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2026.09.15離日・売却

査定額がいちばん高い会社に頼めばいいのではないのか? —— 査定と札は、別のものです

浦松 丈二

浦松 丈二

四葉不動産株式会社代表取締役・宅建士・行政書士

Profile (samurai.co.jp) ↗

査定額は「この値段なら売れると思う」という意見であって、買う約束ではありません。宅地建物取引業法は、宅地建物取引業者が価額または評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないと定めています(第34条の2第2項)。根拠を聞くことは、依頼者の権利です。一方「札」は、買取業者が「この金額で買う」と手を挙げた金額で、意見ではありません。出国までの日数が限られている売却では、査定書を待つ時間がないため、札を集めます。高い査定額を出した会社に頼んだのに、後から下げられる——この業界で最も古いトラブルの構造と、媒介契約を結ぶ前に確認しておくこと(有効期間・指定流通機構への登録・業務処理状況の報告)を、条文で整理します。文京区小日向・茗荷谷駅徒歩5分。

査定額は「売れると思う」という意見で、買う約束ではありません。宅地建物取引業法は、意見を述べるとき根拠を明らかにするよう求めています(第34条の2第2項)。「札」は買う人が実際に出した金額です。出国まで日がないなら、集めるのは札です。

このページは、査定額という数字の性質を扱います。どうやって複数の業者に競わせるのかという段取りは出国前の不動産売却の特集に、免許のある会社かどうかの見分け方は別のコラムにまとめています。

最終更新:2026年9月15日

査定額とは、何の数字なのか?

意見です。 宅地建物取引業法は、媒介契約を結んだときに交付する書面の記載事項として「当該宅地又は建物を売買すべき価額又はその評価額」を挙げ(第34条の2第1項第2号)、続く第2項でこう定めています。

宅地建物取引業者は、前項第2号の価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない。

法律自身が「意見」と呼んでいます。売れることの保証でも、買うことの約束でもありません。

これは業者を疑えという話ではありません。査定額とは本来そういう性質の数字だ、というだけのことです。同じ物件でも、根拠の置き方——直近の成約事例をどう選ぶか、リフォームをどう見るか、売却までの期間をどれだけ見込むか——で、数字は動きます。

査定額の根拠は、聞いてもいいのか?

聞いていいどころか、業者の側に明らかにする義務があります。

第34条の2第2項は「明らかにしなければならない」と書いています。努力義務ではありません。ですから、次のように聞いて構いません。

聞くことなぜ聞くのか
その金額の根拠になった成約事例はどれですか「売り出し価格」ではなく「実際に成約した価格」を見ているかを確かめる
その事例と私の物件の違いは、どう調整しましたか階数・向き・専有面積・築年・管理状態の差の織り込み方
その価格で、どれくらいの期間を見込んでいますか「1年かければ届く価格」を「今の価格」として出していないか
売れなかった場合、次にどうしますか値下げの前提が最初から織り込まれていないか

答えられない、あるいは「経験です」で終わる場合は、それ自体がひとつの情報です。

では「札」とは、何が違うのか?

札は、意見ではなく金額の提示です。 買取業者が「この金額なら当社が買います」と手を挙げた数字を、当社では札と呼んでいます。

査定額札(買取業者の提示額)
何の数字か売れると思う価格についての意見この金額で買うという提示
出す人媒介する業者(自分は買わない)買う人(自分が買う)
保証ない条件が整えばその金額で決済に進む
出るまでの日数数日数日(資料が揃っていれば)
高く出す動機依頼を取りたいない(高く出せば自分が損をする)

最後の行が、いちばん大事です。

査定額を高く出すと、その業者は依頼を取れます。損はしません。札を高く出すと、その業者は自分の資金でその金額を払うことになります。 だから札は正直な数字になりますし、複数社が同じ日に入れれば、それが今のこの物件の市場の答えになります。

なぜ、高い査定額がかえって危ないのか?

順番に見ると、こうなります。

段階何が起きるか
13社に査定を頼み、いちばん高い金額を出した会社に媒介を依頼する
2その金額では買主が現れない(もともと届く見込みの薄い金額だった)
31か月後、「反響が弱いので」と値下げを提案される
42回目、3回目の値下げ。出国日が近づく
5最後は、他社の当初の査定額より低い金額で売ることになる

時間を失うことが、いちばんの損失です。 出国日が動かせない売主にとっては、価格以上に重い。特集の第1部ケース4(直前減額型)は、この構造が最終盤で表に出たものです。

見分け方はひとつです。「なぜその金額なのか」を聞いてください(前掲・第34条の2第2項)。根拠が薄いまま数字だけが高い場合は、その数字は依頼を取るための数字である可能性があります。

媒介契約を結ぶ前に、何を確認すればいいのか?

