相続した長屋・連棟式建物は売れる?切り離し・隣家同意・再建築の実務
相続した長屋・連棟式(テラスハウス)建物も売れます。ただし単独で建て替えるために切り離すなら、隣接住戸への構造・雨仕舞いの影響があるため実務上は隣家の同意が要り、界壁の所有関係や建築確認の要否を先に調べます。建築基準法は原則として一敷地一建築物を想定し(施行令第1条)、連なった建物には連担建築物設計制度(第86条)という枠もあります。東京都文京区の宅地建物取引士兼行政書士が、売る前に確認できることを条文から整理します。
結論(先に要点):相続した長屋・連棟式(テラスハウス)建物も売れます。ただし単独で建て替えるために「切り離し」をするなら、隣接住戸への構造・雨仕舞いの影響があるため、実務上は隣家の同意が要り、界壁の所有関係や建築確認の要否を先に調べます。建築基準法は原則として一つの敷地に一つの建築物を想定しており(施行令第1条)、連なった建物には連担建築物設計制度(建築基準法第86条)という別の枠もあります。物件の売却・活用の情報提供までが不動産の範囲で、切り離しの可否・構造判断は建築士に振り分けます。
親から相続した家が「長屋」「連棟」「二戸一(にこいち)」だった——隣と壁がつながっていて、自分の家だけを切り離して建て替えられるのか、そもそも売れるのか、と迷う方は少なくありません。本記事は、連棟式建物を相続して売却か活用かに迷う相続人に向けて、切り離しと隣家同意という構造特有の論点を条文から整理します。切り離しの可否や再建築の可否そのものは建築士・特定行政庁が判断するもので、本記事は売る前に確認できる点を示すものです。
長屋・連棟式建物は単独で売れるのか?
売れます。ただし「どの単位で売るか」で買い手のつきやすさが変わります。
長屋・連棟式建物は、建築基準法上「長屋」に分類される、界壁を接して複数の住戸が連なる建物です。登記の形は物件によって二通りあります。
| 登記の形 | 内容 | 売り方 |
|---|---|---|
| 各戸が別々の一戸(独立した建物として登記) | それぞれ独立した所有権。土地は分筆または共有 | 自分の戸(+土地の持分・分筆地)を単独で売れる |
| 一棟を区分した区分所有建物 | 各戸が専有部分、界壁等は共用部分 | 専有部分を区分所有建物として売る |
いずれの形でも、そのままの状態(連なったまま)で売ること自体はできます。 隣とつながった状態を受け入れる買い手に売るなら、切り離しをせずに引き渡す道があり、費用も紛争リスクも小さくなります。一方、買い手が「単独で建て替えたい」と考えると、後述の切り離しと再建築の可否が価格を左右します。切り離さずに現況で売る場合の考え方は相続した実家は、売るべきか残すべきかに、再建築の可否が絡む物件全般の見方は相続した再建築不可の物件は、売る前に何を確かめるのかにまとめています。
切り離すには隣家の同意と建築確認が要るのか?
