床または一般病床を有する病院
(6)項イ(2)特定診療科名を有し、4人以上の患者を入院させる施設を有する診療所
(6)項イ(3)(1)以外の病院、(2)以外の入院施設を有する診療所、入所施設を有する助産所
(6)項イ(4)患者を入院させるための施設を有しない診療所、入所施設を有しない助産所

自動火災報知設備は、同施行令第21条第1項第1号イにより(6)項イ(1)から(3)までは延べ面積に関わらず必要です。無床診療所=(6)項イ(4)は、同項第3号イにより延べ面積300㎡以上で必要になります。

ここに落とし穴があります。 第21条第1項第3号イは「(六)項イ(4)及びニ、(十六)項イ」と並べています。(16)項イは複合用途の防火対象物です。テナントビルの一室を借りる場合、判断の単位はその一室ではなく建物になり得ます。小さなクリニックでも、ビル全体が300㎡以上あれば対象になり得ます。

スプリンクラー設備は、同施行令第12条第1項第1号イにより(6)項イ(1)と(2)が対象です(総務省令で定める構造を有するものを除く)。無床の(4)はここに含まれません。

必要な設備がすでにビルに付いているのか、追加工事が要るのか、費用は誰が負担するのか。これは契約前に所轄消防署へ事前相談して確かめることです。契約後に判明すると、収支計画が動きます。同じ理由で、消防と自治体の確認が契約より先に要る例は「民泊を始められる物件の条件」に書きました。

開設者が個人か医療法人かで、物件の契約はどう変わりますか?

変わります。それも、賃料が発生する時期という形で。

医療法第8条第1項は、臨床研修等修了医師等が診療所を開設したときは「開設後十日以内に」都道府県知事(保健所を設置する市・特別区ではその市長・区長)へ届け出ると定めています。先に開設し、あとから届け出る構造です。

これに対し医療法第7条第1項は、臨床研修等修了医師でない者——医療法人はここに入ります——が診療所を開設しようとするときは許可を受けなければならないと定めています。先に許可、あとから開設です。

文京区の案内(2026年8月22日参照)では、この違いが手順として具体的に書かれています。

個人(臨床研修等修了医師)が開設医療法人が開設
手続開設届開設許可申請 → 許可書の交付 → 開設 → 開設届
時期開設後10日以内許可申請は開設前
実地調査案内に記載なし申請後に実地調査
手数料案内に記載なし19,000円
事前相談必要必要

そして——どちらの場合も、添付書類に「賃貸借契約書の写し」が入ります。 文京区が挙げる必要書類には、土地及び建物の登記簿全部事項証明書(貸借する場合は賃貸借契約書の写しも添付)、敷地の平面図、敷地周辺の見取図、建物の平面図(縮尺100分の1以上)が並びます。

つまり、物件の契約は手続の前提です。医療法人が開設者になる場合、契約から許可書の交付までの間、賃料が発生します。フリーレントをどの時点で持ち出すか、引渡し日をいつに置くかは、この期間を見込んで決めることになります。

なお文京区のページは、開設にあたって「東京都外来医療計画に関する手続き」も確認するよう案内し、保険診療を行う場合の相談先として関東信越厚生局東京事務所を示しています。行政の窓口と受付の運用は変わります。着手時点で当該ページを直接ご確認ください。

契約前に確認する順番は?

順番確認すること確認先
1用途地域と、地区計画・条例による上乗せ特定行政庁(自治体の建築担当)
2有床にするか無床か(病床を置くなら医療法第7条第3項の許可)都道府県
3用途変更の確認申請の要否、検査済証の有無特定行政庁・指定確認検査機関
4消防用設備等の要否と、既存設備の状況所轄消防署
5開設者を個人にするか医療法人にするか保健所(事前相談)
6貸主の承諾(用途・看板・給排水・電気容量・原状回復の範囲)貸主・管理会社
7賃貸借契約の条項宅地建物取引業者

1から5の結論が出る前に契約すると、手戻りの費用は借主が負います。逆に1から5を先に済ませれば、貸主に説明できる材料が揃います。用途地域と消防の論点は、貸主にとっても知りたいことだからです。

賃貸借契約書のどこを読むかは「賃貸借契約書、どこを読めばいいか」に、同じ構造の手戻りが介護事業所で起きる理由は「介護事業所の物件が見つからない本当の理由」に整理しています。事業用物件全般は投資用・事業用不動産、事務所と許認可の関係は会社設立とオフィス選びをご覧ください。

誰に相談すればよいですか?