宅地建物取引業法は、媒介契約について依頼者を守る規定をいくつも置いています。知っていれば使える道具なので、表にしておきます。

内容条文
媒介契約を締結したら、遅滞なく書面を作成・記名押印して交付しなければならない(依頼者の承諾を得て電磁的方法での提供も可)第34条の2第1項・第11項
書面には、売買すべき価額、他社に重ねて依頼できるかどうか、有効期間と解除、指定流通機構への登録、報酬などを記載する第34条の2第1項第1号〜第8号
価額について意見を述べるときは根拠を明らかにする第34条の2第2項
専任媒介契約の有効期間は3か月を超えられない(超える定めをしても3か月になる)第34条の2第3項
専任媒介契約を結んだら、指定流通機構(レインズ)に登録しなければならない。登録を証する書面は遅滞なく依頼者に引き渡す第34条の2第5項・第6項
申込みがあったときは、遅滞なく依頼者に報告しなければならない第34条の2第8項
専任媒介は2週間に1回以上、専属専任媒介は1週間に1回以上、業務処理状況を報告しなければならない第34条の2第9項
これらに反する特約は無効第34条の2第10項

とくに使えるのが下から3行です。「申込みがあったのに知らされない」「連絡が来ない」は、法律で決まっていることが守られていないという話であって、相性の問題ではありません。

なお、買取業者に競わせる方式でも媒介契約は結びます。 当社が受け取る報酬は宅地建物取引業法の上限の範囲内で、媒介契約書に明記します(第34条の2第1項第7号、第46条、報酬告示)。

出国前の売却では、どちらを見るのか?

札です。 理由は3つあります。

#理由
1時間。査定額を信じて売り出し、反応を見て値下げする進め方には、最低でも数か月かかります。出国日が決まっている売主に、その時間はありません
2確実性。査定額は「売れると思う価格」であって、決済日を約束しません。札は、条件が整えば決済に進みます
3比較可能性。同じ日に同じ資料を渡して集めた札は、そのまま横に並べて比べられます

そのうえで、正直にお伝えしておくことがあります。買取業者の札は、市場相場より下がります。 買取業者が通常求める決済期間は3か月程度で、「短期間で、現金で」は業者側に無理を頼む条件だからです。これは誰に頼んでも避けられません。

避けられるのは、下がり幅のほうです。 どう抑えるかは出国前の不動産売却の特集に書きました。

時間に余裕がある場合は、話が変わります。査定額の根拠を確かめたうえで通常の仲介で売るほうが、手取りは大きくなります。どちらが向いているかは、出国までの日数で決まります。

この記事の根拠

内容根拠
媒介契約締結時の書面の作成・記名押印・交付義務と記載事項(価額、他社への重ねての依頼の許否、建物状況調査のあっせん、有効期間と解除、指定流通機構への登録、報酬ほか)宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第34条の2第1項第1号〜第8号
価額または評価額について意見を述べるときの根拠明示義務同法第34条の2第2項
専任媒介契約の有効期間(3か月を超えることができない)・更新同法第34条の2第3項・第4項
指定流通機構への登録義務・登録を証する書面の引渡し同法第34条の2第5項・第6項
申込みがあったときの報告義務同法第34条の2第8項
業務処理状況の報告義務(専任媒介は2週間に1回以上、専属専任媒介は1週間に1回以上)同法第34条の2第9項
上記に反する特約の無効同法第34条の2第10項
書面交付に代わる電磁的方法による提供同法第34条の2第11項・第12項(2021年デジタル社会形成整備法により新設)
報酬の上限同法第46条、報酬告示

本ページは一般的な情報提供です。個別の物件の価格や、どの売り方が適しているかは、物件の状態と出国までの日数によって変わります。個別の税務判断は税理士、登記は司法書士が行います。

不動産の媒介は四葉不動産株式会社(宅地建物取引業 東京都知事(1)第113304号)が、許認可申請書類の作成は四葉行政書士事務所が、それぞれ別の契約としてお受けします。税務は税理士、登記は司法書士、紛争は弁護士におつなぎし、それぞれご本人と直接ご契約いただきます。当社が紹介料を受け取ることはありません。

この記事の著者 浦松 丈二|四葉不動産株式会社 代表取締役・専任宅地建物取引士。行政書士。元毎日新聞中国総局長(記者歴34年)。中国総局長として中国や台湾、タイに駐在しました。社会保険労務士試験合格(2026年9月開業予定)。

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