隣家の同意は実務上ほぼ必須で、切り離し後の残った建物が基準に適合するかの確認も要ります。
まず界壁の所有関係です。民法(明治29年法律第89号)第229条は、境界線上に設けた境界標・囲障・障壁を相隣者の共有と推定します。ところが第230条第1項は、一棟の建物の一部を構成する境界線上の障壁には第229条(共有推定)を適用しないとしています。つまり長屋の界壁が当然に共有になるわけではなく、所有関係は建築の経緯や構造で決まります。他人の所有部分や共有部分に及ぶ工事を、同意なく進めることはできません。区分所有建物であれば、界壁等は共用部分に当たり、その形状・効用の著しい変更には区分所有法(建物の区分所有等に関する法律。昭和37年法律第69号)第17条第1項により区分所有者・議決権の各4分の3以上の集会決議が要ります。
次に切り離し工事そのものの影響です。切り離すと、支える柱や基礎、界壁が減り、残った隣家の耐震性・防水(雨仕舞い)・遮音に影響します。このため、切り離しの覚書(工事範囲・原状回復・費用負担・後日の補修)を隣家と結ぶのが実務の通例です。
| 論点 | 確認すること | 根拠・担い手 |
|---|---|---|
| 界壁の所有 | 共有か・単独所有か・共用部分か | 民法第229条・第230条第1項/区分所有法第17条 |
| 隣家の同意 | 工事範囲・原状回復・補修の覚書 | 当事者間の合意(まとまらなければ弁護士) |
| 構造・耐震 | 切り離し後の残存建物が構造上もつか | 建築士 |
| 建築確認 | 切り離しや再建築で確認申請が要るか | 建築基準法第6条/特定行政庁・建築士 |
| 敷地 | 一敷地一建築物(施行令第1条)や連担建築物設計制度(第86条)の扱い | 特定行政庁 |
建築基準法(昭和25年法律第201号)は、施行令第1条第1号で「敷地」を一つの建築物(または用途上不可分の二以上の建築物)の一団の土地と定義し、原則として一つの敷地に一つの建築物を想定します。連なった建物を一つの敷地に載せたままにするか、切り離して各戸を独立の敷地にするか、あるいは第86条の連担建築物設計制度(複数の建築物を同一敷地内にあるものとみなす特定行政庁の認定)を使うかで、扱いが変わります。切り離しの可否・方法・残存建物の適法性は、建築士と特定行政庁が判断する領域です。当社は、切り離しを前提にするか現況で売るかを、査定と買い手像から一緒に考えます。
相続人が複数のとき、売却の合意はどう作るのか?
まず相続登記で名義を整え、売るなら換価分割か持分売却のどちらで進めるかを決めます。
相続財産は、遺産分割が終わるまで相続人の共有です(民法第898条)。共有物である不動産を「まるごと」売るには共有者全員の同意が要り、遺産分割(民法第907条)で誰がどう取得するかを決めます。話し合いがまとまらないときは家庭裁判所の調停・審判へ、共有関係の解消は共有物分割(民法第258条)へ進み、争いになれば弁護士が担います。売却して代金を分ける「換価分割」を選ぶことも多く、複数相続人の合意形成の考え方は相続した共有の不動産を売るに、相続した不動産全体の進め方は相続した不動産のご相談にまとめています。
売る前提でも相続登記は避けて通れません。不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2第1項は、相続により所有権を取得した者に、自己のために相続の開始があったことを知りかつ所有権を取得したことを知った日から3年以内の申請を求めています(令和6年4月1日施行)。義務化と売却の順序は相続登記をしないまま実家は売れますかに書きました。連棟の一戸を単独で相続・売却する場合でも、名義が亡くなった方のままでは買い手・金融機関が動きにくく、まず登記を整えるのが順序です。
ご自身のケースについて相談したい方へ
物件探しや売却について、状況をお聞かせください。
切り離し判断・登記・税務・紛争は誰に振るのか?(振り先の整理)
物件の売却・活用の情報提供までが不動産の範囲です。ここから先は、それぞれの専門家に別々にご依頼いただきます。
| 役割 | 担い手 |
|---|---|
| 売却・活用の相談、査定、切り離しの要否をふまえた売り方の設計、媒介 | 四葉不動産株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号) |
| 遺産分割協議書・戸籍の収集など書類の作成 | 四葉行政書士事務所 |
| 切り離しの可否・構造・耐震の判断、再建築の設計、建築確認 | 建築士 |
| 相続登記(所有権移転) | 司法書士 |
| 建物の分筆・滅失・表題部の変更の登記 | 土地家屋調査士 |
| 相続人間の争い・隣家の同意がまとまらない紛争 | 弁護士 |
| 譲渡所得税・取得費 | 税理士 |
四葉不動産株式会社と四葉行政書士事務所は、それぞれ独立した事業体です。それぞれ直接ご契約いただきます。 当社・当事務所は、紹介料・送客手数料を受け取ることも支払うこともありません。建築士・司法書士・土地家屋調査士・弁護士・税理士へも、それぞれ直接ご依頼いただく形をご案内します。相談は無料です。