物件の調査、媒介、売買・賃貸借の契約は、四葉不動産株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)が承ります。診療所開設届・診療所開設許可申請など官公署に提出する書類の作成は、四葉行政書士事務所が承ります。医療法人の設立認可申請に係る書類の作成も同じです。

この2つはそれぞれ独立した事業体です。それぞれ直接ご契約いただきます。 当社・当事務所は、紹介料・送客手数料を受け取ることも支払うこともありません。

登記は司法書士、税務は税理士、紛争は弁護士へ、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。相談は無料です。

よくある質問

Q. 第一種低層住居専用地域の住宅街に、クリニックを開けますか?
A. 建築基準法別表第二(い)項第八号は「診療所」を第一種低層住居専用地域内に建築することができる建築物として挙げています。ただし地区計画・建築協定・条例による制限、既存建物の構造、駐車場や看板の扱いは物件ごとに異なります。可否の最終確認は特定行政庁の窓口で行ってください。

Q. 事務所ビルの一室を無床クリニックにします。用途変更の確認申請は要りますか?
A. 無床診療所は建築基準法別表第一(い)欄の特殊建築物に当たらないため、同法第87条第1項による用途変更の確認申請は原則として不要です。ただし採光・排煙・避難・内装制限などの実体規定は変更後の用途に応じてかかります。工事の内容と物件の状況を、設計者と特定行政庁にご確認ください。

Q. 小さなクリニックでも自動火災報知設備は要りますか?
A. 無床診療所は消防法施行令別表第一(6)項イ(4)に当たり、同令第21条第1項第3号イにより延べ面積300㎡以上で自動火災報知設備が必要です。同号は複合用途の(16)項イも並べているため、テナントビルでは建物全体で判断されることがあります。既存設備の有無を含め、所轄消防署に事前相談してください。

Q. 医療法人で開設する場合、いつ物件を契約すればよいですか?
A. 医療法人による開設は医療法第7条第1項の許可を受けてからになります。許可申請の添付書類に賃貸借契約書の写しが含まれるため、契約が先です。許可書の交付までの期間、賃料が発生します。フリーレント・引渡し日・解約条件をどう組むかは、契約前に整理できます。

Q. 貸主です。クリニックに貸すとき、何を確認しておくとよいですか?
A. 用途地域上の可否、消防用設備等の現況と追加工事の負担、給排水・電気容量、看板の位置、原状回復の範囲の5点です。医療機器の重量や放射線関係の設備がある場合は、床の構造と遮蔽の扱いも論点になります。借主が保健所・消防署への事前相談を済ませているかを聞くと、確認が早く進みます。

この記事の出典(一次情報)

  • e-Gov法令検索「建築基準法」(昭和25年法律第201号。第6条第1項第1号=別表第一(い)欄の特殊建築物200㎡超、第87条第1項=用途変更、同条第2項=第48条等の準用、別表第一(い)欄(二)、別表第二(い)項第八号・(ろ)項第一号・(は)項第一号及び第三号・(ち)項第一号・(を)項第六号・(わ)項第一号。現行条文は令和8年法律第23号による改正・2026年5月27日施行。2026年8月22日参照
  • e-Gov法令検索「医療法」(昭和23年法律第205号。第1条の5第1項・第2項=病院と診療所の定義、第7条第1項=開設の許可、同条第3項=診療所に病床を設ける許可、第8条第1項=開設後10日以内の届出。現行条文は令和8年法律第31号による改正・2026年6月5日施行。2026年8月22日参照
  • e-Gov法令検索「消防法施行令」(昭和36年政令第37号。別表第一(6)項イ(1)〜(4)、第12条第1項第1号イ=スプリンクラー設備、第21条第1項第1号イ及び第3号イ=自動火災報知設備。現行条文は令和7年政令第85号による改正・2025年10月1日施行。2026年8月22日参照
  • 文京区「個人による診療所(歯科診療所)開設届」(開設後10日以内・事前相談・必要書類。ページ更新日2026年4月8日。2026年8月22日参照
  • 文京区「法人による診療所(歯科診療所)開設許可申請・開設届」(開設許可申請は開設前・申請後に実地調査・手数料19,000円。2026年8月22日参照

※用途変更の確認申請の要否は、変更前後の用途、床面積、政令で指定する類似の用途相互間に当たるか、増改築を伴うかによって変わります。本記事は個別の物件について判断していません。
※消防用設備等の設置義務は、防火対象物の用途区分・延べ面積・階数・構造によって変わります。既存設備が現行の基準に適合しているかを含め、所轄消防署への事前相談が必要です。
※各自治体の窓口・様式・手数料・受付の運用は変わります。着手時点で当該自治体のページを直接ご確認ください。保険診療に係る手続は地方厚生局の所管です。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の物件の可否や許認可の取得を判断・保証するものではありません。最終確認は特定行政庁・所轄消防署・保健所の窓口で行ってください。
※物件の調査・媒介および売買・賃貸借契約は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が、開設届・開設許可申請等の官公署提出書類の作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形で受任します。紹介料・送客手数料のやりとりはありません。

この記事の執筆者

浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。物件(不動産)と届出(行政手続)の論点を同じテーブルに並べて確認します。詳しい経歴は著者ページをご覧ください。

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