よくある質問
Q. 隣の同意が得られなくても、自分の家だけ切り離して建て替えられますか?
A. 界壁が共有や隣家の所有部分に及ぶ場合、また切り離し工事が隣家の構造・防水に影響する場合は、同意なく進めると損害賠償や差止めの対象になりえます。実務では工事範囲や補修を定めた覚書を交わしてから着工します。同意が得られない状態での可否は、界壁の所有関係を確かめたうえで弁護士にご相談ください。当社は切り離しをせず現況で売る道もあわせてご提案します。
Q. 長屋の一戸だけを、切り離さずに売ることはできますか?
A. できます。各戸が独立して登記されていれば自分の戸(+土地の持分・分筆地)を、区分所有なら専有部分を、連なったまま売れます。切り離しをしない分、費用も隣家との調整も小さくなります。買い手は連棟であることを前提に検討するため、価格や買い手像は現況をふまえて設計します。
Q. 切り離すと残った隣の家が「違反建築」になることはありますか?
A. あります。切り離しで接道や採光、構造の条件が変わり、残った建物が現行基準に適合しなくなる、あるいは既存不適格の状態が崩れることがあります。切り離し後の残存建物が基準に適合するかは建築士が確認します。適合しないおそれがあるなら、切り離し自体を見送る判断も含めて検討します。
Q. 相続した連棟の家、まだ相続登記をしていません。先に売れますか?
A. 名義が亡くなった方のままでは、買い手・金融機関が動きにくく、実務上は先に相続登記を入れます。相続登記は令和6年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が求められます(不動産登記法第76条の2)。遺産分割がまとまっていない場合の進め方も含め、登記は司法書士、協議書の作成は行政書士にご相談ください。
この記事の出典(一次情報)
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号。第229条=境界標等の共有推定、第230条第1項=一棟の建物の一部を構成する障壁には第229条を適用しない、第249条以下=共有、第258条=共有物の分割、第898条=相続財産の共有、第907条=遺産の分割。2026年9月19日参照)
- e-Gov法令検索「建築基準法」(昭和25年法律第201号。第6条=建築確認、第43条=接道義務、第86条=一団地・連担建築物設計制度(特定行政庁の認定)。施行令第1条第1号=敷地の定義。2026年9月19日参照)
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」(昭和37年法律第69号。第17条第1項=共用部分の変更は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の集会決議。2026年9月19日参照)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(平成16年法律第123号。第47条・第74条=建物の表題登記・所有権保存登記、第76条の2第1項=相続登記の申請義務・3年以内。2026年9月19日参照)
- 法務省「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等」(相続登記の申請義務化=令和6年4月1日施行。2026年9月19日参照)
- 国税庁 タックスアンサー(譲渡所得・取得費関係)(譲渡所得・取得費の考え方。具体的な税額・取得費は税理士にご確認ください。2026年9月19日参照)
※長屋・連棟式建物の切り離しの可否、残存建物の構造・耐震の適否、再建築の可否は、界壁の所有関係・敷地・接道・構造によって物件ごとに異なります。判断は建築士および特定行政庁が行うもので、本記事は一律の可否を断定していません。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的判断を示すものではありません。切り離しの可否・構造判断・建築確認は建築士、相続登記は司法書士、建物の分筆・滅失・表題部の登記は土地家屋調査士、相続人間や隣家との紛争は弁護士、譲渡所得の申告は税理士が行います。
※物件の調査・媒介および売買契約は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業)が、遺産分割協議書等の書類の作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ独立した事業体として別々にご契約いただく形で受任します。紹介料・送客手数料のやりとりはありません。
この記事の執筆者
浦松 丈二(うらまつ・じょうじ)——宅地建物取引士(東京都知事登録 第293544号)・行政書士(登録番号 第25087022号)。四葉不動産株式会社 代表取締役(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)/四葉行政書士事務所 代表。東京都文京区小日向・茗荷谷駅徒歩約5分。相続した不動産について、契約書と登記と期限を同じテーブルに並べて確認します。詳しい経歴は著者ページをご覧ください。
売る・貸す・持ち続ける——決める前のご相談からで大丈夫です。
相続した実家、海外に住んだまま持っている物件、入居者がいるままの一棟——いまの状況をLINEで一言お送りください。代表(宅地建物取引士)が直接お返事し、売却・賃貸・そのまま持つ場合の見通しを整理します。査定・媒介は四葉不動産株式会社が単独でお受けします。
LINEは代表・浦松丈二に直接つながります。24時間受付・順次お返事します。
東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅 徒歩5分|10:00〜18:00(定休:火・水)
